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銀の魔女と灰の狩人  作者: サツキ
魔女との出会い
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騎士たちとの遭遇

 リズが来てからようやく1週間が過ぎようとしていた。ちなみに暦は現実に合わせて12ヶ月で1年、1週間は7日間と変なところで手抜きをしているゲームだと思ったものだが、いざそのゲームが現実のものとなるとそこが変わらないのは覚えなおす必要がなくて助かったものだ。


 と、余談は置いといてこの1週間というものは特にイベントが起こることもなく、平穏無事に過ごすことができた。これで物語を書こうと思ったらなんとも作家泣かせな日常だろう。


 リズも体調が戻ってからは尊大な口調で話す割には掃除や洗濯、食器の後片付けなどを手伝ってくれたりするので居候生活にも慣れてきた感じだ。仏頂面の不機嫌顔をしていることが多いのだが、シンクと一緒にいるときなどはたまに微笑を浮かべているのを目撃することがあるので、彼女にとってもここが少しは居心地の良い場所になってくれればと思う。


 そんな風に考えていた午後の昼下がり、久しぶりに大型の獲物でも狩ろうかと弓を片手に森を散策していると5人の騎士が歩いているのを発見した。ちなみにリズとシンクには留守番を頼んだのでこの場にはいない。



 (パーティーを組んで行動しているのか……。と言うことは、この間の2人は囮だった可能性が高いな)


 殺さなくて良かった、などと考えながら木々に身を隠しながら様子を窺う。こうやって森の中を捜索しているということは、リズが家にいることはまだ確証が得られていないか、まだわかってすらいないと考えていいだろう。


 そうでなければわざわざ人員を投入して森を歩かせるなんてことはしない筈だ。仮にあいつらがそう思わせる為にあんなことをしているとしても、こうやっておれが発見する可能性が低いことをやらせる訳がない。



 「さて、ああやって森に展開されているとしたら獲物が見つかるとは思えないし、戦力調査に切り替えたほうがいいかもな」


 声に出して方針を確認する。しかし直接戦って戦闘力を調べる訳にはいかないので、先ずはどれくらいの人数が投入されているかを調べるところから始めよう。


 そうと決まれば近くの村に行くのが一番だろう。どんな人間も飯を食わねば生きてはいけない。さすがに自分たちが持ってきている食料だけでは足りないだろうから、買い出しに行っているのは間違いない。そこから逆算するなり、村に逗留している兵の数から予想される部隊の規模を推し量ることも可能だろう。



 「ま、どう考えても小隊規模以上は考えにくいけどな」


 小隊はだいたい50人が最大人数となる。それを10人ごとに分けたのが分隊で、これが2~4個集まると小隊だ。分隊をさらに分けたのが先ほどの騎士たちのように班、つまりパーティーとなるわけだ。


 軍というものは動かすだけで金がかかる。フラガラック騎士団の創設理念がそのまま継承されているのならば、1人の標的を追うのに大軍を動かす訳がない。もともとは何の罪もない人々を無差別に殺しまわるような殺人鬼を倒すために、ゲーム内の警察に代わる自治組織として立ち上げたのだ。


 そういう理由であまり多くのプレイヤーが賛同した訳ではなかったものの、NPCも参加して当時は500人も集まっていた。それが今どの程度の規模になっているか知らないが、そんなに過剰に見積もるほどでもないだろう。





 森の中の目印を辿り、なんとか抜けきって散歩気分で村への道を歩く。鼻歌でも歌いたくなるような良い天気だが、空を見上げることなく視線を落として森へ続く道を観察する。


 村人たちは猟師でもない限りあまり森へは近づこうとしない。もちろん冒険者と呼ばれるようなモンスターの討伐や村人の依頼で森の中でしか取れない薬草を取りに行く者たちもいる。そんな人たちが残した足跡はなんとなくわかるのだ。


 その中でも特に気になる足跡がいくつか。他の足跡は結構雑多に、不規則に残っているのに対して、規則正しく同じ歩幅が並んでいるのがある。これは軍人などの行軍訓練を行われた者たちに見られる傾向だ。これだけでも軍に所属している人間が森に入っていることがわかる。



