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104.閑話~火蛇は呑み込む

 “戦国時代で活躍した忍者。彼らの特筆すべき能力として『走る速さ』があります。その能力は現代のマラソン選手を遙かに超えており。たくさんの忍者道具を持ちながら、長距離走の何倍もの距離を走ったとか”


 忍者ファンとしては夢のある話だと思います。ですが『水蜘蛛の術』を作り話と笑うより、こっちを疑うべきでしょう。伝令兵、飛脚にマラソン選手より“忍者は優れていた”と聞こえるお話。


 それは戦国時代の人々を“間抜け”とおとしめるリスクを抱えていると考えます。

 都市ウァーテルを支配するカオスヴァルキリー(C.V.)、イリス・レーベロア。侍女頭を務めるシャドウのアヤメを同席させ、彼女は二人の配下と面会していた。


 一人は侍女シャドウであるカヤノ。もう一人は一応、顔と名を覚えているにすぎない下級シャドウのタクマ。


 カヤノは同僚であるユリネの術式『水蛇装繊』と『水蛇操線』を売り込んできて。さらにタクマが使う『旋矢』の弓術をも推してくる。こういうのも抱き合わせ推し(販売)と言うのだろうか。


 そんなことを考えつつイリスはタクマに問い掛ける。


 「『旋矢』の術か。どういう技か教えてくれるかな?」


 「ハ、ハァーーーーーー!」


 緊張を隠せない彼の言葉をまとめると。


 『旋矢』の魔弓術は確かに有用な技と言える。

 山なり、放物線を描くように矢を放ち。そうして落下してくる矢を風の魔術で操作する。


 山なりに矢を射る弓の技を会得し。後は風の術で矢をまとに誘導するだけで、命中率の高い矢を放てるのは訓練〈コスト〉的に素晴らしい。

 他にも落ちてくる矢の軌道をいじれば、曲射モドキのマジックアローと化すだろう。矢を連射する秘技も、空中に数本の矢を放ってから風術式で操れば再現できるかもしれない。


 色々とバリエーションが考えられるが。


 『アヤメは「旋矢」をどう思う?』


 『内緒話フォトンワード』の質問に答えは瞬時に返された。


 『はっきり申し上げれば、「水蛇」の派生術式より遙かに魅力的です』


 風属性の多いシャドウたちにとって。『水蛇』の術式を開発し、実戦で使えるようになるまでどれほど時間・手間(コスト)がかかることか。

 それより『旋風閃(身体強化)』の適性が低い者たちに活躍の場を与えられる。遠距離攻撃の弱い軍団の弱点を補える。そして対抗策が練られるまで、新技『旋矢』によって敵勢力を圧倒できる。


 アヤメの意見は大半がイリスと同様だった。


 『・・・・・お人払いを』

 

 しかしカヤノの考えは異なるようである。


 「アヤメ。タクマ君と数人を連れて『旋矢』の性能試験をしてくれるかな。こういうのは言葉だけじゃわからないからね」


 「かしこまりました『聖賢の御方(イリス)様』」


 カヤノと二人だけで話すため、アヤメたちを屋外訓練場に移動させる。


 そうして改めて話し合いが始まった。





 「それで?どうして『装繊』、『操線』と『旋矢』を合わせて開発するのかな?」


 「色々と人間関係を考えて。『旋矢』の技を絶対に完成させて、それをタクマの功績にするためでございます」


 [何を企んでいるの?]というイリスの問いに対し、カヤノは直球で答えてくる。


 「目立った功績のないタクマの編み出した『旋矢』だけ(・・)を研究しては不公平感があります。


  『装繊』『操線』の術式開発を集中して先に行った場合ですが。

  『魔竜鬼いもうと』の身体構成を行っているユリネの負担になりますし、『旋矢』の研究が後れる。タクマ()としてユリネ()の手助けをするでしょう。


  ですので三つの術式・技を同時に開発する。シャドウの開発能力を完全に超過する研究計画を立てることで。陸戦師団、魔導師団を巻き込み協力する体制を取りたいのです」


 非常時になって、大きな計画に取りかかる際になってから、協力体制を取ることは難しい。仮にできても、どこかの連合軍のように連携が(つたな)い。強大な敵に各個撃破される程度の協力体制では困る。


 「う~ん。それだとタクマ君、ユリネちゃんの〈一家〉ばかり魔術研究で優遇ひいきしていると言われないかな?

