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インソマニア

作者: 独楽

全然怖くないけど、ホラーです。雰囲気で味わっていただけたら幸いです。

夏に火照る体を持て余して

夜、愛車を走らせ

名前も知らない湖に行く。

ひんやりとした湖畔の上を駆ける風を感じ

裸になって、湖に潜る。

真っ暗な空間

完全なる孤独感を感じて、上に上がる。

湖岸に仰向けに寝転がったのに、

まるで地球を背負っているデジャブ


「自分勝手じゃない」

さっき別れた女の声が頭に響く


なにもわかっていない。

俺を理解しようとしない。

勝手に彼女づらして、勝手に人のプライベートに土足で踏み込んで来た。

思い出すだけで腹立たしい。


起き上がり、再び湖へ

今度は更に深く潜った。

肌に纏わりつく水

月影一つない湖面は、暗く波打って

水さえも黒く濁って見える。


夜、眠れない日が何日続いただろう。

すでに限界に来ている疲れた体。


息、ギリギリまで潜り咳き込んだ。

咽、鼻の痛み...

再び、湖岸に戻った時

声を上げて笑った。


眠れない夜は、今夜まで

空の暗闇は高く、手を伸ばしても届かない。


車に戻り、トランクを開けた。

横たわる女がそこにいた。

ピクリともしない体を抱いて湖へ

俺の身体とは対照的に、彼女の身体はひどく冷たい。

沈むように湖に行った。

黒い湖水は、彼女の身体を誘い攫って行く

俺はそれに逆らわずに眺めた。


「私には、あなたが必要なの」

「俺にはそうじゃない」

「私は、別れないから」

「迷惑なんだよ」

「迷惑なんて...ひどい」

「ここまで言わせたのは、お前だろう?」

「私のせいにするの?」

同じ会話が続き、エスカレートしていく女の行為

四六時中纏わりつく女の存在

俺は、眠れない日々が続いた。


「俺はゆっくりと眠りたいんだ」

答えは、簡単だった。

細い女の首に

グッと力が込められた両手

止める女の手が力なく下りた時、すべてが終わった。


「じゃあな」

俺は、湖に背をむけた。

いつのまにか火照る身体もひんやりと熱を逃し

車へと足を進めた。


「自分勝手ね」

耳もとに女の声がした。

ゆっくりと湖から伸びる女の髪

長い影のように黒い髪が、俺の腕に纏わりついた。

「別れないっていったじゃない」

抵抗する俺の身体が、ゆっくりと湖に引き戻された。

抗えない力

女の黒い髪

女の白い腕

俺の首にからまって、ゆっくりと力をこめて行く

水の中なのに、女の笑い声が耳に聞こえる。

黒く濁った水が、口から鼻から容赦なく入ってくる。

助けすら呼べない孤独な世界へ

俺は、永遠に眠れない世界へと落ちて行った。










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― 新着の感想 ―
[一言] 独楽さん、これ、けっこう怖いですよ! 男女の感情のもつれほど怖いものはありません。 はじめの方の流れは、恋愛もののようで、ホラーっぽくはないけれど、後半は鳥肌ものでした。
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