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125.金輝のコイン~恩赦の宣言

 『獣アンデット』より『ドラゴンゾンビ』のほうが多い。数が多いトカゲのゾンビは皆無に近いのに、『ドラゴンゾンビ』がたくさん存在するのは【創造神】の御意思かもしれません。


 しかしドラゴン素材の行方に関してはどうでしょう?

 巨体を誇りボスになることも珍しく無いドラゴン。その肉体は様々な武器、防具や魔術薬の材料となり。ドラゴンを退治した勇者は巨万の富を得ます。

 けっこうな話ですが、そうするとどうしても計算があわない。不可解なことがあります。


 それは『ドラゴンアーマー』の材料に関して。巨体のドラゴン一体に対し、明らかにサイズの小さな人間の鎧が一つだけしか作れない。大きなドラゴンの鱗・表皮素材の大半が消えてしまい、小っちゃな人間の防具一式にしかならない。

 これは一体どういうことでしょう。鱗・表皮の素材を圧縮して革に加工したとしても、限度があります。というか防具職人はお呼びでなく。『魔法陣』『錬金炉』を使って、ひたすら圧縮加工しないと〈巨大竜一体につき、たった一人分の鎧〉などという計算は成り立たないと思うのです。

 風切り音が鳴り刃が振るわれる。同時に牛の喉笛が切り裂かれ、おびただしい量の血が噴出した。


 「これにてウェアルと猛牛の戦いを決着とする。勝者ウェアル!!」


 「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」


 〔後ろ足を一本砕かれ動きを封じられた牛。それに対し手枷を砕いた勇士ウェアルが怒涛の反撃によって逆転する〕大半の観客が期待していたであろう迫力のシーン。その展開はイセリナが投げ入れたダガーを、ウェアルが拾い牛の急所を切り裂いて終了した。


パチパチパチ・・・


 見物人たちの白けた空気の中で、一人空しく手が叩かれる。空気を読まない拍手はウェアルの身内一人が発生源であり。実質、〈ウェアルが牛を殺す〉だけの“茶番”に感動する者は皆無だった。

 これがスラムを破壊する理不尽な“盗賊狩り”“残党狩り”の作戦発動を賭けたモノでなければ。間違いなくモノ投げ、ヤジの嵐となるヘボ興行だろう。


 「これにより“盗賊狩り”は中止とする!盗賊ギルドの残党を捜索するため、スラムを破壊することはないと『誓おう』!」


 「・・・・・」「ホッ」「とりあえず…か?」「ケッ」


 イセリナが発した『誓おう』の宣言に対し、聴衆の反応は様々だ。住処を破壊されないと、安堵の息を吐く者もいれば。不信の目を向けたり、露骨に嘲りの笑みを浮かべる者も少なくない。

 大変けっこうなことだ。束の間の安息にすぎないという、その判断は正しい。そんな内心を隠しつつイセリナは宣言を続ける。


 「同時に【恩赦】を出す!」


 「「「「「「「「「「・・・!!!」」」」」」」」」」


 【恩赦】罪人への罰を軽くする。衛兵が苦労して捕らえ、裁判官が手間をかけて刑を決めた。それらの努力を無に帰す。犯罪被害者、その家族たちの感情を踏みにじる。

 イセリナにとっては暴挙であり、本来なら【恩赦】を出すなど極めて不本意だ。そんなイセリナへスラムに住む者たちが期待の視線を送る。


 「ウェアルの勝利をもって、下級シャドウたちの罪を減じる。コソコソと小細工を弄し、傷病者を延命させて盗賊ギルドの殲滅を遅らせた罪を許そう。

  しかし下級シャドウたちの罪をゆるすだけでは不公平が過ぎる。


  よって私はここに『宣言』しよう。昨日・・までシーフ連中に協力し、その手駒と化していた者たちの罪を赦す。スラム住民が私たちカオスヴァルキリー(C.V.)を闇討ちするのに協力していたことへの赦免を『宣言せいやく』」する!!」


