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108.閑話~微風の破談

 戦国時代。貴族の権威は地に堕ち、日々の暮らしにすら事欠く有様になりました。


 それなのに有力・・な戦国大名たちはこぞって官位・貴族の地位を求めています。あの現実主義者な織田信長ですら運動をして官位を得ている。大金を献上しつつ外交工作という手間をかけて、名ばかりの地位をかっている。


 軍事・武力が物を言う戦国の世において。朝廷の権威はそれ程の価値がある。末期とはいえ室町幕府を圧倒する名門ブランドだったということでしょうか?

 “愚弟と貴女アヤメの婚約を破棄する” 


 シャドウ一族はお貴族サマではない。とはいえ支配者の上級シャドウはその真似事を行う。

 〈婚約〉もその一つであり。次期頭領の最有力候補である勇馬・セティエールの権威を強化する。

 あるいはおかしな婚約(色仕掛け)を防ぐ目的のため勇馬とアヤメは婚約していた。


 それが突然、破棄されることになり。アヤメが抱いた感想は一つ。


 「思ったより早かったわね」・・・・・・というあきらめの感情だった。



 上級シャドウの結婚は一族に最大限の利益をもたらさなければならない。

 その観点からすると、勇馬のお相手は主君イリス・レーベロア様だ。聖賢の御方様は身内びいきをする愚か者とは真逆の人物だが、情の厚い御方でもある。わずかでも距離が縮まれば、シャドウ一族の繁栄は確実だろう。


 そのため勇馬の自由恋愛を妨害するためアヤメは婚約していた。政略結婚は数あれど、それなりに歪んだ契約だろう。


 「一応、確認するけど・・・お相手はイリス様では無いのね?」


 それを狙ってアヤメは仮の婚約を行った。女王イリス様の良人となった勇馬を支える側室?になる計画だったのだが。


 「ええ、違うわ。勇馬は・・・あの愚弟バカは人質に出したC.V.城塞で色欲にまみれた。


  大勢のC.V.(亜人種)と関係を持ったのよ」



 「・・・本当に?」


 「それはどういう意味かしら」


 「もしも勇馬殿が本当に色情狂と化していたら。貴女(扇奈)のことだから城塞のヴァルキリーたちを皆殺しにしているでしょう」 


 そこまでいかずともプライドをかけて一戦を交える。目を覚まさせるために、弟の腕の一本も切り落としているだろう。そうして引きずってでも連れ戻しているはず。


 しかし扇奈に旅装の汚れはあっても〈血の臭い〉は無い。ならば勇馬殿が色に溺れたという可能性は低いはず。そのぐらいの信頼はある。


 「本当にいったい何があったの?」


 「・・・・・カオスヴァルキリーたちにはめられた。あいつ等、手段を選ばず勇馬を“種馬”にする気で仕掛けてきたのよ!」


 そしてそれを防げなかった。いくら鍛え備え、覚悟を決めても。万能無敵の者など存在しない。

 ましてハニートラップ(くノ一)がシャドウ一族から消滅してから数世代。色事に関しての専門家など侍女シャドウにすらいない。


 シャドウの正統後継者(世間知らず)である勇馬が誘惑をはねのけた・・・?姫長の扇奈が激怒して、引き時を見誤る最悪を回避できたのは幸運かもしれない。

 アヤメはそんなことを考えながら、幼馴染みの親友を隠れ家に誘った。






 聖賢の御方様であるイリス・レーベロア様がウァーテル攻略を行ったのにはいくつか理由がある。


 一つは悪徳の都で襲われたC.V.を可能なら救出し。彼女たちの名誉を取り戻すため報復を行う。

 一つはウァーテルやその周辺勢力を完全に“殲滅”しようと主張する。イリス様にとって上位(師匠)C.V.をなだめるため。元凶の闇ギルドを滅ぼし、名誉をも奈落へ堕とす。


 それらの目的をもって一夜でウァーテル攻略を行い。配下のシャドウ、陸戦師団を従えて占領まで行った。

 当然、危険?を伴う任務であり。シャドウの実力、裏切りを不安視するイリス様の親族(C.V.)は少なくなかった。そのためシャドウの後継者である勇馬と小数のシャドウたちが【人質】としてC.V.城塞に滞在することになり。


 首尾良くウァーテル攻略・占領を行ったことで、姫長の扇奈様が弟君おとうとぎみを迎えにいったのだが・・・



 「まずは“聞かされた話”を教えてくれるかしら」


 扇奈は一族の姫長であって、外交官や密偵ではない。まして魔術文明を持つC.V.に対して、潜入を行うのは破滅と同義だ。未知の高レベル警戒網(まじゅつ)を突破する技量などシャドウの誰にもない。

 よってC.V.が【人質】の勇馬に手を出した“理由(いいわけ)”すら情報源にせざるを得ないのだ。


 「端的に言えば。『ホムンクルス』の創造、『樹霊系』C.V.の次代を作るのに協力させられた。

 

