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12.アルゴスの影

 魔族の能力の中で一番恐ろしいものは何でしょうか?私は吸血鬼の眷族を増やす能力だと思います。ロードを中心に組織、部隊ができたら世界の危機でしょう。


 ゾンビのハザードだと質より量。一般人や雑兵にとっては脅威ですが勇者や亜竜のブレスで燃えそうです。邪神の加護でもあれば別ですが。

 戦争。それは経済戦争と同義である。敵の財産を奪う。豊かな経済で敵の経済を飲み込む。

 正義だ外交問題だと言っておきながら、最終的には大金・利権を略奪している。程度の差はあるものの、戦争とは拝金主義者のヒトが引き起こしているモノだ。


 そしてそれを最も体現しているのが悪徳の都市ウァーテルである。



 「今、このウァーテルは侵略の危機にひんしている。今こそ我らはその力を束ね、団結して脅威に対抗しなければならない!」


 ウァーテルの一画。そこで一人の男が熱弁をふるっていた。彼の言葉は美しく理想を唱えている。だがそれに賛同する者どころか聞き入る者すらいない。関わらないよう足早に去っていく者は珍しくないが。


 「よって私の言葉に賛同する者は財貨を私に預けてくれ!その浄財で軍備を整え敵軍を撃退したあかつきには、戦果によって報いよう」


 目を見開いたまま寝言をのたまう奇人。本来ならそう扱われるべきモノに対し現実はさらに狂ったモノだった。


 「これは将軍様。お勤めご苦労様にございます」


 せいぜい傭兵騎士がいいところの男に対して、老人が寄付金を差し出してくる。


 「おおっ‼これはかたじけない。これほどの軍資金をいただければウァーテルを脅かす賊徒に必ずや鉄鎚を下せるだろう。貴殿の未来に栄光あれ‼」


 「いえいえ。この都市に住まう者として当然の行いにございます」


 交わされる三文芝居。目が笑っていない二人のやり取りを東方風に訳すなら『お主も悪よのう』といったところか。


 「ですが他の者は将軍様の威光に怯えて浄財を出し渋っている様子。よろしければ私めが代理人として寄付をつのりましょう」


 「おう、それはかたじけない。手数をかけるがよしなに頼む」


 形式ばった言葉のやり取り。これを要約すると『戦時の徴税を任せる』『普段は制限をかけている犯罪を解禁する』となる。

 悪徳の都市と言われるウァーテルにも秩序が皆無というわけではない。だがそれは闇の住人に利益をもたらすためのモノ。戦争を大義名分に、平時に貯えられた富を奪うためのモノでしかない。


 「お任せください。愛するこの都を守るため誠心誠意励む所存です」


 こうして法の枷は外された。同時に少なくない人数の破滅が決定する。





 「有り金置いて行ってもらおうか」

 「借金の返済はもう待てねえ。払えねえなら奴隷に堕ちてもらおう」


 定番のやり取り。だが善人、弱者にとっては地獄への誘いが横行する。

 戦争に勝つため。都市を守るためという美辞麗句により、野獣がウァーテルの町に解き放たれた。

 そんな中で裏路地の片隅では惨劇の幕が上がる。


 「待ちやがれ!」「逃げられると思っているのか!」


 「ヒィッ!誰か助けて!」


 裏路地の小道を旅装の青年が必死に走る。だがそれは逃走になっていない。

 何故ならここは盗賊たちの庭も同然の裏路地だ。懸命に足を動かしても袋小路という檻に誘導されつつ、疲労を蓄積していくだけ。破滅の一丁目を走らされているのも同然だ。

 その事実に気付いた青年は、ゴロツキたちが残酷な笑みを浮かべているのに気付いた。


 「おうおう。俺たちのシマに入ったうえに手間までとらせるとはいい度胸だ」


 「ゴメンナサイ、許してください!」


 「これはきっと敵軍の密偵に違いねえ。詳しく調べないといけないな」


 そう告げる連中は歪んだ笑みを隠そうともしない。どう考えてもまともな取り調べなど期待できるはずもなく。身代金を取られて命を拾えるなら奇跡であり。奴隷の相場が下がっていては、使いつぶされる生きたオモチャにされる可能性すらあった。


 「オラッ、おとなしく観念しやがれ」


 「何で、何でこんな事をするんですか!?」


 「ああん、てめえがシマに侵入したのが原因だろうが」


 厳密には違う。平時より縄張りの範囲が広がっているから。戦争に伴う上納金の増額で、自分たちのような下っ端は早急に金がいる。戦争でもっと大きな儲け話、略奪ができればこんな小僧など見逃してやってもよかったのだが。