 「足跡だけじゃ人数までは判断し辛いからな。やっぱり村まで行って情報収集をしないと」


 野営の跡地でも見つかればまた少し違うだろうが、この距離ならわざわざ危険な森の近くよりも村に帰るだろうから、それを期待しても無駄だろう。


 あれこれといろいろなことを考えながら歩いていると、視線の先に村が見えてきた。視力強化の魔術を発動し、遠目ではあるが観察する。視力強化を発動している間ならば1キロ先であろうとすぐ近くにあるように鮮明に確認することができる。


 普段通りの村の風景の中、やけに装備の良い集団が村の近くにテントを張って野営をしているのが確認できた。その中にこの前家までやってきたハゲ頭の男を発見した。さらに注意深く周囲にいる人間を観察していると神経質そうな男も発見できたので、あの集団がフラガラック騎士団の連中で間違いないだろう。



 「あ~~、こうも早く目的の連中を見つけるとか、手間が省けたのはいいんだけどな」


 ここからでも観察をすることは可能だが、周りは草原で遮蔽物はない。こちらから見ることができるということは、向こうからでも見えるということだ。彼らに視力強化が使えずとも、これくらいの距離ならば森へ続く道に人が立っていることくらいは確認できる。


 つまり、ここに立ち止まって観察を続けることは難しい。さらに言うなら村に向かっていたのに突然引き返すというのも不信感を与える材料になりかねない。これが村から森に向かっている途中でなら問題ないのだが、その逆はそうもいかない。このまま村に行くしかないだろう。



 「あんまり気乗りしないが、これも調査には必要だしな」


 チンピラや荒くれ者ではないので絡まれることはないと思うが、それでも100パーセント問題ないとは言い切れない。何か1つでも正当な理由があれば拘束することができるのがああいう連中だ。


 短時間の拘束なら我慢するが、それ以上になりそうなら実力行使で逃げようと決めた。さすがに夜までに帰らなければシンクが心配するだろうし、リズはわからないが飯を用意する人間がいなければ困るだろう。


 空を見上げてみれば太陽が中天を過ぎて傾きつつある。村に着いたら先ずは酒場に向かって食事と情報収集をしようと決め、それまではとにかく観察を続けようと野営地に視線を向けた。






 「こんにちは、ロビンさん。今日は食べていかれますか?」


 「こんにちは、ミーシャちゃん。今日も日替わりランチをよろしく」


 「わかりました」


 店に入った途端、ちょうど近くにいたミーシャちゃんに挨拶をするのと一緒に注文を済ませてしまう。料理ができるまでは少し時間があるので、道具屋に寄って調味料の補充を行いつつ騎士団のことをそれとなく聞いてみるのも忘れない。


 彼らが5日前くらいに突然やってきて野営をしていること。彼らが村で買い物をしてくれるので少し景気が良くなっているが、彼らの間に漂っている空気が妙にピリピリしていて村全体の空気が悪くなっているなどの愚痴を聞いていると、ご飯が用意できたと迎えにきたミーシャちゃんに呼ばれたのでそこでいったん話を終了する。


 食事の間に軽くミーシャちゃんにも彼らの噂を聞いたところ、村の子供たちも初めは騎士たちの来訪に目を輝かせてはしゃいでいたが、それもすぐに冷めて今では彼らの雰囲気にのまれてあまり外で遊ぶことはできていないようだ。



 大人に気を使わないといけないとか、子供の世界も大変だなと他人事のように考えながら情報のお礼に料理の代金にプラスして少しのお小遣いを渡しておく。それを受け取ったミーシャちゃんに笑顔と一緒にお礼を言われて和み、「さて」と一息ついて本格的に情報収集を始めようと立ち上がる。


 情報収集の基本は足を使っての聞き込み調査だ。しかしそれは今回のように村でやるには少々リスクが大きい。村の隣で野営をしている騎士団のことを嗅ぎまわっている者がいる、と彼らの耳に入れば目をつけられるのは避けられない。


