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102.閑話~双つの渦

英雄ペルセウスの冒険。それはプラネタリウムならヒーローですが、海神ポセイドンにとっては狼藉者のおハナシでしょう。


 メドゥーサ退治→海神ポセイドンの愛人・側室?殺し

 アンドロメダ姫の救出→眷属の化け鯨(ケートス)を石化させ、神聖(イケニエ)の儀式を破戒

 母親に恋慕した島の王と一党を石化→海に囲まれた島国で、海神ポセイドンを信仰する者を石化


 しかしポセイドンはペルセウスに報復の類を一切していません。『トロイア戦争』『オデッセア』では復讐をしっかり行なった。海の怪物をけしかけ、終戦後も恨みを忘れなかった。

 そんなポセイドンがペルセウスに恨み言の一つも言わないというのは不自然だと思うのです。

 ユリネと『水那』。二人の発動した『酷冷泉』が猛威をふるい、魔薬を集積した盗賊ギルドのアジトは壊滅状態に陥る。

 『水那』の操っていた水蛇が秘かに盗賊連中の着衣に絡みついて水で濡らし。濡れた身体が冷える現象を強制させる『酷冷泉』の使用条件を満たしたために、大勢が一度に低体温症に伴う麻痺にかかったのだ。


 「クソがっ、まだ負けていない。俺にはコレがある!!」


 そんな冷気が漂う中で、魔術封じの『魔石護符(タリスマン)』を掲げるシーフロードが唯一人で威嚇してくる。その顔は冷気以外の理由で青ざめていた。

 ユリネたち。もしくはウァーテルを制圧する兵たちがこの場の魔薬を没収することはもはや避けられず。それに伴う闇ギルドからの制裁に心底、恐怖しているのだろう。


 「破術の魔石か。そんなモノがいつまでも通じると思っているのかしら」


 「うるせぇ!舐めるんじゃねぇ!!!グダグダしゃべっている暇があるなら・・・」


 「遠慮なく仕留めさせてもらう。姉様、私に任せてっ」


 ユリネの返答を待たずに『水那』がシーフロードに突撃する。切り札である『水蛇使いのシャドウ』の形態をとっての速攻。

 その瞳にはかつて惨敗した『術式崩壊(スペルブレイク)』へのリベンジを願う執念が見え隠れしていた。


 「ちっ、術式解除(ディスペル)


 そんな『水那』に天敵とも言うべき魔術が展開する。灰色の術式が渦巻き、魔獣の角を連想するモノが『水那』を迎え撃ち。


 「無駄っ」


 「なっ!?」


 片手の皮一枚のみ(・・)を水に変えて、ディスペルの効果が終了する。

 『水那』のコアである魔力の糸紐(いとひも)をかすめることなく、薄皮が瞬時に再生されていった。


 『魔石護符(マジックアイテム)』『魔術書』の類は便利だが、長所のみ短所ゼロの神秘(チート)ではない。魔術技能に劣る者でも術が使える〈長所〉の代わりに。威力、コントロールが固定される〈短所〉を併せ持つ。


 そんな変わり映えのしない(ワンパターン)術式など理不尽な実力者(イリス)様に散々、鍛えられた『水那』に今さら通用するはずがない。

 まして魔力の塊(ドゥーガ)である『水那』は魔力を視て格下の術式なら解析できる。最適な魔術の回避、抵抗手段を選択できるのだ。その結果、必中の『ディスペル』も皮一枚を『デコイ』にして、突撃を続ける。


 「観念しなさい!」


 「けっ、誰がっ!」


 そう告げる男のタリスマンを持つ片手とは反対側の手に短剣が現れ。まばたきの間に閃き、『水那』の操る粘体大蛇(スライムサーペント)を切り裂く。


 「ざまあみやがっ、がっ、ぁぁぁ!?」


 「それで?」


 鈍色に輝く短剣にも魔術を解除する効力があった。だがそれは持ち手が見て、認識している術式“一つ”を破壊するに過ぎず。

 『水那』が高速で『水蛇』の再生し再び巻きつき攻撃を行なう。もしくは死角の足下から透明に近い『水蛇の群れ(ヒュドラ)』を殺到させれば、二つ以上の術式を破壊する術はない。魔術を否定する概念を持つ『ディスペル』は連続使用を否定しているからだ。


 そもそも暗黒街では畏怖の対象でも、初見で怪蛇と渡り合える実力者は少なく。ましてシャドウ・陸戦師団員(重騎士)との模擬戦を経験している『水那』にとって、シーフロードなど戦闘力に劣る指揮官でしかない。




 「・・・・・っ、下がりなさい水那!!」


 「ッ!?」


 だがユリネの感覚は『水那』に迫る脅威をとらえる。アヤメほど鋭い五感、勘はユリネには無い。

 しかし繊維への執着は、彼女に【糸】を解析する能力をもたらし。その能力は衣服を引き裂く、忌まわしい魔力と筋肉の“膨張”をユリネに知らせていた。


 「なっ!?これはいったい・・・」


 「下がりなさいと言ってるでしょう、水那っ!!」


 「ハハッ・・・もう遅い。思い知れっ、思い知るがいい!!!」


 核である『糸紐』が無事なら復活できる『水那』の生命力は高い。だが反面、危機意識や逃げ足に劣り。未知の脅威から退避するより“とどめ”を優先しようとしていた。


 「やむを得ないわね・・・『思考加速』」


 『水蛇蒼泉』の術を編み出したユリネに『旋風閃』を使いこなす容量うつわは既に無い。

 よって身体を加速する力はほとんど失ったものの、条件付きで『思考加速』だけは使えるようにしていた。


 『糸』を紡ぐため。【家族】を守るため。

 そしてユリネの身勝手で産み出した【水那】を・・・・・


 加速した思考が一瞬、『水那』を使い魔として操ってでも退避行動を取らせる誘惑にかられる。

 だがソレは家族ではない。余所と違い、“首輪”をつけた奴隷・獣を家族と認識できる文化をユリネたちは持たない。




 『水渦(すいか)双泉(蒼泉)


