騎士団の襲撃
現在の時刻は20時過ぎ、いつものように夕食を取り、片付けも終わってお茶を飲んで一息ついたところだ。帰ってすぐに話をしようと思ったのだが、今後の彼女との関係をどうするかを考えていなかったので、少し時間を空けてしまった。
そのことに関してはどうにか自分の中で折り合いをつけ、これから生きていく上での基本指針はゲーム時代と同様にしていこうと決めた。
それは自分から関わって誰かを、もしくは生き物を保護した場合、自分の管理下にある間は誰にも手を出させないし、”誰かに危害を与えるようなことはさせない”だ。
もし管理下から外れる場合は自分の手でケリをつける。これだけは自分の我を通す以上、義務だと思っている。それがゲームから現実に変わったところで曲げてはいけない信念だと思う。
「リズ、これからのことについて話がある」
「帰ってきてから妙に様子がおかしいとは思っていたが、やっと話す気になったのか。それで、どんな話だ?もったいぶらずに話すといい」
気づかれていたか、と苦笑しつつお茶を一口飲んで気を落ち着かせる。これから言うことは今ある2人の関係を一歩進めるものだ。家主と偶然助けられて成り行き上、居候となって始めたこの共同生活。期間としては1週間と短くはあるが、それなりに情も湧こうというものだ。
「いつも食材を買いに行っている村に、フラガラック騎士団が滞在している。規模でいうなら小隊、およそ50人と言ったところだ」
「それはまた、ずいぶんな規模だな」
身の危険を感じているのか、若干の怯えと表情が硬くなっているのが見て取れる。今まであえてどうでもいいからと無視してきたが、今回ばかりはそうもいかない。確認すべきことは確認し、やらなければならないことはやらないと絶対碌なことにならない。
「そして、おれは村から帰る途中に奴らに尾行され、森からの探索帰りと思われる連中を含めて20人に挟み撃ちにされて逃げ帰ってきた」
「おまえ!なぜそれを早く言わない!ケガはないのかーーって、そう言えば特に問題なさそうにしていたな」
「ああ、幸運にもケガ1つなく森に逃げれたからな。で、話を戻すがおそらく時間的に早ければ明日中にはここまで騎士団の連中が押し寄せてくる可能性がある」
「妙に自信あり気に見えるが、事実この前は2人の騎士が夜に来ている。そのことから夜襲があるとは考えないのか?」
その疑問はもっともだが、これに関してはあまり問題視していない。この家に帰ってきた時点で人避けと認識阻害の結界を最大出力で張っている。これを突破できるのはよほどの魔術耐性持ちか、結界に詳しい魔術師でも連れていなければ発見することは困難だろう。
フラガラック騎士団もその性質上、その手のエキスパートがいないとも考えられないが、もともと魔術師の数はそう多くない。というよりも本当の意味での魔術師は少数だ。これは村長や村人、たまに訪れる行商人に魔法使いや魔術師がどれほどいるかを一般常識の範囲内で教えてもらっているので確実だろう。
ゲーム時代でもそうだったのだから、自分の認識とこの世界での現実はあまりかけ離れていないことになる。魔法使いと魔術師を分けて考えているのは、どちらも似ているようでまったく違うからだ。
「その心配は不要だ。この家の結界を抜けれるような奴がいたら、それこそ奴らが昼間に森に入って探索を始めた時点で発見されている。いつもはそこそこの魔術耐性持ちなら容易に突破できる程度だから、そのことはあまり考える必要はない」
断言したもののやはり不安を拭い去るには足りなかったらしく、浮かない表情をしている。まあ、どれだけ強力な結界であろうとも、おそらくは小隊を束ねている隊長クラスなら確実に騎士団の中でも上位、全体を統括している13人の騎士の内の1人であってもおかしくはない。
