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114.四凶刃の火~キャンドルクレイ

 戦国武将のファンは読まないでください。ロクでもない“残酷物語”です。史実と物語を分けて楽しめる方だけご笑納ください。


 戦国時代の“役立たず”と言えば何を連想するでしょう。私の場合“関所”です。

 人の行き来を阻害し、商人の往来を妨げる。それにより塩、薬の運搬コストを引き上げ物価を高騰させた。というかそもそも商品が入ってこないし、売るのも困難でしょう。

 自給自足ができる豊かな地域はマシですが、貧しい村を陸の孤島にしてしまう。平時から兵糧攻めをしているに等しい。

 ゴロツキよろしく通行料を巻き上げる拠点。それが戦国時代の“関所”だったと思っていました。考えていたかったです。

 火走りの術を放ち続ける狂人。シャドウの道化は次々とスラムの地面を焼き、乾かぬ汚泥を焼き固めていく。その『焼かれた泥(クレイ)』をスラムに住む人々がかき集め、シャドウの施設に持ち込み。


 その対価としてフードをまとったアヤメ様が『キャンドルクレイ』と名付けられた正方形の土塊つちくれを渡していった。人々は大事にそれを抱えて、寝床の家に帰っていく。

 潰れる寸前のあばら家、かろうじて夜露をしのげる寝床へとスラム住まいの人々は戻り。


 床に印が刻まれた場所に『キャンドルクレイ』を慎重に置いた。


 「灯れ」

 「燃えろ」

 「温かくなりますように」


 それぞれの合言葉、願いに祈りを四角い塊に向けて告げる。すると土塊はほのかに瞬き、発熱し始めた。ささやかな熱量がすきま風の吹く、穴あき屋根の家を暖めていく。


 「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」


 それに対し喜びの声はない。誰もが息を殺して暖を取る。『キャンドルクレイ』を他人に奪われないよう。妖術が発動して怪火を周囲にばらまかないか見張り続ける。

 その目に希望の光はなく。盗賊ギルドが追い出されたことを喜ぶ者は皆無だった。


 「こんなことがいつまで続くんだ…」

 「ひもじいよぉ」

 「くそっ、盗賊ギルドは何をしている…」


 何故ならウァーテルの変化はスラムの住民に優しくなかったから。

 すぐ近くの通りでは【綺麗な水】を初歩の光魔術で入手できるようになったとの事だが。水路の無いスラムにその恩恵が届くことはなく。

 さらにまきの値段が上がって暖が取れないのは死活問題だった。ウァーテルの好景気に伴って燃料、資材の消費は増加したものの、値段は高騰し。


 「おりゃ~~~『旋風閃』!」

 「負けるかっ『ランドランダー』!」


 あげくにそれらの欠片をシャドウ、重戦士たちが身体強化まで使って根こそぎ回収してしまい。

 シャドウや陸戦師団の者たちは100%善意でお掃除をガンバッタだけなのだが。

 それは結果的にスラムの住民たちの糧を奪い尽くしてしまう。


 加えて盗賊をあらゆる面で圧倒するシャドウたちを出し抜いて、商人たちのふところを狙うことは絶望的であり。情報を金で買わず『魔導』で収集する。汚れ仕事の依頼もしない支配者イリスの善政により。わずかな収入を絶たれた貧民街の生活は急速に悪化していった。






 「このままじゃ、みんな生きていけねぇ。何とかしてくれ旦那」


 「・・・申し訳ございませんでしたぁ~~~」


 スラムを束ねる顔役の一人バッケム。彼が命がけで行った直訴により、紙一重のところで身体強化を使った大量の廃棄物(スラムの糧)処理は停止される。

 そうして怪火の火箱(ミミックキューブ)の試し撃ちのため。

 【“勝手に独断でゴミを焼却処分していた”】藤次は責任を持ってスラムに補償をするよう。

 ボスのイリス様に命じられていた。




 「・・・・・・・・・・へえ」


 「ッ!?」


 その任務が命じられた瞬間。凄惨な殺気、狂気の混合した(キサマらコロす)魔力が放出される。


 「待て遙和!!オレはこの任務に納得している。兵たちが善意で掃除したのが、たまたまうまくいかなかっただけだ!幹部としてその尻ぬぐいするのは当然・・・ッ!?


  今のナシ!!四凶刃として厄介事を解決して貴重な手柄を立てる。そうして出世するチャンスなんだ。横槍を入れルナ!!」


 「・・・・・旦那様がそこまで仰るのならそういうことにいたしましょう。


  私はてっきり盗賊ギルド(クズ連中)が貧民街と通じてまた(・・)闇討ちの算段でもしているのかと思ったのですが。カン違いだったようですわね。申し訳ございませんでしたわ」


 「誓ってそのようなことはございません。奴等は少ない炊き出しに“毒”を放り込んで病人を作り。誹謗中傷に借金をっ・・・」


 「「「「「・・・・・」」」」」


 その瞬間、密室に様々な魔力が荒れ狂う。先程、極東服の小娘が放った邪気が昏い濃霧だとするならば。


 極光、大嵐、雷雨に灼熱と虚無が出現したと言うべきか。それらはたった一つでもスラムを破壊し尽くす魔力が凝縮されており。バッケムは自分の訴えが一歩間違えればスラムを灰燼に帰す危険なものだったとようやく理解した。


