2-4.これはもしや
私たちは一旦落ち着き、両サイドに3人ずつ座れそうな大きさのテーブルに腰を下ろした。
す
私は入り口側のほうに、1人で座る。
向かい側には、太陽の神と、エミユと呼ばれていた海色の髪の青年が。
テーブルの右側にある窓辺に背中を預けるように、赤い髪の青年が。
ヴァンは左側にあるカウンターのような場所に乗りかかり、足を組んで座り、両手をカウンターについて機嫌悪そうに座っていた。
「お騒がせして、すみませんでした」
「いいえ……」
申し訳なさそうな顔の少年の横で、エミユがニコニコと楽しそうに微笑んでいる。
先程、ヴァンに2度目の目潰しをして黙らせた人の笑みとは思えない。
綺麗で優しそうな顔立ちに似合わず、怖い人なのかな?
「僕の顔になにかついてる?」
私がじっと顔を眺めているものだから、エミユが笑みを絶やさぬまま問いかけてきた。
「い、いいえっ……!なんでもないですっ!」
私は、慌てて顔を反らした。
エミユのクスッという小さな笑い声に、恥ずかしくなって俯いたところに、少年が話しかける。
「まずは、私たちの自己紹介をさせてください。私の隣にいるのが水の神エミユ、そちらが火の神フラム、あちらが風の神ヴァン。そして私が太陽の神ルイです。私たちは、米に宿る七ノ神です」
「ななのかみ?」
「米の七ノ神を知らねぇのか?お前のとこも伝承が廃れるほど米を食ってねぇのかよ。大丈夫か、こいつ」
さっきから、お前だのこいつだの、風の神ヴァンの言い方はちょくちょく感に障る。
「大丈夫か、こいつ」だなんて、まるでバカにされたかのようだ。
私が、怒りを含めた眼差しをわずかばかりヴァンのいる左側に向けると、エミユが諭してくる。
「あぁ、ごめんごめん。ヴァンは口が悪いから、誤解させるようなことつい言っちゃうんだ。あかねちゃんの頭がバカなんじゃないかって言ってるんじゃないよ。
伝承を知らない君に僕たちの"手助け"をしてもらうなんて、力になるんだろうかってこと」
「……手助け?」
「そうです。まず伝承のことからお話ししましょう。伝承と言ってもとても簡単な口伝なのですが、この世のあらゆるモノには、神が宿るとされています。というか、実際宿っています。花には花の神、風には風の神、目に見えない歌にだって神様がいます。
そしてお米一粒には、7人の神様が宿ると言われ、最後の一粒まで残さず大切に食べるようにと、親が子に教えるものなのです」
「へぇ……」
「へぇ……って、こいつやっぱ知らなかったのかよ。バカか」
またムッとするようなことを言う。
「それなら、私たちの世界の住人も、バカになってしまいますね」
「私たちの世界?てことはここはやっぱり……日本じゃなくて、異世界?」
「あれ、案外物わかりいいんだね」
エミユが、意外そうな顔をして言った。
案外って、この人もバカにしてる?
まぁ、それはヴァンほどムッとしないからいいとして。
実は私はゲームオタクで、主人公が異世界に飛ばされて冒険したり、恋愛したりするゲームだって、好きで何度もプレイしている。
隠れオタクな故かはたまた性格の問題か、自分をちゃんと表現できず、中学校ではろくに友達もできないまま終わった。
周りのリア充で綺麗な女子生徒たちについていけず、おどおどしてばかりだった。
そんな私なもんだから、非現実的なことを考えて妄想に逃げるのは日常茶飯事だったのだ。
もし、ゲームの世界に行くことができたなら。
見たことのない楽しそうな街並みに、頼れる仲間との冒険、イケメンとの恋。
現実世界にいるより、なんて幸せなんだと。
そして今現実に、こうして急に異世界に飛ばされて、かっこいい青年に助けられて、それがはたまた神様で、神様わらわらでてきちゃったりなんかしたら。
もうこれは……これは……っ!
『異世界逆ハーレム恋愛ゲーム』じゃないのっ!!