 どうしても目立たないようにするには世間話のついでに、という形を取らざるを得ない。まあ、食料の買い足しついでに聞いて回ればこの村での彼らの評判くらいはわかるだろう。


 とりあえずは酒場内にあるパン屋と肉屋から買うついでに聞いてみようと、そちらに足を向けた。






 1時間ちょっとあちこちを歩き回った得た情報を整理すると、どうもあの騎士団の連中はこの村に集まってきているらしい。他の村も回っていたようだが特に有力な情報がなかったのか、この村に他所から来た少女がいたという証言だけを頼りに集まってきたらしい。


 しかもよく話を聞いてみると、その少女のことはどう考えてもリズのことだろう。ご丁寧に一緒にいたのがおれであることも伝わっているらしい。


 そこまでわかった時点であまり村に長居するのはよくないと判断し、足早に村を出ることにした。しかし、村を出て森への道を急いでいると10人ほど、後ろから着いてくる足音が聞こえてきた。


 どうやら村に来ていたことが彼らに伝わったらしい。直接顔を見られたのはあのハゲ頭と神経質そうな2人だけだったので、すぐに出ればまだ間に合うかもしれないという希望的観測はこれで砕け散ったことになる。



 (すぐに追いかけてきて話をって感じじゃないし、もしかしたら物騒なことになるかもしれないな)


 手持ちの武器は狩り用の弓と矢、投げナイフが数本とククリが1本だけ。防具はワイバーンの革を使ったジャケットに同じ素材の籠手と脛当て、つま先と踵を鉄で補強したブーツだけ。


 こりゃあれだ、モンスターを狩ることができても人を狩るには不向きだ。どう考えても戦闘は回避しないとボコられるの決定だわ。


 さらに言うなら装備や肉体的なスペックはゲーム時代のものを引き継いでいるが(もちろん見た目もそのまま)、もともとレベル制ではなくプレイヤースキル重視に行動によってステータスが上がるシステムであったせいでいまいち自分の力量が把握できていないのは痛い。


 ゲーム内で不死人の証という設定のウロボロスの呪印が左胸に存在はしているものの、こちらでも不死であるかは試していない……いや、そうじゃなかったら本当に死ぬ訳だから簡単に試せるようなものじゃない。


 そういうもろもろの事情を考慮すると、争いは積極的に回避していかないと本当に死んでしまう。


 

 彼我の距離をちらっと振り返って確認する。目測でおよそ100メートル。そんなに離れていないから、この程度の距離なら走れば簡単に詰められる。プレートメイルほどではないが胸当てにガントレット、グリーブを装備していることを考えれば全力疾走に着いてこられるとは思えない。


 それにちょうど村と森を直接見えなくしている丘を越える。頂点まで登り切ったら森まで走れば振り切れないまでも、森の中でやり過ごすくらいはできるだろう。


 あとは早く家まで帰って魔術師の友人に依頼して施してもらった人とモンスター避けの認識阻害の結界を最大出力で発動させれば、よほどの魔術耐性持ちが来ない限りは時間を稼げる。その稼いだ時間で装備を整えてこの森から出ていく準備をしなくては。



 いろいろ考えて思考をまとめているうちに丘を登り切り、騎士たちから見えないところまで歩いたところで駆け出す。村で買い込んだ食料が邪魔でしょうがないが、放り捨てていくにはもったいない。


 こういう時にアイテムボックスや無限収納道具袋のようなものが無いのが本当に腹が立つ。運営に文句を言ってやりたいがGMコールなんてものはなく、代替できる魔法を運良く教えてもらってはいるものの、昼間では使えないという制約がある。無理矢理に使おうと思えばできなくもないが、魔法を使うための触媒も無しに実行すれば魔力をごっそり持っていかれてしまうので、このような後から何があるかわからない状況では愚策だろう。


