男爵令嬢の結婚*アレクシス
「オルヴァが結婚……だと……?」
手に持っていた書類が落ちたのも気にならなかった。もしかしたらインクを倒したかもしれない。腕が何かに当たった気がする。
「ええ。本日式をあげたと」
「今日が……式……。…………相手は」
どういうことだ。
なぜ。どうして俺に話が来ていいない。おそらく父上と母上にも知らせていないのだろう。
できるだけ心を落ち着けて相手の名前を尋ねた。
本当に好きな相手ができて結婚したのかもしれない。それでも納得はできそうにないが。
無理矢理自分を納得させるようにしながら続きを待っていたのに、俺の補佐官から帰ってきたのは思いもしない名前だった。
「キース・ブラッドフォード伯爵。あの英雄です」
それはよく知った名前だった。
「キース・ブラッドフォード……だと……」
あんな男と、オルヴァが……結婚……?
バカな!あんなクズ男が相手だと?
確かにあの男はこの国の英雄で、騎士として策士としてなら素晴らしい人間だが、男としては最低だ。あんな男の妻になって幸せな生活が送れるわけがない。
愛されることのない結婚生活を送ると言うのか、オルヴァ。
いや、彼女は美しい。それにあの男が目をつければ間違いなく手を出そうとする。それも駄目だ。あんな男の毒牙にかかるなんて、オルヴァはあの男が簡単に手を出せるほど安い女じゃない。
結婚式となれば流石にあのオルヴァも飾る建てられるはずだ。あの男はそれを間近で見たというのか。俺でさえ見れないその姿を。
許さないぞ、キース・ブラッドフォード。
「本日の式には新郎は不在だということです」
その言葉に思わず拳を執務机にたたきつけた。
積み上げていた書類が雪崩のように崩れる。
腕が痺れるような痛みも今は何も感じなかった。
「あの男……、ふざけるなよ……。……オルヴァに手紙を送りたい。用意してくれ」
「かしこまりました」
すぐに用意されたそれに最低限の内容だけを書いて急ぎ届けるように命じる。
これは父上と母上にも伝えなえればならないな。
「それから、陛下と王妃にも面会の申し入れを頼む」
「かしこまりました、アレクシス殿下」
オルヴァ……。お前は………。
いつになったらあの女の呪いからお前を解放してやれるんだ。
俺にできることは何もないのか。
こんなことになるのなら無理矢理にでも婚約をとりつけて俺のものにしてしまえばよかった。
脳裏に浮かぶのは赤い空。
数年前の、この国の悲劇。
いまだに忘れられていない惨劇だ。
あの女の呪いはいまだに彼女から消えない。
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彼は今後出番が増えてきます。重要なキャラ。
次話からはリヴィア視点に戻ります。