10.狡猾な灯火
私が初めてバーサーカーという存在を知ったのはRPGゲームⅡ『南方系』の血に飢えた戦士モンスターでした。
それが怒れる人間の戦士、北欧の不死戦士がルーツと知れ渡り。狂った英雄全般まで含まれるようになりました。時代の変化を感じます。
ベルセルクという存在がいる。名前のルーツは熊の上着を纏う者だとか。熊殺しができるほどの戦士。あるいは荒ぶる熊のような戦闘力を持つ者ということだろう。
その膂力はもちろん脅威だが、獣と同等のスピードも敵軍を圧倒する。並の戦士にとって、ベルセルクとの遭遇は死と同義だろう。
「だからと言って、仮にも一応ヴァルキリーのボクに対して狂戦士にナルの?」
「ガァッ‼」
「敵味方の区別はついてる。だけどボクが支配系の能力を持っていたら一瞬で詰んでしまうかもしれないのに」
しかしベルセルクとて無敵の存在ではない。熊より強い魔獣を相手にしている勇士にとって、邪まなエインヘリヤルなど倒すべき怪物の一種でしかない。
「ボクの言っていること、わかるかな?侮辱してるボクだけを攻撃するんだよ」
「このっ!ああ、理解できてる。リカイできテるよ。使者とは名ばかりの脅威をタタッキる。周りのモノはマキコ、まきコまない」
なぜならエインヘリヤルは群れて行動する。それも神の世界で訓練と宴会を連日繰り返し続けるのがオリジナルのベルセルクだ。バルムのように単独で街中に出てくるなど劣化コピーにすぎない。
だからイリスは余裕でバルムの斧槍による攻撃をいなしていた。短剣によって。
「さすがにそろそろ短剣だけじゃきついか。『スイングレイ』」
そうイリスが告げた言の刃によって、短剣から魔術の光が伸びる。それは収束し研ぎ澄まされて光の長剣と化した。
「さてと、これでなんとかなるかな」
マジックソード。剣術と魔力を併用する者たちにとって、オーソドックスな術技であり。その発動により戦局が変化した。
「なめてんのガァ‼きザま。なめるな、バカにずんなギさまっ‼」
「ひゃっ!?あっれぇ、おかしいな。伝承だと光の剣を出せば怪物のような敵をシャイニングヒーローが切り裂いているのに。やっぱりボクに模倣術は向いてないのかな」
「・・・・・」
模倣もなにもイリスのふるう光のロングソードに攻撃力はおろか実態すらない。伝説を猿真似して相手がひるませる偽りの術式刃。あるいは一発芸に等しい二流の幻術にすぎない。
そんなものが覚悟を決めた戦士に通用するはずがなかった。
「う~ん。やっぱり能力の向上のためとはいえ『攻撃魔術を禁止』の誓約はきついなあ」
「だったら今、楽ニシテやるヨッ‼」
そう告げたバルムのハルバートがうなりをあげる。その一撃は魔術の灯火を通り過ぎてイリスの前髪をかすめた。
「遠慮しておくよ、狂言戦士。しかたないからズルをさせてもらう。
『フォトンライン』発動!ついでに観覧料も払ってもらう。扇奈‼」
「イエス、マイマスター‼」
その号令とともに戦闘の流れが変わる。今度は誰にでもわかる光学情報で。
まずは空中に光の線が複数描かれ。その派手な魔術の演出と同時に今まで影と化していた扇奈が跳躍する。その跳躍は盗賊にはありえない速さ、高さだった。
だがそれに反応できたものは少ない。突如としてあらわれた光線の乱舞に、誰もが攻撃魔術が放たれることを確信した。最低でも目くらましの術式が展開されるだろうと警戒し、ソレへの対応を優先する。
「〔熊の毛皮よきたれ〕狂戦士のルーツに関わる言葉だけど・・・それに関連するバーサーカーは神力の加護が必須の不死者。もしくは獣の狂気に染まらなければならない。
斧槍を使うのは無理があったね」
「‼、ガァッ‼だまレェ!死ねっ!ダマれぇ‼」
「言ったでしょう。仮にもヴァルキリーのボクにベルセルクもどきをぶつけるのかって。相性が悪かったんだよ」
そう告げながらイリスは斧槍の連撃による嵐へと飛び込む。その歩みに臆したところは一切なく、絶対の余裕があった。
「モンスターだけでなくバーサーカーともそれなりに戦っているからね。力に依存している攻撃はその分、動作の起こりが見え見えなんだよ」
「オオォ!グオオォ‼」
「そもそも君は狂戦士じゃないでしょう。バーサーカーのふりをして威圧する。バーサーカー対策をした相手に斧槍の念動操作で必殺の一撃を放つ。それがバルムさんの戦法でしょう」
「・・・何故わかった」
「ボクは攻撃魔術を放てない代わりにちょっとした能力があってね。そのうちの一つに他人の魔眼を解析、逆探するというのがある。
バルムさんの動体視力は魔術で強化されていない。クスリで濁らせた虚飾の瞳だよ。そんなベルセルクがいるわけがない」
「・・・・・なんだと。だとしたらっ」
狂戦士モンスターは蛮族の戦士、言葉が聞き取れない者の名前が変化して『バーサーカー』になったのかもしれません。言葉の通じない、異民族の戦士を狂戦士扱いした。北欧エインヘリヤルとは関係ない怪物なのだと推測します。
大昔のファンタジーにはこういうことがけっこうありました。ですが、それも含めて伝承を楽しみたいです。物語なのですから伝言ゲームおおいにけっこうだと愚考します。
ただし〔人種・文化の中傷は禁止〕という条件をつけます。