もしそうであるならば魔術に対してもかなりの耐性を持っているのは想像に容易いので、あまり楽観視できないからこその明日の日中を逃亡するためのタイムリミットとしているのだ。さすがに夜の森を踏破してくるのはどれだけ危険かぐらいは相手もわかっている筈、という前提条件の下でだが。
「そういう事情でこの土地から逃げる必要が出てきたことはわかったな?」
「ああ、状況は理解した。それで?これで話は終わりではないのだろう?」
「これからの行動指針を決めるにあたって、どうしても確認しておかなければならないことが2つある。先ず最初の1つ、これを確認する前に誤解があったら面倒だから質問の前に断言しておく。おれはな、リズ。おまえがどういう存在であれ、そのことを理由に嫌悪したりこれまでの態度を変えるつもりはない。ここまではいいか?」
「わかった。続きを言うがよい」
おそらく何を言いたいのかはリズにも伝わっているだろう。これでも彼女の正体についてはいろいろと情報を集めてきた。村長からの情報だけでは判断するには足りなかったので、ほかの村人や行商人、冒険者協会のお姉さんにまで。
それらの情報を統合するに人間不信になるには十分な経験を積んできただろうし、警戒するのもわかる。それでも1週間でも共同生活をできる程度にはまだ人間嫌いに至っていないのは奇跡だろう。
いろいろな考えを飲み込み、意を決して口を開く。
「リズ、おまえは銀の魔女だな」
「……そうだ」
絞り出すようなその声音に、複雑な思いが乗せられているのだろう。彼女がこれまでどのような人生を歩んできたかは集められた伝承などから推察することしかできないが、決して良いものではなかっただろうことは想像に難くない。
こうやってそれなりに親しくなった相手に自分の正体が知られた場合、拒絶されるか一見優しい振りをして裏切られたことだってあるに違いない。
「……それで、おまえはわたしの正体を知って、どうする?騎士団の連中に突き出すか?」
気丈に振る舞おうとしているのが見て取れる。声も震えないように気をつけてはいるようだが、若干上ずってしまっている。
「そのつもりはない。信じられないかもしれないが、本当にその気があるのなら1週間も家に置いておいて何もしなかったことで、少しは信用してもらえるといいのだが……」
「それは騎士団の連中が村に来るのを待っていたのではないか?」
「それとこれとは無関係だ、と言い張ったところで無駄なのだろうな」
状況がどうにも悪い。これが今までなあなあで流してきた代償なのだろう。初めのうちに確認しておいて、その上で共同生活をしていれば、なんてことを考えてしまうが無意味に違いない。どちらにせよ、ある程度の信頼関係を築くにはそれなりに時間が必要なのだ。
その信頼関係を築く前に彼女の正体について言及していれば、リズはこの場にいなかった可能性が非常に高い。そのことを考えれば、1週間なんて誤差の範囲だ。
「まあ、そのことを言い合ったところで状況は変わらないから、2つ目の質問に移らせてもらう。だが、その前に前提条件としておれの話からしないといけないのだろうな」
「おまえの話?」
「そうだ。こんな話をして、いきなり信じろとは言わない。だが、おれはおまえとーーちっ。予想外に早かったな」
家の周囲、それも森の外周に沿ってぐるりと取り囲むようにして現れた魔術を行使しようとしている気配を察知し、自分の見通しの甘さに歯噛みする。魔術に関してはある程度以上の知識を得ているとはいえ、実際に行使するとなれば専門分野以外はさっぱりなため、何をしようとしているのか、どれくらいの人数が参加しているのかはわからない。それでもこういうときにフラガラック騎士団が使うような儀式魔術は限られてくる。