 だからユリネは切り札をきる。イリス様の『術式干渉アルゴスゴールド』を防ぐため。格上の同僚(アヤメ)に一矢報いるための取って置きを発動する。

 連携技・連動術式のこれならユリネから一方的に『水那』を操作したことにはならない。『水那』からもユリネの魔力に干渉することで『水渦双泉』は成立するのだ。


 「・・・水渦双泉!」


 ユリネの発動からわずかに後れて『水那』の『水渦双泉』も発動する。それにより二人それぞれに魔力が渦巻き、さらに魔力の交換・流動が始まった。


 「悪あがきを・・・おとなしく俺様の道連れになれ!闇ギルドの糧となって喰われろっ!!」


 シーフロードの肉体が膨張し、同時に腹部から魔力が膨れ上がる。それは貪欲な獣と化し、ユリネたちにかぶりついた。その牙は先程の『ディスペル』と異なり、複数(・・)匹の水蛇を切り裂いていく。


 「魔力喰らい!?フェンリル・・・ではないわね。月を喰らう狼たち(スコル・ハティ)かしら」


 「ハハハ、喰われろ。どんどん喰われて、みんな死ねぇ!!!!!」


 邪法による肉体改造を施された盗賊は、狂ったように叫び笑い続ける。それは捨て駒にされた者の嘆きであり。同時にユリネたちの注意を引きつけるミスディレクションでもあった。


 「・・・・・ガァッ」


 「「・・・・・・ッ」」


 スコルとハティは二頭のオオカミ。水蛇の群れを蹂躙していた獣とは別の一頭が影から跳躍して二人に襲いかかり。



 「『水渦双泉』」


 「ギャンッ!?」「ギャッ!!」


 『水那』が形成した渦に引き込まれ、ユリネがまとう渦にはじかれた。


 「悪あがきをっ!おとなしく死に・・・」「「ッ!!?」」


 最期じばくの華を飾ろうという男の眼前で、スコル・ハティの名を冠する邪法の獣たちがすりつぶされていく。『双つの渦(ユリネたち)』に牙を突き立てる挙動ができたのは瞬きの間だけ。


 「姉様っ!」

 「合わせてっ!」

 

 渦の回転が速まれば、牙は通らず。双つ渦が離れれば、邪法(獣たち)の動きが制限され。渦が接近し交錯すれば、水蛇と衝撃波が邪法の魔力を削っていく。


 「「・・・・・・ッ」」

 「おい、どうした!?俺の命を魔力にしているんだぞ。暴れろっ!猛れっ!!」


 「無駄よ。もう決着はついているわ」


 「残念だったね~。普通のドゥーガなら危なかったでしょうけど。

  姉様と『私』の『渦』に挑むのは“ちょっぴり”力不足だったわね~」


 憐れな盗賊が首筋を邪法の牙にあてがうものの、反応は返ることは無く。

 それを見て“嘲笑”する『水那』の“増長”をどう注意するべきか。ユリネは悩みながらアジトの制圧に取りかかった。








 「『水渦双泉』」ユリネと『水那』が連携して放つ切り札。


 それは蟻・蜂(ムシ)の群れが直接、エサを取れず。群れの仲間が加工した養分しか摂取できないように。

 『水那』は周囲の魔力を『渦』で集めるがそれを直接、吸収できず。ユリネが加工した魔力のみを操れる。

 ユリネは周囲の魔力を直接、吸収できず。『水那』が集めた魔力を『渦』の回転で加工し半分を渡すことを条件に、残りの加工した魔力を自分のものにできる。


 家族とはいえ、他人が集め加工した魔力を条件付きでしか使用できない。その『誓約』により姉妹は他者からの『魔術への干渉』をはねのける「『水渦双泉』」という異能を得る。


 師匠クララC.V.の見立てでは、ヒトの『術式解除』『結界』の類なら格上が相手でもそう後れは取らないとのこと。

 しかしユリネと『水那』が打倒べき目標は、小国の宮廷魔術師などではない。

 本物の上級シャドウ、楽しそうに寸評する師匠C.V.と同レベルの理不尽と戦い勝利するのが目指すいただきであった。



 海神ポセイドンの制裁を受けない英雄ペルセウス。


 ですがそれも『女神ヘラ』の制裁ゼロに比べれば些細なことです。大神ゼウスの浮気相手、子供たちが全て『女神ヘラ』の制裁対象となったわけではありません。

 しかし英雄になりそうな子供、『準女神』の女性たちは99%神罰の対象です。それなのにペルセウスに『女神ヘラ』は全く関わりません。これはいったいどういうことでしょう。


 おそらくペルセウスには神の怒りを鎮める“超絶チート”があったから神の怒りにふれなかった。

 もしくは父親が『水に関わる神』だったのではないでしょうか。『雷を司る神』でなければ『女神ヘラ』が怒る理由はありません。

 それにペルセウスの父神は『金の雨』に変身していたとのこと。大神の象徴『牛』ならともかく。

 無言ではどんな神が『金の雨』に変身していたかなど“ヒト”の力で正確に見通すことが可能でしょうか?

 捨て子を“川”に流す昔話は多いですが、〈海に流されて島にたどり着く〉話も稀少過ぎます。


 なおこれらの説は“状況証拠”のみの推論ですのであしからず。ただ某スナイパーが仰るところの【二度の偶然は無い】という名言を考えると。そろそろ「突っ込みたい」と思うのです。

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