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126.饗宴の不穏

 かつては『土遁の術』イコール『地中移動』のモグラ忍術と言っても過言ではありませんでした。


 しかし地面を掘り進むことは容易ではありません。それが可能なら地中を進む忍者によって鉱山開発が行われる。もしくは隠し鉱山をことごとく発見されるでしょう。

 だから地中移動の『土遁の術』は創作忍術というもある。『忍者の疾走』と同様に他国、地質を知らない土地で使うのは困難だと思うのです。


 ただし忍者の拠点、地質を知っている領域なら『忍者工兵(どとんのじゅつ)』も使いようがあるでしょう。そのためには単に地質を知っているだけでは足りません。

 秘密の地下通路とまではいかなくとも。地面に穴を掘り。それを隠蔽していざ敵が来たときの隠れ家にする。要は『落とし穴にフタ』をして、それを味方忍者だけ(・・)が使えるようにする。

忍者『屋敷』ならぬ、忍者『庭園・裏山・結界』を作る。


 それが『土遁の術』の一部だと愚考します。

 下級シャドウのウェアルvsデバフをかけられた肉牛。勝敗が確定した“茶番”の闘牛は終わったわけだが。

 〔それじゃあ解散〕とするわけにはいかない。団長閣下(イセリナ様)は先程まで“盗賊狩り”にかこつけて〔スラムを破壊〕すると言っていたのだ。


 穏健策でいくなら、スラムの住民たちへ人気取りをする。わかりやすくアメを与えることも必要であり。

 よってゴルンたち陸戦師団の重騎士たちは炊き出し兼『宴』の準備に取りかかっていた。


 『『『『ランドランダー!』』』』


 イセリナ団長を護衛する二名以外の重騎士たち半数が身体強化を行い、茶番の舞台だった檻を破壊していく。“闘牛モドキ”を行うため頑丈に作られた格子がゴルンたちの怪力によって折り曲げられ。

 肉牛を丸々一頭焼くための焼き台・肉を吊るすフレームへと加工されていく。


 金属製の格子がひしゃげる音が鳴り響き。それを目の当たりにするスラムの住民たちたちは声も出ない。その様子にゴルンたちは自尊心がわずかに満たされるものの。大半の正市民が一生食べられない牛の丸焼き(ごちそう)を、不法スラム居住者たちが炊き出しで食べるのは不公平に感じた。



 先程までは


 「急げっ、モタモタするなっ」「ウォォォーーー」「ふぬ~~~」


 御馳走が出される炊き出し兼『宴』の場。その空間は現在、とても不穏な空気が流れていた。


 「・・・・・」


 『ライトアーマー!』


 周囲に重騎士の力を示すために作られた、元は檻だった肉を吊るす骨組み。素人仕事のそれに装甲強化の術式をかけて補強する。これで宴の最中に焼き台が崩れるということは無いだろう。


 「よしっ、焼き台が完成したぞっ」

 「そのぐらいで喜ぶなっ!吊るせっ、牛を吊るすぞ!」

 「手伝います」


 ライバル派閥のシャドウが協力を申し出る。イスケと名乗った下級シャドウの指示に従い、まずは牛の巨体を解体しやすいように吊り上げた。階級的には下のシャドウだが、指揮をするのに不満の声をあげる愚か者などこの場にいない。



 『シャインマテリアル』


 「「「「「「「「「「ッ!!」」」」」」」」」」「・・・・・」


 いつもは至高の旋律まじゅつであるイセリナ団長の声が冷たく響き。光の術式が展開されていく。

 『準備された術式(シャインマテリアル)』イセリナ団長の偉大なる魔力によって光術を増強、改造する魔導の術だ。精密・速さを低下させる代わりに、範囲・持続性を大幅に高める。

 団長閣下はそう仰られるが。重騎士は無論のことシャドウ一族、魔術師団の誰もその言葉を信じていない。夜の災害現場を照らし、モンスターマーチを誘導、殲滅した『シャインマテリアル』。

 数々の偉業を成し遂げたイセリナ団長はもっと評価されて然るべきだろう。


 しかし現在、イセリナ団長は不機嫌な感情を隠そうとせず。用途不明の『シャインマテリアル』は不気味な怪光を放っている。


 「ッ・・・あの、団長閣下」


 「別に貴官たちに怒ってなどいない」


 「ホッ・・・ゴホン。ただいまの『シャインマテリアル』はどのような目的でお使いになられたのでございましょう?」


 「・・・光術模様モザイクで牛を解体する光景を観衆から隠しただけよ。大量の血や内臓に接し馴れていない者たちには食欲の失せる光景だからね」


 さすがは団長。その深謀遠慮は我々、凡夫の及ぶところではない。本来なら“不機嫌”の感情を見せることなどあり得ない御方なのだが。現在、ある人物の来訪により怒気を放出なさっている。