「貴様、やはり謀ったな!」
「そんなことはしてない!それよりもしゃがめ!!シンクはいいと言うまで隠れてろ!」
「こら!離せ!」
「いいから言う通りにしろ!」
言い合っている間にも家の直上に魔力が集中しているのを感じ取り、予想通りの魔術が今にも放たれようとしているのがわかってさらに焦り、抵抗するリズを無理矢理抱き込んで蹲る。
直後、室内とは思えない閃光が視界の端を走り、次いで轟音に耳をやられて衝撃波に吹き飛ばされる。明確な意識があったのはここまでで、あとは朦朧として意識の中、サディスティックな表情を隠そうともせずに蛇のような目をした青年を中心に騎士たちがリズを拘束して連れ去っていくところ。そしてまだ息があっても死にぞこないのような自分にダメ押しと言わんばかりに剣を突き立て、確実に止めを刺されたところで意識が途絶えた。
~side フラガラック騎士団:小隊長~
時はロビンたちが襲撃を受ける直前まで巻き戻る。
「エリオット小隊長、各員配置に着きました」
「よろしい。では、早急に儀式魔術にかかれ」
「はっ、了解しました」
敬礼して去っていく部下から視線を元に戻せば、森の中にありながら不自然に拓いた場所に立つ家が映る。この家を探し出すためにどれだけの労力を費やされたか。さらに言えばこんな夜更けに森の中にいるのも顔も知らぬ変人のせいだ。
伝令が行き渡ったのか、魔力が満ちてくるのを感じる。それぞれの分隊で2人ずつ、この儀式魔術にだけ特化させた者たちがそれぞれ呪文を唱えて儀式を進めていく。その間にここまで来るためにあったことが思い浮かんでくる。
銀の魔女を仕留めそこない、逃亡したと思われる転移先を絞り込み、近隣の村を人海戦術で聞き取り調査を行った結果、とある村で髪の色は違うが外見的な特徴が似ている少女がいるとの情報を得た。しかし初めにその情報を得た2人が先走った為に情報の確認をすることができず、仕方なく拠点を村に移して1週間経ってようやく何かを知っているだろう青年が村に現れたと聞き、話を聞くために連れてくるように命令したが逃げれたのがもうすぐ日が落ちるという時間帯だった。
逃げた男はそれなりに戦闘能力があったようで、さらには閃光弾のような道具まで持っていたという。また投擲されたナイフを検分したところ、狩人が使うようなナイフではなくわざわざ黒く、そして艶消しまで処理されたものを使っていたとなると密偵や盗賊、最悪はアサシンのような戦闘に特化した相手である可能性が出てきた。
どう転んでも精強を誇るフラガラック騎士団である我々が反撃を食らって負ける要素が薄いと言っても、相手は陰者で危険なことには鼻が利き、逃げを打たれると捕らえるのは分が悪い。
それに戦闘面なら銀の魔女がいる。魔女、魔法使い。そう魔法使いはとにかく危険なのだ。感覚的に万物を操り、強大な力を個人が行使する。優れた使い手は1人で軍隊を相手にしても圧勝し、国を落とす。その実在例があの銀の魔女なのだ。
その魔女がただ人であったなら、ここまでのことにはならなかっただろう。不死人だから、死なぬからこそ我々がその存在意義を証明するために滅ぼさなければならない。
家の上空に雷雲が集い、今にも雷が落ちようとしているのが視界に移り、思考から現実へと意識を戻す。
「いよいよだな、神罰執行とともに突入!不死人に加担したものは皆殺しにして、魔女を捕らえろ!」
「「「了解ッ!!!」」」
