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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
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96回目 リトルギャング・ザ・ナイツ

マミヤは普通の女の子だった、少なくともあんな事件があるまでは。

それは彼女の3才の誕生日、平和な街に突然覆面とピエロのような奇妙な格好の集団が現れた。

そいつらは突然銃を取り出すと街の住人を撃ち始め、

一人目が撃たれた時は唖然とするだけだったが、二人目が撃たれみんな一斉に逃げ始めた。


街の住人の表情があまりにも恐ろしく彼女は頭の中が真っ白になった。

気がついたら家族も友達もいない、明かりの消えた街の闇と血の臭いの中にたった一人。

「ママー」

銃声と叫び声が聞こえるなか家族の名を呼ぶ。

「パパー……どこなの?」

降り始めていた雨のせいか、別の何かで濡れているのか、彼女は足元を見ずに前へと歩いていく。

次に聞こえた銃声があまりにも近くて彼女はしゃがみ込み、口を押さえながら恐怖に泣いた。




マミヤの側にピエロ姿の男がやってきた。

撃たれる、そう思い身構えていた少女は何もしてこない彼にいつしか掴みかかって叫び声をあげていた。

自分でも聞いた事のない声、自分が言うはずもない言葉、次々にあふれ出して

悲しくて悔しくて少女は彼を力一杯に叩き、引っ掻いて、やがてこみ上げてきた憎しみの対象にする。

無抵抗な彼の覆面を平手打ちで飛ばした時、その下にあった獣の顔を彼女は生涯忘れる事はなかった。


それから二年後、少女はギャング組織の中で腕利きの暗殺者となっていた。

変装を得意とし、他者を欺きながら標的を殺す。

人を殺す時だけ笑顔を浮かべる彼女をギャング仲間も恐れ遠ざける孤独の中、

それでもあの夜の孤独が落とした闇に比べたら彼女にとってそれは些細な物だ。


何がこの孤独を終わらせるだろう、なにを捧げれば神は彼女を解き放つのか。

答えは明白だった。

銃弾の先にあの獣の顔を思い浮かべて撃つ度に、彼女の心は震え、その顔は恐怖に歪み笑うのだ。




マミヤの5才の誕生日、すっかり殺し屋としての生き方が体に染みついた彼女には

動きにくいドレスを着て大人数の前に行かされるのは嫌な気持ちにしかならなかったが、

彼女を救ってくれたボスのために

彼の用意した高級車数台分の価値のドレスを身に纏い会場へ向かった。


二年前の頃は家畜でも見るような目で自分を見ていた人間達が、

ボスの隣にいる今では貴婦人を見るようないやらしい目つきで見られるのはすごく嫌だったが

それでも彼女は持ち前のポーカーフェイスを崩さすに社交的に振る舞っていた。

しかし次からの仕事のパートナーをボスから紹介された時、

彼女は思わず目を見開き手にしていたオレンジジュース入りのワイングラスを地面に落とした。


彼女の動揺も仕方のない事だった。

そこにいるのは間違いなくあの虐殺の日のピエロ、あの獣の顔の男だったのだから。


彼は屈託のない笑顔で「よう、久しぶり」と親しげに彼女に声をかけた。



その黒豹獣人は自分のことをヒースと名乗った。

彼はマミヤの家に勝手に上がりこむと無理やり共同生活をはじめる。

基本的に他人嫌いであるマミヤは家の中に彼の姿を見た30分後には家を変えたが、

それも1530回目であきらめた。


ヒースは朝に目を覚ました時にエプロン姿で妙にうまい朝食を用意していたり、

仕事で忙しく家の中が惨状になりがちの彼女の家の救世主にもなり便利なことは便利だったが、

それよりなによりも復讐の相手を手元に置いておく有効性を考え

彼女は彼を避けることをやめた。


「今日の朝食はどうだい?君の故郷の料理っていうのかな、ナットーを用意してみたいんだけど」

