表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/429

119.ドゥームズへの包囲網

 幻想世界のチャリオット。主にギリシャ、ローマ神話で登場していますが。他の神話でも少しは登場しています。

 北欧『フレイア女神』の猫がひく車。そしてケルト『英雄クーフーリン』が乗っていたチャリオットの二件です。このうち『フレイア女神』が乗っていた『車』は完全にチャリオットと断言されておらず。入手方法、戦果の逸話もないよう(マイナー)なのでチャリオットとしては微妙でしょう。


 とはいえ猫がひく車?馬車ならぬ猫車というのはかなりメルヘンです。それに『豊穣の女神』という面を持つフレイアが猫を従えている。農作物や森の恵みを荒らすネズミを退治する護り神という面でもあるのでしょうか。色々、想像をしてしまいます。

 『共鳴魔鐘(アルゴスドゥームズ)』という術式がある。『遠見』『透視』他の感知系能力を逆探知して。イリスの経験・視た情報(死の苦しみ)を不届きな感知能力の持ち主に流す。

 能力者の〈知りたい〉という欲を窓口に。痛苦の情報(魔性の光線)を能力者の脳→神経へと侵入させて幻痛をもたらす呪いの術式だ。


 代償として被術者が受ける痛苦の10倍をイリスは受ける。もっとも『攻撃魔術の禁止』という誓約を自らに課しているイリスが事実上の呪術攻撃を行うのだ。それは必要経費というものだろう。


 「さてと。それじゃあ“準備運動”を済ませてしまおう」


 いきなり全開で『アルゴスドゥームズ』をかけたら敏感な感知能力者はショック死しかねない。だから蘇生できる範囲で幻痛を与え。“のぞき見”で得た情報がいくつ魔鐘(ドゥームズ)を鳴らしたか。情報を伝えた結果、人々がどのくらい苦しみ無念の死を遂げたか疑似体験してもらう。


 単に感知能力者を殲滅するだけではない。

 そういう報復目的(イリスの狂気)も『アルゴスドゥームズ』にはあるのだ。


 「ボクの領地けっかいである都市のスラムを走査。住民の痛苦を呪力に変換して・・・」


 飢えに寒さ。明日をも知れないスラム住民の感情が、負の呪力と化してイリスの中を通過していく。それはイリスと言えど未知の苦しみであり。だがウァーテルを支配する者として受け止めなければいけないものだ。

 だが・・・・・


 「ん~~~?・・・ん、ん~~~?、!?おかしいな。スラムの呪力くつうはこんなものではないはずだけど」


 『急造の暖房火箱(キャンドルクレイ)』をスラムにばらまいた日の夜は確かに呪力・陰気に満ちており。

 『アルゴスドゥームズ』は別勢力の“のぞき魔”たちを廃人にした。

 だが今夜はその呪力が集まらない。イリスは炊き出しすら賊の工作を警戒する(ロクでもない)理由でやっておらず。スラムは塗炭の苦しみのはずなのだが。


「『・』」「『・:』」


 「ッ!?ちょっと待って。今、開けるから」


 扉をたたくそれぞれ一拍、二泊のノック。

 それはイリスの副官である扇奈、宰相も同然の妹イセリナが来訪したことを示している。


 本来ならお茶を飲みに来たと歓迎すべき。もしくは緊急の案件が発生したのかと、すぐに入室させるべきだろう。

 しかし『アルゴスドゥームズ』という『呪術攻撃』に等しい術式を使っている真っ最中だ。彼女たちの主君、姉としてかっこつけたいイリスとしては、身支度を整えたい。


 「『はい、待たせていただきます』」


 「『急ぐ案件ではありません。ですからゆっくり身支度をしてから扉を開けてください』」


 〔バレてる。完全にバレてる〕


 『攻撃魔術の禁止』という誓約の隙をつくため。『アルゴスドゥームズ』を使う際に、イリスは自傷するに等しい幻痛を、自らに課さなければならない。

 だがイリスに心服している扇奈、イセリナたちからすれば『ストレス魔力(呪力)』を使うだけでも言語道断であり。イリスは主君・姉にあるまじき姑息な隠蔽をして『アルゴスドゥームズ』を使用していた。


 例えば〈プライベートな時間、場所〉を理由に二人を占めだして使うとか。


 「『むしろお急ぎになってジュ・・・魔力が逆流などしませんよう。余裕を持ってお支度をなさってください』」


 「・・・・・・・・・・は~い」


 〈時間がかかるから先に会議場に行っていて〉そんな戯言は通用しそうもなかった。

 

 