部下からの返事と同時に雷が家を撃ち抜き、派手に打ち壊す。あらかじめ儀式魔術用に張っていた防御結界が役割を終えて消えたと同時に剣を抜いて家を指す。
「突入!!」
全方位から騎士が家に殺到し、何も逃がすまいと取り囲む。包囲網から抜けて選り抜きの5人を引き連れて家に踏み込むと、パチパチと焼ける家具などの残骸の中心、元はリビングだったろう場所に男が何かを庇うように蹲っていた。
「ふん、魔女を庇うか。拘束術式の用意は?」
「もうできております」
部下の返事に頷き、男の近くにいたもう1人にどかすように指示を出す。男を蹴ってどかした瞬間、短剣を構えた魔女が突っ込んでくる。
「あああっ!貴様ら、よくも!!」
「魔女も魔法が使えねばただの人だ」
無感情に言い捨て、短剣を手ごと切り飛ばして無力化する。さらに返す刀で喉を切り裂いて血のりを払う。残った左手で喉を押さえ、何事か恨み言でも言っているのだろうが声になっていないので聞こえない。
「何を呆けている、さっさと魔女を拘束しろ」
「は、はい!」
慌てて拘束用の魔術を魔女にかける部下を尻目に、剣を鞘に納める。
「さすがはエリオット殿ですね。いつ剣を振ったのか、我らには目で追うのも難しく、鮮やかな手際でした」
「当たり前だ。この私を誰だと思っている。フラガラック騎士団の13人しかおらぬ聖騎士なのだからな」
「これは失礼いたしました。して、こちらの男はどうしますか、放っておいても死にそうではありますが……」
副官のドーランに言われ、特に興味もなかった男へと視線を落とす。特大の雷を落とす神罰の魔術を間近に浴びて生きているとは思っていなかったが、確かに仰向けに倒れた男の胸は浅く上下しており、こちらに視線を向けているようにも見える。
「神罰を食らってまだ息があるとは運が良い。だが、魔女に加担したものは悉く死刑だ。殺せ」
「はっ、了解であります」
ドーランが返事をし、一番近くにいた2人が剣を突き立てる。それも重要な臓器を狙って破壊し、捻りまで加えて確実に命を奪う。その間に一度死んだ魔女が意識を取り戻す前に拘束魔術だけでは不安なので首、両手足に枷をして鎖で繋ぐほど念を入れている。
死んでからすぐに体の再生が始まっているのか喉の傷は塞がり、右手はトカゲのしっぽかと思うように生え変わりを見せている。これだけでも不死人はおぞましい。その自然にはあり得ない回復力は今は失われし3級以上のポーションなら肉体の欠損を回復したという伝説を鵜呑みにしたとしても、気持ち悪いことこの上ない。
「これだから不死人は嫌いなのだ」
「何か申されましたかな?」
「何も言っておらん!家の中に生き残りがいなければ早々に撤収するぞ!急げ!」
ドーランともう1人の部下が魔女を連れ、護送用の檻へと入れる。それを4人が御輿を持つように担ぎ上げる。その周りを2個分隊に護衛させ、残りの2つの分隊は前後を固めさせる。
あとは本拠地まで各都市を経由しながら処刑を繰り返し、どんなに殺しても蘇る不死人の危険性を示し、我らがフラガラック騎士団の存在意義を世の人々に示す。その使命感とこの300年余り、誰も成し得なかった銀の魔女の討伐を行ったという名声と称賛を想像すると歓喜に身が震えそうになる。
それらの感情を胸の奥に潜め、森の中に残された家を後にした。
~side;ロビン・フッド~
「う、うぅ……」
生暖かい湿った何かが頬を何度もなぞる感触に、深い眠りに落ちていた意識が浮上する。薄く開いた瞼から外の情報を取り込むと、太陽が昇り始めているのか明るくなりかけた森が壊れた壁の向こうに見える。
(あれ?なんで壁が壊れているんだ?それに、おれはなんで床で寝ていたんだ?)
