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男爵令嬢の結婚4

 案内されたのは屋敷の奥の部屋。手入れされた庭が見えて風が気持ちいい。綺麗に整えられた部屋は気をつかってくれたおか、真新しい家具と装飾が揃っていた。

 すぐ隣にはセシル専用の部屋。至れり尽くせりね。


 普通なら夫婦は同室、もしくは部屋同士を繋ぐドアがあるのだけれど、もちろん私は一人部屋。部屋を繋ぐドアも存在しない。形だけの夫婦だもの。

 隣どころか、離れた場所に旦那様の私室と寝室はあるのだと思うわ。愛人や恋人の女性を連れてきても私とは顔を合わせないように。

 私としてもありがたいわ。相手の方を不快な気持ちにさせてはいけないもの。


 持ってきた私の荷物は少しだけで、一人で片づけるのにもさほど時間はかからなかった。

 外からのノックに返事をすれば、入ってきたのはエステラとセシルの二人。二人は揃って綺麗に頭を下げた。

 セシルは私の自慢の侍女なの。ブラッドフォード家の使用人と並んでも劣ったりはしない。誇らしいわ。

「あら、お嬢様……。申し付けてくだされば私どもでやりましたのに……」

 すでに片付いてしまった部屋を見渡してエステラが呟くように言った。

 だって本当に少ない荷物しかなかったのだもの。嫁入り道具として持たせてもらったものはほとんど先に運び込まれていて設置されていたし、小さな荷物を片づけるくらい、今までの男爵家では普通のことだったから。


「ああ、それよりも、お嬢様。お聞きしたいことがあるのです。結婚式のお支度をお手伝いさせていただきました侍女に聞いたのですが、お嬢様が着飾ったお姿は大層美しいとか。旦那様好みの容姿だとも言っていましたわ。私どもお任せいただければ最高の淑女にいたします。ご安心くださいませ」

 エステラの隣でセシルは困ったように笑っていた。

 そうね、私も少し困っているわ。

「あのね、エステラ」

「はい、なんでございましょう」

 エステラはにこにことしている。

 自らの手で主人を磨き上げられることは侍女の喜びだものね。それは知っているの。

 その気持ちもわかるの。

 けれど。

「ごめんなさい、エステラ。私はこれでいいの。これが……、いいの」

 地味で野暮ったい、誰にも相手をされない男爵令嬢リヴィアでいいの。

「お美しいお姿を見れば、旦那様もきっと心を入れ替えてお嬢様を愛してくださいますわ。間違いありません。あの惚れっぽい旦那様ではございますが、お嬢様からきっと離れられなくなると思いますの」

「愛は、いらないの」

 ごめんなさい、もう一度謝る。

 エステラはちらり、とセシルを見たけれど、セシルも首を振るだけ。

 きっとセシルが一番、私を着飾らせて綺麗にしたいに決まっているもの。それをずっと私が受け入れられないのも理解してくれているの。その理由も。


「……お嬢様は、すでに私どもの主人です。ご意向はお聞きいたします。ですが、ここはお嬢様の家なのですから、遠慮なんていりません。何かあれば何でもお申し付けくださいませね」

「ありがとう」

 使用人として、主人である私を想っていてくれてる言葉。なんだか懐かしい対応。

 男爵家には使用人がいないわけではないけれど、数人いる使用人はみんな家族のようなつきあいだったから。どちらが良いというわけでもないけれど。


「お嬢様の式の準備をさせていただいた者たちが是非にと申しておりますので、彼女たちをリヴィアお嬢様つきの侍女とさせていただきました。すぐこちらに来ると思いますので」

 一礼して部屋を出ていくエステラ。


 セシルは部屋に残って私のすぐ傍まで近づいてきた。

「きっとあの方からは怒られてしまいますね。お伝えしなくてよかったのですか?」

「そうね、きっといろいろと怒られるわね。伝えていたら反対されるに決まっているもの」

「お嬢様は無駄に行動力と頑固さを発揮してしまうのですから……」

 セシルは呆れたよう声を出した。

 あの優しい幼馴染からは、きっとすぐに呼び出しがかかるのでしょうね。


「でも……そうですね。私も今回ばかりはお嬢様がこの格好でいいと思えました。あのろくでなし野郎の名前だけの伯爵に貴女様が汚されるなんて許せませんから」

 あら、セシルが黒いわ。あんなに伯爵様は良いお方なのに。むしろ私なんかに掴まったらあちらが可哀想。


 エステラが言ってた侍女たちはすぐに部屋に訪れた。

 まだ年の若い女性が二人。

「本日からリヴィア様専属になりますキャサリンと申します。どうぞキャシーとお呼びくださいね」

 キャシーは笑った顔が少し幼くて可愛らしい。

「私はラナですっ。お美しいリヴィア様!! お支度をさせていただいた侍女はみなリヴィア様付きに志望したんですけどっ、あまり多くても迷惑になると私たち二人になりました!!」

 ラナは青みがかった黒髪を高い位置で一括りにしている。そんなに長くはない髪が動くたびにぴょこぴょこと揺れる。

 随分と元気な侍女がついてくれたのね。

「ラ、ラナっ、エステラ様に怒られてしまうわ」

「あっ! すみませんっ……。私ってばいつもこうで……」

 キャシーが小さな声で行った注意にしゅんとするラナ。

 なんだか小動物でも見ている気分になるわ。


「いいのよ。旦那様とお客様の前でだけ気を付けてくれれば、私の前では自由にしていいのよ」

 私の前でならいくらでも失敗も無礼もすればいいわ。

 そうして成長できるのだもの。


「はっ、はい! ありがとうございます!」

 それに、なんだか昔のあの子を思い出してしまう。最初はこんな感じだったの。

 いつから変わってしまったのか。

 私が気づかなかっただけなのかもしれないけれど。


「あの、お疲れでないようでしたら屋敷をご案内いたします」

どうしますか?と首を傾げるキャシーに頷く。

「お願いしてもいいかしら」

 ブラッドフォード家はとても広い。

 けれど、私が自由に動きまわってもいいとは思えないもの。今のうちに楽しんでみたいわ。お庭も見てみたいし。

 立ち上がればセシルが手を差し出してくれる。

 その手を借りながら、私はのんびりとした散策を楽しんだ。



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