 結果、森までの約5キロを荷物を抱えて走るしかないという結論に達する。それでも身体能力強化の魔術のおかげで重さを気にしなくてもいいのはありがたい。



 「ああ、そうだ。身体能力強化の魔術を忘れていた」


 ぼやくように呟くと、丘を越えて追いかけてくる騎士どもを見る。当然のようにこの程度の魔術は修めているようで、鎧の重さを感じさせない速度で走っている。


 これでは結局、アドバンテージはあって無いようなものだ。普段から鎧を着て活動しているのだろうから、荷物もない彼らの方がやや有利かもしれない。


 さらに悪いことは続くようで森の入り口からさらに10人、騎士たちが出てきて待ち構えている。おそらく森の中を探索していた連中だろう。携帯電話のような通信装置はないが、類感魔術との合わせ技で同じような機能を持つ魔道具を作り出して世界に普及させた生産職人プレイヤーのギルドがあった。


 どうやらそれと同じようなものがこちらの世界にもあったのだろう。騎士の1人が手に持った何かにしゃべっているのが見えるから、おそらくあれで連携を取ろうとしているに違いない。



 「まいったね~~、これは」


 このまま道を辿っていけば正面の騎士たちとかち合うことになる。話し合いで解決を、といきたいところだが物騒にも剣を抜いている。武器を抜いた相手と話し合い、しかも圧倒的に人数が不利な状況では御免だ。


 判断は迅速に、多少は走りにくくなるが道を逸れて草地に足を踏み込む。どうにか森にさえ入れば数の利を覆す状況を作れるのだ。


 それに走るスピードは全員が同じじゃないし、スタミナにも個人差がある。そこを突けば少なくとも1対20にはならない。


 森の前で待ち構えていた騎士たちが移動を始め、森には入らせないように無理にこちらに近づいて来ようとはしないのが恨めしい。後ろから追いかけてきた連中も道を逸れて追ってきている。どうあっても挟み撃ちにしたいようだ。


 矢や魔術を使った遠距離攻撃をしてこないのはあくまでも生け捕るためか、判断はつきかねるが今は良しとしておこう。そちらに気を回している余裕はあまりない。



 「しかしなんて言うのかね。こういう感覚はずいぶんと久しぶりだな」


 追い詰められかけ、命の危険がありそうな感じではあるが、それでもこの胸の奥から湧き上がってくる感情はなんなのか。


 焦りや恐怖心は無く、むしろテンションが上がってハイになりかけている。似たような経験がなかったかと記憶を辿れば、アサシンとして活動を始めた頃に失敗して城から逃げ出し、城下町を一晩中駆け巡って追い回されたことだろうか。


 その時の記憶と今の状況、この異常なテンションに対して明確に言葉にして言い表すならばそれはきっとーー。



 「そう、楽しいってやつだな」


 自覚したところでにやけて堪らない。こうやって追いかけまわされる経験なんてこちらに来てからの3ヶ月、ゲーム時代も暗殺ギルドのギルマスを後継に譲って生産スキルの上昇と基礎ステータスの底上げを始める前だから、半年以上のブランクがある。


 それにギルマス時代も暗殺に失敗、または仕事が終わったあとに発見されて追われるような事態にはならなかったから、それこそ1年なんて軽く超えてしまうほど前のことだ。


 そうとなればこの状況は非常においしいのでは?なんて考えてしまうあたり相当末期なのだろう。先ほどまで命の危険がどうだとか、買った食材がもったいないなんて考えていたが、今はもうどうでもいい。



 「手持ちの手札は心もとないが、それでも最低限のものはある」


 意識を逃亡、戦場からの離脱としていたのを戦闘モードに切り替える。それでも目的だけは曲げない。双方ともに無傷が、ある程度の負傷は許容する。殺したくはないが、それは場合によりけりとして手加減を一切考えない。


 もともとアサシンの道を志したのはいたずらにプレイヤー、ノンプレイヤーを問わずに殺しまわる相手が許せなかったから。さらに言うなら弱いのが悪いんだと弱肉強食理論で理不尽な目に合う人たちの味方になりたくて、またそういうことを自分がされるのが嫌いだったのも大きい。


 そして正面から戦いを挑むにはプレイヤースキルが足りず、それでも不意打ちでの暗殺という形が自分にとって最も相性の良い方法だったからだ。


 実力が上の相手でも怯まずに暗殺を仕掛け、ときに失敗して正面からの戦闘を余儀なくされてもあの手この手で勝利を掴んで実力をつけた。そんなことをしていたからいつの間にかプレイヤーやノンプレイヤーを含めてのキルカウントでトップを取り、史上最高の暗殺者と呼ばれるようになったは皮肉な話である。