  そうして“子供を作った、責任をとれ”の騒ぎになって。その騒動を解決するのに尽力してくれた“善意”のC.V.と“本当”に・・・しとねを共にしたらしいわ」


 「『ホムンクルス』・・・確か人の体液を素材に作られる人型クリーチャーだったわね。とある研究所でもあるまいし、C.V.が安易に増殖するはずないと聞いたけれど」


 「戦時中でホムンクルス型C.V.が消耗した場合は特例が認められるとのこと。それには“善意”の人間男性から体液・・を得ることも含まれるわ」


 「“善意”ね・・・。〈模擬戦で勝った〉〈手を握った〉等の私達の知らない風習がC.V.側の都合で振りかざされれば、防ぎようないでしょうね。


  『樹霊系』C.V.とはどうだったのかしら」


 “邪鬼は木の股からも子供と作れる”という言い伝えがある。『樹の化身』と夫婦になった昔話もあれば、“男がさらわれた”逸話も存在し。『樹霊系』C.V.がどういう生態なのか知っておく必要があった。


 「奴等は・・・男性“役”の残留魔力を吸って交合するC.V.らしいわ。たいていは同族や拠点のC.V.と『儀式』をするそうだけど。定期的に拠点を訪れる勇者オスの精気から『種』を産むと言っていたわね」


 「・・・・・それはしとねを共にしたと言えるのかしら」


 「言うわけ無いでしょう!客室の地下に儀式部屋があって、そこに樹霊系C.V.が横になる。

  そうして客室で眠る男性役おしべの精気を吸収して『種子』を作る。


  そんなふざけた仕組みらしいわ」


 勇馬の属性は扇奈アネの旋天から数段落ちる風属性だ。地属性の感知タイプ?ですら察知が困難ふかのうな、地下の儀式部屋に気付けるわけがない。


 「とりあえず勇馬に落ち度は無さそう。というか罠にかかったと断言して良いわね」


 アヤメの言葉に扇奈はうなづきつつ、安堵の表情をうかべる。婚約破棄という乙女に対する最悪の侮辱に対し、アヤメが激情のままに動く(暴走する)ことを危惧しているのだろう。

 しかし扇奈の危惧は杞憂きゆうというものだ。アヤメにとってシャドウの存続・発展こそ最優先であり、『婚約』はそのための任務にすぎない。

 勇馬が『頭領』の器に成長したならともかく。最弱の『四凶刃』にすぎない現状では〈弟がトラブルに見舞われている〉という認識だ。




 「勇馬から伝言はあるかしら」


 「“必ず力を得て戻る。それまで待っていてください”だそうよ」


 「それではこの件に関して・・・」


 「愚弟のことは後回しでいいわ。そんなことより貴女アヤメのことよ」


 「・・・・・そう言われてもね。もともと政略婚約だったのに加え、私は勇馬の恋人になれなかった。癒やしよりうるさい師匠気取りの侍女でしかなかった。


  だから勇馬は離れていっただけでしょう」


 小姑こじゅうとよろしく年中あら探しをしたり、口うるさくしたつもりはない。

 だが思い返すと、アヤメの鋭敏な感知能力は勇馬のプライバシーを侵していた。自分の力を示すため彼が挑んできたとき、アヤメは容赦なくその手札を超感覚で“暴き”返り討ちにした。


 「頭領候補(上に立つ者)として自分より強い女、知識に秀でた才女を受け入れる。言うは易しだけど、若者にそれを要求するのは無理があるわ」


 つけ加えるなら旋天属性などという理不尽な力をふるう扇奈(姉)の存在はさぞかしプレッシャーとなっただろう。そんな扇奈を仮の頭領(姫長)では無く、正式なシャドウの長へと推す声もあり。周囲のシャドウたちからもプレッシャーがさらに加算される。そんな中で今回の人質あつかい。


 勇馬の許容量を超えるのもやむなしだろう。そしてアヤメは婚約者でありながら勇馬を支えられなかった。自らの衝動のまま、シャドウの仲間を鍛え『旋風閃』を修得させることを優先した。


 「勇馬に落ち度が無いとは言わないけど。婚約破棄は妥当ではないかしら」


 「それでも貴女に恥をかかせた。負担をかけたことに変わりないわ。

  だから姉として謝罪するし、姫長として代償を払いたいの。


  貴女は何を望む?」


 「・・・・・・・・・・」


 扇奈の問い掛けに、アヤメは沈思黙考する。衝動のままに言の葉を発する誘惑にかられ。


 それでもいつもの自分を保って要望を口にする。




 「私を元の地位に戻してくれるかしら。それを作戦行動にからめて行いたいの」

 昨今の貴族物語では、どこも〈財政問題〉は避けられない試練の一つです。加えて戦国時代において、百里を疾走する忍者ですら領国をまたいで移動するのは命がけだったと考えています。


 これらを掛け合わせると。戦国時代において官位を得るということは。イコール貴族を動かせるだけの【財力】がある。軍事力にも直結する【財力】のバロメーターが『官位の高さ』だったと思うのです。


 加えて戦乱の京都に居座る朝廷と交渉するのは容易なことではありません。忍者ですら勢力圏外に行くのは危険なのに。地方領主が外交工作をする人員を戦乱の京都に送り込み活動させる。

 『諜報』『外交』能力に加え信頼?できる人材でなければ、せっかくの『工作資金』が無駄になる。下手をすれば資金を持ち逃げされるでしょう。というか失敗すれば面子は丸つぶれです。


 つまり戦国時代に官位を得るというのは、外交・財政面で優れた大名の証である。素人わたしが現代の企業を評価するのに株価、会社の格付けを参考にするように。情報弱者の豪族、武将たちが戦国大名の実力を評価する場合、『貴族の官位』が重要な情報になる。一族の存亡がかかった判断を下す指標になると愚考します。

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