 とはいえ金は一銭たりとも無駄にはできない。それが上納金なら自分たちの命を左右する極めて重要なものだ。よってマヌケな素人を見逃す理由は全くない。


 そう考えて伸ばした手が空を切った。


「・・・・・へっ⁉」


 その理由を確かめる間もなくエモノが遠ざかっていく。否、移動しているのは自分のほうだ。だが何故?何故?ナゼ、ナゼ、ナナナゼ・・・・・

 それが盗賊の男にできた最期の思考だった。



 「ご無事ですか旦那!」


 「やあ、ありがとう。危ないところだったが助かったよ」


 「・・・・・・・・・・・」


 悪徳都市の路地裏。そこでは茫然とする盗賊を観客に茶番劇が開演していた。


 「・・そんなっ。護衛として当然のことをしたまでです。お怪我がなくて良かった」


 本物の護衛ならば、護衛対象をこんな所で一人にするなど有り得ない。強盗と内通している不良ガードならともかく、護衛にとって最大の仕事は襲撃者の威嚇である。賊の抹殺などそれに伴うついでの行為。賊の撤退を妨げ依頼人を危険にさらすなら行うべきではない。


 「てめえらっ!こんなことをしてただで済むと思っているのか!!」


 何故なら、いかに理不尽で盗人たけだけしかろうと。悪徳都市では盗賊ギルドこそが法であり。加えて盗賊の面子こそが、善人の命より優先される。よって商人は財布どころか、報復に命までをも取られかねない状況に陥っていた。


 「そうだな。とりあえずお前さんの口を封じれば無事に済むかもな」


 そんな甘い話があるはずがない。盗賊ギルドの情報収集能力は本物だし、裏稼業に従事する者は暴力の気配に敏感だ。まして二人の男が商人一人を追いかけまわしている光景を、スラムの住民が目の当たりにしている。


 安全と情報料のため、真実が伝わるのは確実だろう。


 「ヒッ!?ま、待て落ち着け。有り金出せば見逃してやろうって言うんだ。ここでオレを殺せばギルドが黙っちゃいないぞ」


 腰のひけた情けない脅し。まさに虎の威を借りる狐だが、それは一部真実でもある。違うのは既にギルドのメンバーを蹴り殺している以上、制裁は免れない。だが蹴りの一撃では気絶だろうと楽観している男は、その現状を把握できておらず。まして茶番劇が進行していることにも気付かなかった。






 悪徳の街ウァーテル。その路地裏では珍しい事が起こっていた。


 「ヒッ!?来るなっ、来るなあ!!」


 盗賊ギルドの構成員。そのうちの一人が追いかけられているのだ。まっとうな街ならともかく、都市ウァーテルは闇の組織が支配している。ギルドの意向に従って恐喝・強請ゆすりを行うのは違法行為ではない。にもかかわらずその盗賊は恥も外聞もなく逃走していた。


 「おいおいさっきまでの威勢はどこに行ったんだ?キサマも盗賊ギルドの一員なら意地の一つも見せてみろよ」


 そう告げるものの、彼は我ながら底意地が悪いと思っていた。いきなり強盗の相方が蹴り殺されたことにようやく気づき。それで恐慌に陥らないだけマシだろう。腰をぬかさず逃走するのにも、それなりの精神力がいる。


 「黙れっ!この通り魔が。それ以上俺を追いかけるならっ!?」


 虚しい脅し文句で、体力を消耗するチンピラに活を入れてやる。そうして逃げる奴の肩をなでてやったら今までの倍の速度で足を動かし始めた。


 「そうそう、その調子でしっかり逃げろよ。もしかしたら逃げ切れるかもしれないぜ」


 ウソである。盗賊が自分たちに勝てるわけがないことなど、事前の調べでわかっており。実際に接触してみて、その情報が正確であると実感した。

 そんな捕り物、追いかけっことも呼べない運動を続け。数分後、シーフの男はようやく目的の場所にたどり着いたようだ。


 「ッ・・ッ・・馬鹿がっ!おびき寄せられたことにも気づかないでノコノコ来やがって」


 そんなセリフとともに周囲の屋根から複数の人影が姿を現す。

 彼らは目の前で息もたえだえなチンピラよりは強いようだ。武装もしており、盗賊より戦士が本職というものも複数いる。


 どうやらここは逆襲してきた愚かなエモノを待ち伏せする区画のようだ。高所からなら飛び道具ひとつで腕自慢の戦士を圧倒できる。それが複数人で陣形を組めばほぼ必勝と言っていいだろう。



 本来ならば。

 そんな恐ろしい能力の一部でも利用できたら。魔術、異能として行使できたら厄介なことになると愚考します。

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