男爵令嬢が公爵令嬢
指摘を頂きまして、題名を変更させていただきました。
まだ仮段階ですが、しばらくはこちらで行こうと思っています。
何かご意見等あれば教えてくださると嬉しいです。
「リヴィア様、お食事をお持ちいたしました」
「ありがとう」
読みかけの本を閉じて、キャシーとラナが運んできてくれた夕食の用意されたテーブルの前に座る。
食事は私の部屋で取らせてもらうことにした。ひとりで広い部屋で食べるのはあまり好きではないの。さすがにここの人たちは同じテーブルにはついてくれないし。
広い部屋の大きなテーブルで一人で食事。まるで世界に一人きりみたいじゃない?
「あっ、あの! リヴィア様!」
勇気を振り絞ったような様子でラナが切り出した。キャシーも不安げに私を見ている。
「何かしら?」
「あの……、それが………」
急かさずにじっと待ってみる。
何があったのかしら。
「旦那様が……、今日はお帰りになられないと…………」
あら。そんなこと。
そんなに深刻そうにすることかしら?
…………ああ。今日は初夜ですものね。
私には関係ないことだからすっかり忘れていたわ。
「私はお飾りの妻だって聞いていないかしら?」
そんなに真剣に謝らなくても大丈夫よ。本物の夫婦なら悲しいことかもしれないけれど、私たちは違うもの。
「それは……、聞いてます……けど……」
「旦那様のお出迎えくらいはせめてしようと思っているの。嫌がられるかもしれないけれど。だからもしもお一人で帰ってきたときには教えてちょうだいね」
お一人のときだけ、ね。
「でも……。……わかりました……」
「さあ、リヴィア様に食後のお茶をお出ししないと」
「あっ、はい!今すぐに」
セシルが二人を急かすように催促した。話は終わりとでも言うように。
私の専属侍女はセシルを含めて三人。セシルとラナとキャシー。
一番私に仕えている月日が長いということもあって、セシルが二人をまとめているみたい。
キャシーとラナは慌ててお茶を用意し始めた。
甘い香りのする茶葉は最高級のもの。待っている間も楽しめる。
ラナはそそっかしいけれど、淹れる紅茶はすごく美味しい。昼間にも入れてくれたけれどとても気に入ったの。食後のお茶はこれからの楽しみになりそうだわ。
「では、私たちはこれで失礼いたしますね。何かあればすぐに参りますのでいつでもお呼びください」
「絶対お呼びくださいね!」
食器をもって二人は部屋を退出していった。
本当なら私が寝る直前までいたいのでしょうけど、私にはセシルがいるから。美容の手入れも今の私には必要ない物。二人には申し訳ないけれど、何かあれば必ず呼ぶということで納得してもらった。
食事を終えて、お茶も終えて、入浴も終えて、それでも旦那様は帰ってこない。
結婚式は一人で。初夜にも旦那様が訪れない花嫁。
…………素敵な結婚だわ。
「ねぇ、セシル」
「はい、リヴィア様」
「私って幸せね」
「リヴィア様……。そうですよ。幸せになってくださらないと私があの方たちに怒られてしまいます」
窓からは月明かりが差し込んでいる。
この屋敷があるのは貴族街のはずれ。高位貴族の屋敷が立ち並ぶ辺りからは少し離れている。
遠くに見える貴族の屋敷に灯る小さな明かりたち。まるで星空みたい。外側から見るとこう見えるのね。
「……ライラ……。これで貴女は私に笑ってくれるかしら……?」
貴女は幸せかしら?
なんて、答えが返ってくるはずはないのだけど。
遠い夜空に思わず手を伸ばしてしまいそうになる。そんなところには誰もいないのに。
彼女もあの子も、みんなも…………。
もう私の目に映る場所にはいないの。
「リヴィア様、夜風は冷たいのですから風邪をひいてしまいます。もうお休みになりましょう」
「……そうね」
セシルが窓を閉めて私の肩にストールをかけた。
冷えた体を包む暖かさが心地いい。
私のために新調されたのでしょうベッドは広くて柔らかくて、とても寝心地がよさそう。
「おやすみなさい、セシル」
「はい、おやすみなさいませ、リヴィア様」
静かに閉まるドア。暗く静かな部屋。
眠りに落ちるまで時間はあまりかからなかった。
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ブクマ2000突破!ありがとうございます!!
まだまだ拙い作品ですがよろしくお願いいたします。