  他のシャドウ(みんな)から開発計画の案を集める・・・時間は無いか。

  ミヤホの『八曜燐舞(連携術式)』から有用な術式を選んでから、ボクが『旋矢』と比べて試行錯誤して・・・・・う~~~ん」


 実力至上主義のC.V.とはいえ〈利権〉〈名誉〉をイリスは軽んじる気はない。それらで生活の糧を得ている。それらを得ることに人生を賭けている者たちの力が侮れないからだ。


 とはいえ『聖賢の御方様』などと讃えられているが、イリスの本業は賢者、軍師の類では無い。

 ただ反則的チート魔導能力(デザインアーツ)によって、個々の能力を引き出す成功率が“今のところは”高いだけだ。


 魔術研究に伴う名誉、報奨を調整するなど畑違いもいいところである。とは言えそれを馬鹿正直に言っては主君失格というものだ。[王として背中を見ている配下に不様をさらすな]と遠征大王も吠えている。


 「やはり私ごときの調整案では不完全でございますね」


 「いや、そんなことは・・・ちょっと待って。今、ボクの思考加速(予測演算)で計画を練るから」


 「おやめください。無理な思考加速(そのようなこと)が姫長様に知られれば叱責しっせきですみません」


 「・・・そうかな?」


 何だろう。計画の見通しが立たないのに、カヤノが残念がっているように感じない。

 むしろイリスの本業ジョブが[厄介な巣穴に引き込まれている]と警鐘を鳴らしている。


 「こうなればやむを得ません」


 そんなイリスの勘は的中していた。



 「聖賢の御方様から賜った私の【瞳】の力。それを返納することを代償に。

  

  このたびの術式開発、及び他師団との協力を推し進めますわ」


 しかし予測が当たっていようと避けられないことがある。あるいは既に【詰んで】おり。アヤメとタクマを退室させた時点で、万に一つの可能性も消滅したと言うべきか。


 「【瞳】を返すの?それはまた思い切った決断をしたね」


 「恐れ入りますわ。ですが私の魔力、技能はこれ以上の伸びは期待できそうもございません。


  貴重な【瞳】はふさわしい者が得て。私は侍女の御役目に邁進まいしんしたいのでございます」


 「・・・言っておくけど、タクマ君に【瞳】は譲渡できないよ」


 「承知しておりますわ」


 カヤノの覚悟にイリスは沈黙するしかない。


 イリスの【瞳】の力。それは【認識】を強化する『暗示』と『視力強化』の魔導術式だ。


 南方の狩人は優れた目を持っている。遙か遠方の獲物に関するものを見ることが可能だとか。

 ただしそれは万能な神の視点では無い。狩人が【認識】できる。【認識】したいと願う動物に関連することのみ(・・)を捕捉する望遠の【瞳】であり。


 狩人が見たいと願っていない【認識】が甘い物。都会の人間が視力検査に使う記号などは、接近しないと見られない。


 「カヤノ(・・・)がそこまで決めているなら、ボクから言うことは無い。


  『認識変動(アルゴスプリズム)』を解除。その瞬きは宝珠に還る。

  そしてこの〈功績〉を持って『旋矢』他三件の術式開発を許可するよ。イセリナ、クララ魔導師団長たちと協力してね」


 「かしこまりました、イリス様。必ずや結果を出してご覧に入れます」


 かくして会談は終了した。


 

 某、時代劇映画を見て思ったのですが。人間は刀一本、所持するだけで走行にすさまじい負荷がかかります。まして忍者道具を一式持って。街道もない坂道、山中を越えて。百歩譲って自陣ならともかく、見知らぬ敵対勢力の領域を脱けて、長距離を走る。


 無理があります。ニンジャマスターならともかく、忍者がそんな超人だらけなら早馬など必要ありません。


 忍者が千里を駆けた。それはリレー等の情報伝達を行う仕組み(システム)があったのを偽装した。脳筋武将に対し、忍者の価値・能力をアピールする演出の一つだったのではないでしょうか。


 何より【一人の】忍者が千里を駆けたりしたら。その移動経路の警備を担う、裏の住人たちは“穴だらけのザル警備”をやっていたことになります。

 忍者たちの尊厳のためにも。『一人で千里を駆ける忍者』などというものは幻想であるべきだと思うのです。


 

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