 何とか『アルゴスドゥームズ』を鎮めキャンセルしてから。イリスは顔に笑みを貼り付けて腹心たちを部屋に迎え入れる。


 「それで、どうしたのかな二人とも。会議の収集はかけたけど、場所はここではないはずだけど」


 この後に及んで往生際の悪いイリスに対し、扇奈とイセリナ二人は満面の笑みを浮かべて言った。


 「「おめでとうございます!」」


 「ッ??」


 「このたび配下イスケ(下級シャドウ)可能性じゅつしきを拾い上げてくださり。恐悦至極に存じます」


 「予測演算こそ私の戦場であり晴れ舞台。必ずや本命の計画を成功させる行程表を作ってご覧に入れましょう」


 「そう。ありがとう」


 にこやかなやり取りが交わされる。それはイリスへの期待と感謝を示しており。

 面倒な会議の前に根回しをしようとか、そういう邪念は全くなかった。


 「つきましてはマスターにお願いの義がございます」


 「何かな?」


 「はい。血管に泡を送り血を押し出す術式は風・水属性の者が試行錯誤いたします」


 気泡と水泡。どちらの術式が血抜きに向いているか、あるいは複合術式にすべきか。それについては要研究だろう。イリスの予想では時と場合によって。速さなら気泡、水場を利用できるなら水泡の術式を使うべきだと考えている。


 「だけどポーションボトルを利用する。あるいは専用のボトルを作るなら姉上の『認識変動(アルゴスプリズム)』で職人役(シャドウ)の集中力をあげたいのです」


 「もちろん喜んで。この件で協力は惜しまないよ」


 和気あいあいとしたやり取り。そこには腹芸、利権争いなどなく。建設的な意見が確かな目的への道を作っていく。


 「協力は惜しまない。それでしたら『鐘音』の術理をお教えいただけないでしょうか」


 「ッ!!『共鳴魔鐘(アルゴストーン)』を?あれはちょっと今アレンジしている最中で・・・

  使用不能というか不可と言うか。妹の一人に使用権利を譲ったから呼び出さないと・・・・・・」


 「姉上。何も丸ごと教えてくださいと言っているわけではございません。

  ただ『神経節』を把握できる『魔鐘の光術(ドゥームズ)』を教えていただき。獲物の経穴を突いたり、神経繊維を迅速に除去する。


  そのために必要な部分だけご教授いただきたいのです」


 「・・・・・・・・・・」


 いつもやっている技術提供。だがイセリナたちが求めるそれは被術者(のぞき魔)に地獄の苦しみを味あわせる『アルゴスドゥームズ』の核とも言える術理だ。標的の『痛覚神経を把握・・』しなければ、魔力光線を通じて幻痛を送り込むこともできない。魔力のゴリ押しでは雑な痛みしか与えられないのだ。


 「・・・・・だけどね。そうすると、何と言うか・・・」


 「無論、ドゥームズの術理は姉上のもの。相応の対価は払わせていただきます」


 〔そういう問題じゃな~~い〕


 イリスにとって困りごと。それは彼女が不器用だということだ。仮にも女王役として時には戦い、配下や民を養うため治政を行う。イリスにもその程度の器用さはある。


 しかし右手で握手をしながら、左手で短剣を突き刺すという類の器用さはない。

 敵を突き殺す指技ゆびわざ、経穴を突く暗殺針を使ったら。それらを転用、表裏一体の人を癒やす医術をイリスは行使できない。


 〔時代状況によってそういう器用さが必要なのは理解している。他人、身内みんなが使うのを止める気はないけど〕


 イリスの心情・自分ルールでは認められない。

 術式の誤射やリスクを防ぐため、『安全のため両用を禁じた』とそれらしい理由を述べることは可能だが。それが偽りであることをイリス自身が誰よりも知っている。


 「・・・わかったよ。“賭け事”の件もあるし、ボクの負けだね」


 「「ありがとうございますマスター/姉上」」


 使用条件がイリスを自傷するに近い呪術式の『アルゴスドゥームズ』。その用途、使用条件を知っている扇奈、イセリナからすれば『共鳴魔鐘』は言語道断の禁呪であり。

 かなり強引に『アルゴスドゥームズ』の使用を賭けた勝負をしかけていた。


 〔姉上に自傷の呪術などふさわしくありません。他にいくらでも有用な術式があるのに〕

 〔マスターの御身に何かあれば。配下として自害・・・〕

 〔わ~かった。それじゃあボクに『共鳴魔鐘』を使う資格があるか。君たちと“賭け”をしよう〕


 内容は『アルゴスドゥームズ』の発動現場を扇奈たちが期間内に抑えたら『呪術』を封印する。

 逆に発動現場を隠し通せたら、イリスは“のぞき魔”の神経を灼く『呪術』を使い続けられる。


 こうして始まった“賭け事”だが。

 【プライバシーの尊重】を盾に〔『呪術』の発動現場に乱入されたら自傷イリスのダメージが倍加する〕という暴露まで行い。イリスはセコい強権で、大人げなく“賭け事”を有利に進めていた。


