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133.それぞれの配達

 『火薬』を使う『火遁の術』は賞金首?標的にされかねない。まき一本すら大事な貧困にあえぐ戦国時代において。“放火”を行い財貨を灰にする火遁使いなど敵味方から嫌われ、狙われかねません。“略奪放火”は戦の定番なのに、“忍者の放火”はダメというのは不公平・理不尽(ダブルスタンダード)な気もしますが。

 煙はともかく火を使って惑わし逃げる火遁の術。そんな修練をする暇があるなら体術でも鍛えたほうがいいと思うのです。


 だからと言って忍者と『火』が無縁とは思いません。むしろ素人に『火』を使わせる戦国武将は大成しない。専属の忍者(信用できる者)に『火』を管理させるのは武将の必須条件だと愚考します。

「予測演算を完了・・・それでは頼む」


 「「「「「かしこまりました、イセリナ様!」」」」」


 スラムに作られた臨時の拠点。そこで聖賢の御方(イリス)様を中心に『野菜の肉巻炙り(アレンジクレープ)』を作ってから。

 〔ソレをスラムに押し寄せてくる正市民に配って終わり〕・・・というわけにはいかない。


 結局、原因は不明のままだが。『牛の丸焼き』が振る舞われていることを何故か市民が知り。その調理現場であるスラムへやって来る彼らをを押しとどめる。様々な酒場、食堂に人の流れを誘導し分散させる。

 そのためには単に“金貨の袋を振り回す”だけでは足りない。酒代・食事代をタダにするだけでは原因不明な〈正市民が嫌悪しているはずのスラムに流入した〉元凶いんぼうに対抗できない。


 そのためには迅速に相手の意表をつく一手をさし、敵の対応力を超える。ひき肉を皮状へ加工(ちょうり)するのにかなりのパワーが必要な『アレンジクレープ』という、珍しい料理が出来上がったら。次はそれらを効率的に活かさなければならない。

 

 「行くぞっ!」『『『旋風閃』』』「気をつけろよ」「誰に言っている」


 こうしてシャドウたちは『アレンジクレープ』をつめた背負い籠をかかえて各所に跳んだ。




 「こんにちは。店長さんいますか」


 「貴様か。今日はいったい何の用だ」


 下級シャドウの汐斗せきと。彼らと食堂、酒場にはそれなりのつながりがある。

 補給物資を活かす『調理技術』を重要視する聖賢の御方(イリス)様に仕える者たちにとって。食堂、酒場の情報りょうりは宝の山に等しく。食材の価格情報は予想みらい、外れた予想かこ現状いまのどれも重要な数字であり。

 対価として周辺の掃除、水の浄化を行うのに加え。情報料として珍しい食材を格安で持ち込むシャドウとはそれなりの関係を築いている。


 「今日の食事代をタダにする。政庁が代わりに払うという話は聞いていますか?」


 「ああ、聞いている。だがうちは俺と手伝い一人で回している小さな酒場だ。いきなり客が押しかけてこられても迷惑だぞ」


 「すみません。お店には迷惑をかけます」


 タダ飯だからと言って不文律はある。“秘蔵(高額)の酒を俺だけに寄こせ”などというたぐいの注文は論外だろう。とはいえ酔っ払い、ゴロツキにそれを説明するほど汐斗たちは暇ではない。


 「勘定の方法はお任せします。チンピラにはシャドウの名前を出してもらってかまいません」


 「・・・・・お人好しがすぎる。今日の値段りょうりだけ10倍にするなどという無茶苦茶をされたらどうするつもりだ」


 「それは・・・困りますね」


 お互いそんなことをしないということは理解している。とはいえチンピラ、エセインテリに節度を求めるのは不毛と同義であり。奴等には相応の対策が必要だろう。


 「ふん。ちっとも困ってないようだが。それで今日は何の用だ」


 「少し相談がありまして。店主どのにはこの料理の味付けについて助言をいただきたいのです」


 「ほう・・・」


 光術の腕甲改め、光術の包装紙?でくるまれた『野菜の肉巻炙り』を汐斗は取り出す。そうして光の術式に針を突き立てれば、ほのかに温かい料理が姿を現した。


 「これは聖賢の御方様が自ら料理の腕をふるわれ・・・」


 「能書きはいい。まずは食わせろ」


 汐斗の長ったらしい口上を断ち切り、店の主は『肉巻』をかみきる。手の平サイズのはずなのだが巨漢の重騎士たちが基準の大きさらしい。それを一口ほおばってから、味を吟味するように料理人は咀嚼そしゃくしていく。


 「店で作るのは難しい品か?このままでも前菜としていけるが・・・味付けによってはメインにもなれる。店に負担をかける迷惑料れいぎということか」


 その後、汐斗はウァーテルに住む者が好む、最新の味付け(りょうりのひみつ)を教えてもらい。仕事でなく、必ず私用で訪れるよう店の主に命じられて。


 『野菜の肉巻炙り』を想定外の本数(ぜんぶ)、店に置いていくはめになった。職人気質(かたぎ)だと思っていた店主は普通に交渉能力もあると。若僧のシャドウはこの日、初めて知った。





 スラムの一画にある場末の酒場。そこに『野菜の肉巻炙り』を配達にきたライゾウは思った。


 「帰りたい」・・・・・と。


 日も暮れぬうちから喧騒けんそうと酒の匂いが漂ってくる。“タダ酒、タダ飯が食える”ということで客が押し寄せたのか。あるいは儲けのチャンスと考えて、店主が客に声をかけたのか。