 「「「「・・・・・」」」」「マジかよ」「ウソだ・・・そんな・・・」「・・・・・」


 競技、戦記物でもあるまいし。戦争の後に互いを讃えるなどという〈美談〉は、略奪暴行が禁じられる〈奇跡〉と同レベルで存在しない。正式に降伏文書の類を交わし〈報復禁止〉を確約したのならばともかく。

 戦場で活躍したり策謀をめぐらした。戦争の勝者から怨みを勝っている善戦した者は“軍事裁判ふこうへい”によって抹殺されかねない。まして最底辺の身分であるスラム住民など“八つ当たり”で殺されても文句すら言えないのだ。


 「無論、今後一切シーフに内通することを許さない。闇討ちの仕掛けに協力する者は厳罰に処することも言っておく!」


 「・・・・・」「これからどうすれば・・・」「ヒィッ!?バレてる。絶対バレてるッ」


 「復讐をしないということか・・・」「許す?」「これなら仕事にありつけ・・・」


 釘を刺すイセリナの言葉に、集まった住民たちはざわめきを抑えられないでいた。

 “スラムを破壊しつつ捜索を行う残党狩り”は取りやめになった。加えて貴族に等しい『ヴァルキリー様』を襲った罪科。金をもらって闇討ちに協力した件も追求しない。


 まとめるとスラム住民に「当面の安全を保証する」とイセリナは言ったのだが。破格の内容に半信半疑なのだろう。うっかり信じて“殺された者”を知っていればなおさらだ。


 そんな観客たちを混乱させるべくイセリナは未知ほんめいの興業を開催する。


 「難しい話はこれまで!質問がある者は顔役に後日、尋ねなさい。


  それではこれより、暗夜の施療(ウェアル)たちの勝利を讃え『宴』を催す。

  我が騎士たちよ、始めろ!!」


 「「「「かしこまりました団長閣下。『ランドランダー』!!」」」」


 大きな檻の四方に配置された陸戦師団の重騎士たち。彼らはイセリナ号令一下、パワーに比重を置いた専用の身体強化術式(ランドランダー)を発動させ。その怪力を眼前の檻へと叩きつけた。


 「「「「オォッ!!」」」」


 四方から同時に力をかけられ格子が一斉にひしゃげ。大きな檻が遠目でもわかるくらいきしみ歪んでいく。重騎士たちはわかりやすくその怪力を示し。それを見る住民たちは声も出ない。


 『イスケは準備を。間もなく始める』


 『ショ・・承ぢ』


 イセリナと下手くそな『信号術式フォトンワード』など知らぬとばかり。団員たちによる檻の破壊は続いていき。同時にウェアルが茶番の舞台から助け出され、残った足枷が外される。



 「大した物だ。シャドウなぞ非力な遊撃騎士だと思っていたが、考えを改めないとな」


 「パワーで重騎士の皆さんにはかないませんよ」


 「ふん、ぬかしよる。それより山場だ。気張っていけ」


 


 かくして“偽りの囚人シャドウvs妨害術式をかけられた肉牛”の茶番は終わり。


 “残党狩り”、『水路敷設』という両方の大義名分により。スラムを破壊するはずだった計画は大幅に変更することになった。

 それでも『ドラゴン装備』が存在するならまだマシなほうでしょう。


 昨今、モンスターのスタンピートなどに都市が蹴撃されることがあり。その中には下級ドラゴンの群れが加わっている。あるいは鎧の材料になりそうなモンスターが大量にいたり。モンスターの棲息地で無双を行う冒険者が防具素材を大量に持ち込んでいるはずですが。


 モンスターと戦う冒険者、兵士の装備が一斉に刷新されたという話は聞いたことがありません。勇者なら怪物の革が材料の防具より数段上の装備をしている。騎士鎧は仕える国の『制服』も兼ねるので性能優先で鎧を替えるわけにはいかないでしょう。

 しかし前線でこれからも(・・・・・)怪物暴走(スタンピート)と戦う冒険者、兵士の防具が以前と変わらず安物のまま。報酬を現物支給されても迷惑でしょうが、命がけで戦う者たちが防具を全く刷新できないでいる。

 そろそろ怪物素材の“横領”“中抜き”を疑っても良いと愚考します。

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