 それらの暗殺と戦闘の経験が、騎士たちの走っている一挙手一投足を観察していてそこまでの脅威ではないと告げている。囲まれて袋にされない限りはまだどうにかなる。


 その判断ができた時点で無駄な争いはしないという方針から、向こうが先に武器を抜いて数を頼んで襲撃しようとしていることが、おれが最も嫌いな理不尽なことだと感情が訴えている。


 そうとなればあとは行動のみ。弓は矢筒と一緒に右腰にぶら下がっているため、両手を自由にするには荷物が邪魔だ。少々もったいないし、作ってくれた人たちには申し訳ないが、有効に使わせてもらうことにしよう。



森と平行するように走っていたのを方向転換し、森に向けて一直線に突き進む。急激な方向転換に騎士たちが対応しきれず、行き過ぎて戻ろうとする者、止まった相手にぶつかる者とで足並みが乱れる。


 混乱している者たちは置いといて、こちらに剣を向けて近寄ってきた者に狙いを定める。



 「そこのお前!止まれ!我々はお前に話がある!」


 「剣を向けてくる相手と話すことなんかねぇよ!」


 食材の詰まった革袋の紐を持ち、遠心力も加えてフルスイングする。即席のブラックジャックと言うには中身が砂や石ではないためダメージを期待するのは間違いだ。 


 目に見える武器を持っていなかったため、回避が間に合わなかった騎士はそれでも高い練度を感じさせるように剣で防御する。さすがは革製品と言うべきか、中身がぶちまけられて目くらましにならないかと思ったがそうはならず、それでも剣が弾かれて態勢を崩すことに成功する。


 

 「悪いが通らせてもらう」


 何かを言う前に同じ年ぐらいの騎士の顔面を革袋で強打し、そのまま手放してすり抜ける。横合いから突き出された剣を籠手でいなし、そのまま体を回転させてハイキックを叩き込む。両側から挟み撃ちにしようと迫った2人には投げナイフを抜いて投擲、それぞれの防具で覆われていない太ももに突き刺さる。



 「何を手こずっているのだ!囲んで捕らえろ!」


 おそらく隊長だろうひげ面の男が声を張り上げ、それに応えるように動き出そうとしていたので囲まれる前に森に向かう。また村から追いかけてきていた10人がすぐ近くまで迫っており、ここで20人を相手にするのはさすがに分が悪い。


 森に入る直前には全員がすぐそこまで迫っている状況となっていたので、ポーチからピンポン玉サイズの球を取り出し、少量の魔力を込めて後ろに放る。直後、一瞬の熱さを感じて太陽が間近に現れたのかと見紛うような閃光が迸る。



 「ぐおっ!?」「目が!?」「閃光弾とは卑怯な!」

 「落ち着け!暴れると同士討ちになる!」


 いろいろと罵倒やらが聞こえてくるが全力でスルーする。森に入って痕跡を気にせずにとにかく奥まで走り込み、騎士たちの姿が木々に隠れたところで枝を折ったり草を踏み荒らしたりといった痕跡を残さないように注意しながら家の方角とはやや遠回りに進んで無事に逃げ切ることに成功した。




 「さて、ここまで来れば一先ずは安心かな」


 もうすぐ家に着くという所まで気を張っていたが、そんな状態をいつまでも保っていては疲れてしまうので緊張の糸を緩める。森の気配を探ってみても普段と変わらないようなので、特に警戒する必要がないと判断したためだ。


 もしかしたら家の周辺にも騎士たちが張り込んでいるかもしれないと思ったが、どうやらまだここまで手は及んでいないらしい。あのハゲ頭が一度来ていたからその可能性もない訳ではないから、警戒し過ぎてもし足りない。


 