視線をズラせば起きたのがわかったのか、子狼のシンクがお座りして待っている。頬をなぞっていたあの感覚はシンクが舐めていたのか、とボ~っとした頭で考えながら身を起こす。
体の節々が痛みを訴える。特に胸や腹は肌がひきつるような痛みを感じさせる。何かあったかと見下ろしてみれば、まあ無残に切り裂かれてボロ布と化したシャツがあった。
見える部分の肌は傷跡と無傷の肌の部分で色が違っているのがわかる。それらを指でなぞりながら、寝過ぎて重くなった頭をフル回転させて昨夜あったことを思い出そうとする。
「確か昨日は、リズに騎士団が村に来たことを伝えて、魔女かどうかを確認して……」
徐々にはっきりと思い出し、リズに選択を迫るためにおれの正体を明かしかけたところで騎士団の襲撃にあったのだ。儀式魔術の先制を許してしまったがために、リズを連れ去られて、さらには殺されてしまったようだ。
「生きているってことは……そういうことなんだろうな」
何度も手を握ったり開いたりして生きていることを実感しながら、苦笑を浮かべる。どうやら本当に、ゲームの設定通りに自分は不死人に成ってしまったらしい。設定通りなら不死人は死んだときにソウル、いわゆる魂を消費して復活するという。
だが、その魂というのものがいまいち理解できない。何かが自分の中から減っている感じはしない。何度も死ねばわかるのだろうが、それは今は遠慮しておきたい。
今は先に、やらねばならないことがある。
「おれはまだ、リズに何も伝えていないし、責任も果たしていない」
「だよな?」と傍らにお座りしていたシンクの頭を撫でる。同意するように元気よく鳴いたのに気を良くし、気合を入れなおして立ち上がる。
「ずいぶんとやらかしてくれやがって。こっちの借りもあいつらに返さないとな」
ニィッと口角を吊り上げ、獰猛な笑みを浮かべる。苦労して建てた我が家はほぼ全壊、ご丁寧に工房のほうまで破壊されているのを見て、これは徹底的に報復する必要があると判断する。
自分の快楽の為の殺人は否定するが、それが復讐などそれぞれに理由があれば許容する。それが暗殺者として活動するにあたって自分に定めたルールだ。
残っていた食料のうちから、食べれるものを口に放り込み、咀嚼しながら自室だった場所へと移動する。壁は壊れ、ベッドは焼けてしまっている。地下室への入り口は暴かれていないようだが、そっちには用がない。
地下室への入り口とは別に、もう1つの方を開ける。こちらはただの収納スペースになっている。そこからこちらの世界に来た時に装備していた防具や武器を取り出していく。
黒く染め抜かれたガントレットとグリーブ、ミスリルで編んだチェインメイルにワイバーンの革で作ったジャケットにズボン。それぞれを着替えて防具を装着していく。
黒塗りの複合弓をケースから取り出し、矢筒と一緒に背負う。刀を取り出し、鯉口を切って少しだけ抜き、波紋に曇りがないことを確かめてからベルトに差す。
そして、最後に残った布に包んだものを取り出す。
「こっちに来て、こいつをもう一度身に着けることはないと思っていたんだけどな……」
布を取り払い、出てきたそれはこれも黒いドクロの仮面。右目を貫くように赤い稲妻が刻印されたそれは、伝説に謳われる灰の狩人のシンボルだ。
その仮面を懐にしまい、シンクを呼び寄せる。
「さて、各種ポーションに毒系の薬、便利な道具類は全部ポーチにある。そんじゃまあ、この森も名残惜しいが引き上げるとするか」
チェックを済ませ、自身の中にあるスイッチを切り替える。魔術を使う者から、魔法を使う者へと。そのイメージは心臓を短剣で貫くものだ。これは別にゲームのシステム的に必要なことではないが、こちらに来てから意図してそうしないと上手く扱えなかったがために編み出した自己暗示だ。
ここで魔法と魔術について少しだけ説明しよう。アナザー・アース・クロニクルにおいて、純粋な魔法使いプレイヤーと呼ばれる人口は数パーセントしかいない。というのも、魔法に関しては強大な力を発揮するものとして、才能があるものにしか発現しないという設定があるためだ。
ノンプレイヤーの魔法使いは才能や生まれ持った性質として納得できるものではあるが、プレイヤーの場合はそれをどう判断するのか?その答えはプレイヤーがキャラを作った際に初期ステータスとして、それこそガチャでスーパーレアを引き当てるような1パーセント近い確率で与えられる。