 「バッケム君と言ったかな?この件が無事に片付いたら君にはスラムのトップに立ってもらおうか。よろしくね」


 「ッ・・・・・」


 口調は丁寧で優しい。だがバッケムは素速く平伏することで、その【目】をのぞくことを防いだ。


 「それじゃあスラムの人たちへの補償と援助は藤次君に任せようか」


 「私も出ます。中級シャドウ三名を出陣させる許可を」


 「却下。侍女シャドウの仕事は完全に休んでいいわ。いざとなったら貴女アヤメの本気を見せてあげなさい」


 バッケムの頭上で決定が下されていく。それは物理的に平伏している頭の上で会議しているという意味ではない。賢しげに会話の内容をさえずったら破滅する。バッケム(ゴロツキ)にそう確信させる【理不尽】に行動を封じられているということ。


 バッケムを最下級の手駒として、特攻を命じるために留め置かれているということ。


 「それじゃあ、作戦はこんな感じでいいかな。


  それと遙和。炊き出しの妨害を企てた連中(ゲス共)だけど好きにしていいよ。

  バッケム君のお話をよく聞いて決めてね」


 「承知いたしましたわ。ヨロシクお願いしますね顔役殿」


 「ッ・・・・・・・・・・ッ¥'sッ」


 反射的に報酬の話を始めようとした舌を噛みしめる。命がけの突撃(とっこう)を命じられたほうがマシという命令内容に錯乱しかけたようだ。

 そうしてバッケムは生涯で初めて額を床にこすりつけた。





 貴族、大商人にとって風呂が贅沢なら。平民にとって『暖房』は豊かさの境界だろうか。

 薪、石炭という燃料をまかなう収入があり。台所以外の場所に火をおける部屋、広さがある。


 そして何より料理で使う残り火に頼る必要が無い。寒い夜に体温を保てる『暖房』は生命線とも言える。つまり何が言いたいかというと・・・


 「スラムの住民に『キャンドルクレイ』なんてモノは過ぎた代物だ!」


 「うるさい。バレたらどうする気だ。黙って働け」


 日が暮れて暗くなったスラムの家屋。その死角で二人のシャドウが人目を忍んで活動していた。

 一人は周囲を警戒し。もう一人は魔力を地面に流し、家の中にある『キャンドルクレイ』に術式のラインをつなごうと四苦八苦する。


 その姿は控えめに言ってコソ泥も同然であり。盗賊ギルドのチンピラたちのほうが堂々としていたはずだ。そんなチンピラ集団をを単騎で圧倒していたシャドウの姿は今はない。


 「俺達はヘマをした。あげくにひどい“無礼”を働いていた。その償いが『キャンドルクレイ』の点火と調整なら楽なもんだろう。

  それとも藤次兄貴の遙和(セイ妻)様に“鍛錬”してもらうほうがいいか?」


 「ッ!?、!!!ッ!勘弁してくれ。オレはまだ死にたくない。せめて死に場所くらいえらびたいんだ!!」


 「俺もだよ」


 【屋根上巡回】という施策がある。身軽なシャドウたちが屋根の上を移動することで、巡回をする際の死角、隙を減らす。屋根上を疾走して見せて、シャドウの実力を宣伝する。そして何よりウァーテルに潜んでいる組織アジトの屋根上を爆走することで、プレッシャーをかける。


 そんな【屋根上巡回】を行っていたシャドウたちだがミスをしてしまう者もおり。建物を破損させるくらいなら金で話がつくのだが。まっとうな住民の家を爆走した者には当然、ペナルティが課されるわけで。格上のC.V.様に行っていた“無礼”も咎められ今にいたる。


 「なあ、もういっそのこと魔石を放り込んで・・・」


 『キャンドルクレイ』を〈持ち運び可能な熱源ひばこ〉という本来の簡易マジックアイテムに戻そう。そう提案するシャドウを相方が止める。


 「それじゃあ『キャンドルクレイ』が換金アイテムになってしまうだろう。そうなればスラムの住民で奪い合いになるか。金目の物としてゴロツキに狙われるか。


  そんな惨劇が確定することを御方様が望むと思うか?」


 「わかっている。言ってみただけだ・・・よし、ラインがつながったぞ」


 そうしてシャドウは接続したラインを通じて『キャンドルクレイ』に魔力を注ぎ、その熱量を調整していく。目安としてはささやかなたき火程度。かろうじて寝床が暖まる程度の熱量を放ち、朝方には土塊の『キャンドルクレイ』ごと消えるように魔力をこめていく。


 一夜だけ寒さを凌ぐ『暖炉の小箱(キャンドルクレイ)』を完成、作動させていく。


 「よし次だ」


 「おう」


 そうしてシャドウのコンビは夜の闇に消えていった。



 そもそも金を払えば通れる“関所”など密偵忍者にとってほとんど障害にならないでしょう。略奪放火が“立派な戦術”だった戦国時代、関所の維持に武将が身銭を切った可能性は低く。人足、資材の提供を命じられた民の負担になった・・・・・と考えていた。考えていたかった(・・・・・)のですが。


 戦国時代の戦術というか“残酷物語”に人さらい、人身売買があった。軍勢ぐるみでソレをやらかしていたとなると。関所の重要性は全く違ってきます。

 “略奪放火”なら財貨を捨て逃げれば、命だけは助かる。飢え死にのリスクはあるものの、村に軍勢が接近した時点で逃走することも一応可能でしょう。


 しかし“人身売買”を目的とした軍勢にそれは通じません。連中の狙いは人であり。集落を包囲するか、逃げても追ってくるか。そんな連中が接近してから逃げ仕度をしていては手遅れです。


 となれば金食い虫でも〈関所〉に村・集落の人員を提供して。敵軍勢が国境くにざかいに接近した時点で、村にそのことを伝えさせる。そうしたら速やかに村人は避難する。

 そういうシステムを作っておかないと“残酷物語ひとさらい”が横行しかねません。


 だけど個人的にはそんな歴史の暗部を考えたくなかった。関所は役立たずでいて欲しかったです。

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