 「それにしても、いきなり強硬策に出るとは思わなかったな」


 おれの家にリズが匿われている証拠がなかったから森を探索していた者たちがいたと考えるべきか、それとも森の奥深くにある家を発見できなかったから探索していたのか、そのどちらかでこの状況の厄介さが変わる。


 もともと来客を考えていないので家はかなり森の中を歩かないといけない位置にある。しかも道なんてものはないから目印と方角を確認しながらになるので、さらに場所を特定するのは困難だ。


 あの晩、ハゲ頭たちが家に辿り着けたのは運が良かっただけに過ぎない。普段は魔物避けの結界しか起動していないため、家から漏れる明かりを頼りにしてきたのだろうと推測できる。


 そして彼らが朝から出て行ったあと、また来るつもりがあるのだろうと木々に目印となる傷や布が枝などに巻かれていたので、それらはその日のうちに全部をわからないように処置を施し、いくつかは別の場所に誘導するように偽の目印を残しておいた。


 さらには念のために夜になってから森を歩いていると所々にゲーム時代にダンジョン探索でもお世話になった発光する小石、光石が落ちていたのでその全部を回収しておいた。おそらくこちらは夜の森を歩いて帰り道がわからなくなるのを恐れたのだろう。それでも目印には違いないので、用心しておいて正解だったと言える。



 これらのことを整理して考えると、もう一度おれと接触を持とうとしたが家を発見できず、村に来ていたので手っ取り早く捕まえて話を聞こうとした。最初から剣を抜いたのはあの晩、2人に浴びせた殺気から穏便に話が進むとは考えられなかったことと、逃げるように駆け出したのが原因だろう。



 「こう考えると、あんなに殺気立って襲ってきたのも納得できるか?」


 顎を撫でつつ考察に穴が無いかと状況証拠と自分の行動を省みて、一先ずはこんなものだろうと結論を出す。ならば、次はどのように行動するべきかを決めなくてはならない。


 現状、相手が先とは言え手を出してしまったのは仕方ない。あれで敵認定されるのは少々面倒だし、イラつきもするが、身分的にはあちらが上であるのは認めざるを得ないし、社会的な発言力や信用度合も向こうが上だ。


 このままのこのこと出て行って正当防衛だなんだと言ったところで、騎士以外にあそこに目撃者はいないので聞き入れてもらえないのは目に見えている。


 ここでの暮らしもだいぶ慣れてきたところではあるが、どこかに移住して身を隠すしかないだろう。



 「移住って言っても、ここがどこの国のどの辺りになるかなんてわからないからな~~」


 地図なんてものは村にはなく、村人たちからどちらの方向の道を歩いて行けば町やほかの村があるかぐらいしか聞けていない。


 リズに聞けばもう少しこの辺の地理もわかるかもしれないから、帰ったら今日の出来事を話すついでに聞いてみよう。それでもわからなかったらとにかく町を目指して地図を探すところから始めればいいだろう。



 こちらの世界に訳もわからず飛ばされて3ヶ月、平凡なスローライフを送れるのかと嬉しさ半分、物語のような冒険が始まることもないのだろうなと残念に思っていたのだが、これから始まる旅のことを考えるとワクワクしてくる。


 いくら25歳になったと言えども、やはりおれも男だ。物語の主人公のような冒険譚になるかは不明だが、未知の世界に足を踏み出すのは好奇心を刺激されるらしい。


 

 この世界に来た意味を、そして目標を見つけられるようなことになるよう願うばかりだ。



 と、決意を新たにしたところで家が見えてきた。外では洗濯物を取り込むリズとシンクがいる。先ずは状況報告と旅の準備をするところから始めるとしよう。

一日遅れで投稿します。

今月は引っ越しの準備のため、毎週日曜更新は遅れるかもしれませんが、なるべく更新しますので出来ればブックマークや感想などのコメントを貰えたら嬉しいなぁと思います。


さて、自分にしては珍しくやっと戦闘シーンを書きましたが、ちょっと短めで不完全燃焼気味であります。


もう少ししたらロビンの戦闘シーンを全力で書くので、そこで鬱憤晴らしをしようかと考えております。


それでは、今後とも銀の魔女と灰の狩人をよろしくお願いいたします。

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