最初から魔法という強力な武器を手に入れたプレイヤーは運が良い方だが、デメリットは必ず存在するものだ。そのデメリットとは身体能力のステータスの向上が一般的なプレイヤーに比べて成長率が悪いということだ。このデメリットがあるために、戦士系を目指したいプレイヤーにしてみれば迷惑以外の何物でもないのだ。
そして魔術。こちらは先天的に魔法を使えなかったプレイヤーがどうにかして魔法の一端を再現しようと努力した結果、編み出されたものだ。魔術を使うには触媒を用意したり魔法陣を描いたりするなどの大掛かりなもの、魔導書を使うなど方法はいろいろあるが戦闘を専門とするプレイヤーはいちいちそういうことをしている暇はない。
呪文を詠唱するなどのプロセスを省くために、魔導書や魔法陣を参考に編み出されたのが魔術刻印だ。これはタトゥーのようにアバターに刻むことで単一の魔術をただ魔力を通すだけで発動できるようにしたものだ。所詮は簡略されたものであり大威力の魔術を使用することはできないが、身体能力の強化なども行えるので広くプレイヤーに普及している。
まとめると魔法は先天的、魔術は後天的に取得できるスキルだ。だが、どんなものにも例外というものは存在するもので、魔法は後天的にも手に入れることができる。ロビンはどちらかというとこちらの後天的に運良く入手できた方だ。
その方法とはもともと魔法を持っているプレイヤー、ノンプレイヤーを問わずに譲渡してもらうことだ。ただし、こちらもリスクがあるのは言うまでもない。プレイヤー間で魔法の譲渡を行った場合、譲渡を行う側が全部を引き渡すなら魔法が使えなくなる。それを避けようと半分しか渡さなかった場合は、元の威力から半分の力しか双方ともに使えなくなってしまう。
そういうデメリットがあるために完全に魔法使いキャラから戦士へと転向したい者を除いて、積極的に魔法の譲渡が行われないから魔法使いの人口は増えないのだ。
そしてノンプレイヤーから譲渡を受ける場合、こちらに関しては隠しクエストをクリアすることで稀に発生するイベントだ。この方法で魔法を扱えるようになったとしても、本来のものよりも3割程度の力しか得ることができないのがほとんどである。その分、特殊な魔法が多いので十全に使いこなせるようになれば化ける可能性は十分ある。
今からロビンが行使しようとしている魔法は、隠しクエストを達成したときに得た特殊な魔法だ。少々変則的な方法でステータスの底上げを行っていた際に何かの条件をクリアし、迷い込んでしまったエリアの先で出会ったNPCからなんとか得た影を操る魔法。
「シャドウ・ボックス」
魔法の発動と同時に一気に減る魔力。ゲーム時の言い方でいうならMPの8割を消費し、自身の影が家の敷地を飲み込むように広がり、実際に家をズブズブと沼に沈み込むように飲み込んでいく。時間にして数秒、範囲を広げれば広げるだけ魔力の消費が上がり、さらに影魔法という性質上、明るい光の下では消費量も増加する傾向にある。
魔力を一気に消費してしまったがために、倦怠感と軽い頭痛に襲われながらマナポーションで回復を図る。これが純粋な魔法使いキャラならここまで消耗することはないのだが、もとが普通のキャラであるために魔力のステータスはあまり高くない。魔法を得たときに相対的に魔力量も上昇したが、それでもまだ不十分だ。
「これでこの地に未練はなくなった。それじゃあ悪いがシンク、封印術式の3番まで解放するから先ずは村まで乗せていってくれ」
言葉が言い終わらないうちに術式が解除され、隣には騎乗できるほど大きくなっていく。子狼のときは愛嬌があって可愛いのだが、大きくなると凛々しくてカッコイイ。まあ、シンクはメスなのでその表現が適切かは別の話になるのだが。
そうして大きくなったシンクは伏せの体勢を取り、乗りやすいようにしてくれる。鞍などはないが、もともと短距離を高速で移動したいときしか騎乗しないのでそんなものはない。慣れないと姿勢を安定させるのも難しいが、この状態でも弓を撃てるくらいなので気にもならない。
準備できたことを伝えるとシンクはゆっくりと立ち上がり、村の方角へと一気に駆け出した。
みなさんお久しぶりです。更新が遅くなってしまいすみません。
引っ越し作業と熱中症による体調不良でここまで遅くなってしまいました。
やはり体調には気をつけないとせっかくの休みがもったいないので皆さんもお気をつけてくださいね。
さて、次回はなるべく一週間以内を目指しますが、もう少し引っ越し作業が残っていますので、今月中は厳しいかもしれませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。