 それに対してイセリナたち腹心二人は特に不満も述べず。そろそろ“賭け事”の件をイリスが忘れかけたとたんに。本日、しっかり『アルゴスドゥームズ』の現場を抑えられ、降参(サレンダー)の言質まで取られてしまった。


 これほどの敗北はイリスにとって久しぶりのことであり。この上は潔く負けを認めるしかない。


 「『共鳴魔鐘(アルゴスドゥームズ)』の行使を封印。神経系を把握して獲物を『締める』ための術式に再構築・・・、・・・、『・・・』『・・・・・』」


 術式の効果をイメージしつつ、胸中で魔術陣の一部分を描き。それらを圧縮して次の術式部位を描いていく。それらをイリスは何度も繰り返し。


 「それにしても悪辣ギルド連合は陰謀を考えることだけ(・・)はたいしたものね」


 「イセリナ殿。ああいうのを〈巧み〉とは言わない。

 “飛び道具も数を撃てばうるさい、資源の浪費な迷惑行為”というモノだ」


 「そうかしら?例えば本命の計画で貴女の部下(シャドウ)たちが有用な『保存食』を作ったとする。それはみんなを幸せにして、富を循環させるでしょう。


 だけど『神経を灼く呪術(アルゴスドゥームズ)』の術理が使われていると知られたら。連中は迷わずその醜聞を突いて何もかも台無しにするでしょう。

 自分たちのちっぽけなプライドを保つために!!」


 「・・・・・、・・・!・・・!?・・・ッ・・・・・・・・・・。

  わかったよ!やればいいんでしょう、やれば!!『アルゴスドゥームズ』を完全に破棄!


  記憶因子(メモリー)を光子に変換し、消去の術式陣に設置する。分解及び消去へと作業を開始。作業の終了後はアルゴスの『背骨』に再構築の禁止を刻印する!」


 「「・・・ご立派でございます、マスター/姉上」」


 信頼する副官と宰相二人の包囲網がひどい。イリスとしてはほとぼりが冷めたら、また“賭け事”をして『アルゴスドゥームズ』を復活させる。『アルゴストーン』という術式を潰して、編み出した『魔鐘やいば』を“完全”に失いたくなかった。


 しかしシャドウ一族と陸戦師団の配下たちにとって重要な資金源となる。うまく連鎖がすれば従来の社会システムを変えて。輝かしい未来をもたらす保存食ピースに万が一の不安要素(スキャンダル)もあってはならない。


 

 こうして『アルゴスドゥームズ』は永久的に抹消された。











 少しネタバレ~万能に遠い、イリスの魔導アルゴスについて



 『術式干渉(アルゴスゴールド)』で攻撃系の魔術に干渉したら。味方の魔術を増幅するなどのサポートはほぼ不可能になる。その制限を破るには大きな【代償】が必要であり。


 『術式解析(アルゴスアイズ)』は〈敵〉の解析を行うための術式にすぎず。味方、身内のプライベートは最大限に尊重しなければならない。


 『認識変動(アルゴスプリズム)』は【味方】に有益な才能を伸ばす。視覚・集中力を高める術式であり。敵にかけて五感のバランスを乱す“惑わし”の邪法としては絶対に使えない。

 一方、クーフーリンのチャリオット。これは唯一無二であろう珍しい兵器です。それは『御者』がいること。

 他の神々、英雄の操るチャリオットはどれも単独で操車をしており。リアル歴史なチャリオットの『御者』は存在しません。全能な神々に『御者』など不要ということか。『御者』がいては平時に走っている馬車のようで、見栄えがしないから省かれたのか。


 実際、クーフーリンのチャリオットもマイナーであり。日本で出版される英雄事典、全集にはまず登場しません。クーフーリンは単騎で無双する英雄だ。もしくは戦闘狂の気がある好漢というイメージが強く。

 リアル歴史に近いチャリオットは邪魔だという扱いのようです。個人的には御者付きチャリオットに乗った程度で、クーフーリンの英雄譚が陰るなどということはありえない。むしろ修羅か羅刹(血みどろ)の英雄譚に、一人ぐらいは完全に味方の『御者』いてもいいじゃないか・・・と思うのですが。

 虚空の真実で初めて知った『御者の王』。いつかレギュラーになるのを期待しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