 

 「ワッタシはリョ~リのメイドさん~。美味しいス~プをつっくりましょ~」


 楽しく鼻唄を口ずさむその御方はイセリナ団長にそっくりの容姿をしていた。身長はほぼ同じで髪色は見知った金髪を結ってまとめており。エプロンドレスを身にまとい、普段の騎士姿からは想像もつかない・・・・・・・・・・ウソです。

 容易に推測できるし、目撃した件の箝口令をしかれたことも初めてではない。瞳の色を確認しなくとも偽メイドの正体が聖賢の御方(イリス)様なのは明らかだ。


 『()、・、()、・~~~!』


 「「「「「ッ!?」」」」」


 『・・・(イマノ)ボ・・・・・・・・・~。・・・・・・・・・・・ラナ~・』


 一定方向から見ないと読めない『フォトンワード』がC.V.御姉妹の間で飛び交う。

 ゴルンたちはうっかりその内容(口論)を認識しそうになり。素速く目をそらし、牛を丸々一頭解体する作業に没頭した。


 「・・・・・(ハァ)」


 「ッ!」「「「「「・・・・・ッ」」」」」


 頼りの従士C.V.マイア殿はため息をついて首をふり。ゴルンたちは一縷の望みを託してスラムの住民たちに目線を送る。


 「まだかっ、まだ焼けないのかっ!」「牛の丸焼きなんて初めてだぜ」「ゴクッ・・・・・」


 しかし重騎士たちの望みに反し、集まった人々が逃散ちょうさんする気配はない。彼らが団長たちの圧力に怯え逃げ出せば。この炊き出し兼『宴』が中止になれば、姉妹喧嘩?も終了になるかもしれないのに。

 よっぽど振る舞われる牛肉が楽しみなのだろう。集まっている人々は逃げるどころか増えていた。


 「血抜きを始めます!」


 「いいよ~『錬金光術アルケミックライト』」


 そんなゴルンたちの横で牛の解体作業が異常な速さで進んでいく。イスケ(シャドウ)が血管に『気泡』を侵入させ血を押しだし。さらに魔術の光を付与することで血液の凝固を阻害し、『気泡』による血抜きを促進・継続して行えるようにする。

 仕組みは知っているが、ゴルンたち重騎士が真似できる術式ではなかった。


 「血抜きが完了しました」


 「それじゃあ火の準備をお願い。ボクは内臓モツの処理をする。

  重騎士君からは牛の骨を砕く係が一人。他の者は住民のみんなを年齢ごとに四列に並ばせて」


 「年齢層ごとにですか?」


 「ウン、ソウダヨ

 『実際は孤児の集団、家族連れ、穏健なお一人様。そして割り込みする不穏分子ゴロツキを隔離するよう四列に並ばせて』」


 口のセリフとは裏腹な内容がお館(イリス)様のフォトンワードによって指示される。それに従って一斉に人員が動き出し。


 『ほら、イセリナ。これで「アルゴスドゥームズ」を永久封印にした貸しはナシにするから』


 『承知しました。この宴が姉上の息抜きになるならやむを得ません。

  私の役目は・・・食材の増量と正市民たちへの対応ですね』


 『話が早くて助かるよ。毒をばらまこうとした“外道”たちは退場してもらうとして。今日は楽しくパーティーしようか』


 どうやらお二人とも和解なさったようだ。本来ならイリス様、イセリナ団長お二人の間でのみ交わされるはずの『光術信号(フォトンワード)』が、ゴルンたちにまで内容を開示しているのがその証である。


 これでもう怖いものはない。ゴルンたちは己の任務を全うすべく動きだした。

 



 つまり『土遁の術』は落とし穴、地下通路の類をあらかじめ準備しておき。それらを何らかの手段で隠し。いざという時その『仕掛け』を発動する。『土遁の術』で〈瞬時に穴を掘った〉〈地中移動〉をしたように惑わす(みせる)忍術だった。

 屋外で行う手妻・手品が『土遁の術』の正体だと推測します。


 そもそも本当に“地中移動(どこでも侵入)”できる忍者がいたら、情報を盗み放題になり。忍者が天井裏、縁の下に忍び込んで情報収集をする必要性はかなり低くなります。


 地下通路を掘り、整備し続ける。あるいは地質を調べて築城、攻城を行うのに活かす。

 それが『土遁の術』の正体だと愚考します。


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