 詳細は知らない。知る気にもなれないが、はっきりしていることが一つ。


 〔こいつらにお館(イリス)様の料理はもったいない〕ということだ。下級シャドウたちでは香りを楽しむこともできない。お館様(至高)の手料理をライゾウはかかえており。それらが有象無象な酔っ払いたちの胃袋に消えてなくなる。


 こんな不条理が許されていいのだろうか。


 「・・・ッ!」


 「あ・・・」


 そんなことを考えていたせいだろう。ライゾウが酒場の扉を開けた途端に、飛んできた料理が顔面を直撃する。普段、反応する利き腕は『肉巻』が入っている背負い籠をかばい。もう片方の手は空の皿を持っていた。


 「ギャハハ、わりぃ、ワリィーーー」「ッ!?」「ノ・ロ・マ~~」「おいっ!コイツは・・・」


 「店主はいるか!」


 シャドウたるもの常に冷静でいなければならない。まして今は緊急任務中なのだ。感情のまま暴れるなど下の下というもの。そう自らに言い聞かせながら、ライゾウはカウンターの席へと跳ぶ。


 「へいっ!ただいまっ!!」


 「繁盛していて大変にケッコウなことだ」


 「ヘイ、おかげさまで」


 「これは聖賢の御方様からの祝い品だ。くれぐれも有効に活用してくれ」


 「・・・ありがとうございます」



 〔金じゃないのか〕一瞬、店主の顔によぎった失望の色をライゾウは見逃さず。

 このまま〔『肉巻』を持ち帰ってやろう〕という誘惑にかられた。こんな〔酔っ払いたちにお館様の料理はもったいない〕と心底思う。


 だから反応が遅れてしまった。


 「おいっ!?貴様、何してやがる!」


 「へっ!?煮込みの具材じゃないんで?」


 垂涎の御馳走が店主の手によって、大鍋の中に投入される。肉の皮でくるまれ炙られ、口福をもたらす『野菜の肉巻炙り』がごった煮の鍋に消えていく。

 〔そういう食べ方をするんじゃない!〕〔そんな風に入れたら鍋の味が変わってしまう〕


 色々と言いたいことがあるものの、全ては手遅れ。

 というか〔見ればわかるだろう〕と安直に考え。『野菜の肉巻炙り』の説明を怠ったライゾウが全面的に悪い。そもそも食べ方は自由だし。ライゾウは各店の調理方針に口出しできる立場ではない。

 

 そう自分に言い聞かせるライゾウに対し、店主がおっかなびっくり話しかけてくる。


 「あの~、旦那?」


 「何でも無い。それより味を調整するための『塩』も持ってきた。くれぐれ(・・・・)も有効に活用してくれ」


 「へい、そりゃあもう!」


 店主の目を見る限り、『塩』イコールカネにしか見えていないのは明らかで。


 〔殴りたい。あるいは料理勝負を挑んで面子をつぶしたい〕とは思うものの。ライゾウは無言で店から立ち去るしかなかった。


 




 都市ウァーテルの一画。風俗店が集中するエリアへ身なりを整えたシャドウが来訪した。

 彼の名はサヘル。色街を担当する中級シャドウだ。


 悪徳の都ウァーテルを攻略した際、問題は数あれども。その中で一番厄介だったのは風俗業に関することだろう。

 聖賢の御方(イリス)様が率いる軍団は女性主導であり。そのため性風俗は二重の面で攻撃対象となり得る。


 “女を食い物にする汚らわしい場所”“裏組織の重要な資金源の一つ”


 感情・実利の両面で色街は新しいウァーテルに要らない。よって聖賢の御方様に仕える者たちは当然、色街を破壊するものと考えていた。即日、女性たちを解放するのは不可能でも。様々な工作を行い娼館を潰すだろうと考えていたのだが。


 「サヘル君を風俗店の担当に命じる」


 お館様の一言によりサヘルは中級シャドウに昇格し。今だ変わらず色街はウァーテルに軒を連ねており。


 「サヘル様!よくいらっしゃいました」


 「ああ、よろしく頼む」


 すぐに破綻すると思われた。破綻と同時に色街への攻撃が始まるはずだった、サヘルによる風俗店の仲介役は、何故か今でも続いていた。


 いくさでなくとも『松明たいまつ・灯火』の管理は重要事項です。たいていの者は暗くなったら眠るのが常識の戦国時代ですが。権力者までソレをやったら、夜襲・賊に忍び込めと言っているに等しく。

 〔小雨なら消えない松明〕ぐらい用意できない武将は“無能”あつかいされる。それぐらい物騒なのが戦国であり。松明を維持、管理する火の専門にんじゃは必須だと妄想します。


 まあこれに関しては専属の武士、兵法者が代わりに行ってもいいでしょう。ただしその場合、天下取りをする以前に領土拡張の野望は捨てるべきで。城砦にこもって一生すごすといいでしょう。


 「若いときは平気だったが、年をとって腹が弱くなった。戦場はつらい」

 「知略に優れるが、身体が弱い家臣がいる」

 「病にかかった武将が無理をおして戦場にきている」


 この状況に対策を取らない。『火』をおこして戦場でも【温かい食事】を提供できないトップはクビにすべきです。というか普通に滅亡フラグでしょう。

 他にも○河で寒空に凍える雑兵たちが聖域を壊して燃料を得ようとする・・・というシーンがありましたが。『火』の管理はまさに軍勢の死活問題なわけで。


 たいていの状況で『火』をおこせる。『火種ひだね』を秘かに(・・・)維持できる忍者は、半端な密偵より有用だと愚考します。火炎攻撃(ほうか)などやってる場合ではありません。

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