「ナットーは主食じゃないの、ご飯があって日本食は初めて真価をなすことを勉強すべきよ」

「あちゃーそうかい、そりゃぁ気がつかなかったな!」

「あなたの正体暴いてあげる、そうしたらみんな殺してあげるから」

マミヤの淡々とした言葉に「そりゃ楽しみだ」と小さな声で呟きながらヒースは少し苦い表情をした。



二人仕事の毎日が始まり、ヒースにいつも暗殺対象以外の殺しを邪魔されてうんざりしながら

そのほうがスピーディに仕事がこなせるようになったこともありなんだかんだでうまくやっていた。


そんな中ピエロの集団の手がかりを彼女の情報屋から手に入れたマミヤは、

ヒースに黙って彼女が一人捜査を進めある集会にたどり着いた時、罠にかけられていた事が判明。

銃撃戦の中ヒースの助けも入り命からがら逃げ出す途中、

マミヤがいつもかぶっているオレンジの帽子が一瞬とれた。

その下にあったのは獣の耳、彼女は獣人の血をひくクオーターであったのだ。


マミヤの暮らす街は人間と獣人とのクオーターの街であった。

ピエロの集団はクオーターを皆殺しにすることを目的とする闇の集団であったことがわかる。

ヒースはマミヤの傷の治療をしながら自分の警察手帳を見せ、

実はあの晩自分はその組織の中で潜入調査をしていたということを明かす。

しかしマミヤの耳にそんな言葉が届くはずはない。

彼女は儀式で吊るされる獣耳の人物の姿を思い出しながら、ただ静かに冷たく微笑んでいた。



仕事そっちのけで闇の集団を追い始めたマミヤのフォローを必死でするヒース。


『ねぇいいこと教えてあげよっかぁ、あなたの仲間をねー今からみんな殺しちゃうから』

携帯にかかってきたマミヤのその言葉を聞いて、ヒースは手に何も持たずに飛び出した。

バイクでハイウェイを飛ばしながら彼は彼女の無事を祈りながら、懐の銃の安全装置を外した。


牙をとぐようにマミヤは銃のメンテナンスをしていた。

銃弾の一つ一つ、それがあの連中を傷つけ殺すのだと考えるだけで歓喜に震える。

その歓喜は謎の集団がふたたび銃声を響かせる頃には狂気に変わっていた。


どこにそれだけ隠していたのかというくらいのマシンガンにロケットランチャー、アサルトライフル、

ミサイルランチャーまで出てくる。

次々にブッ飛ばされるピエロたちの姿に叫びにも似た笑い声をあげるマミヤ。

彼女の背中に向けられた銃をヒースの放った弾丸が撃ち落とす。

背中あわせにならぶ獣人と少女、マミヤはその一瞬心の中に不思議なものを感じた。



戦いながらヒースはこうなった以上身の安全の保証はできないからと、

あの夜の真実を語り始める。


実はこの闇の集団はその国が起こされる時に作られた人種管理組織の一端。

そしてクオーターが発生し始めた今、現代の大統領がクオーターどころか

獣人たちもすべてを皆殺しにするための軍まで作ろうとしている事実があかされる。


「俺はすべてを諦めた。ただあの夜に狂った君の人生をなんとかしたかったんだ、だけど」

ヒースの口を人差指で止めるマミヤ。

彼女は空の雲に当たる光の動きを見て小さくうなづく。

「私を拾う時にボスが言った言葉があってね」

マミヤはヒースを子供らしい顔で見上げた。

「幸せの前には必ず敵が立ちふさがる。

 勝ち取れ、そして必ず幸せになれ。そういったの」



マミヤが空に向けて銃声を鳴らすとそこへ大量の車のヘッドライトと、

シカゴタイプライターを獲物にしたギャングスター達の影が現れた。


それからはもう徹底的に影の組織を潰して潰してつぶしまくり、

目的は組織に参加してる状況で大統領を始末すること。

残念ながら途中で身を案じ姿を隠した大統領を始末することはできなかったものの、

ヒースを筆頭に警察組織内部での動きも高まり、

マミヤの演説とあわせて全てが公にさらされ彼は失脚。

軍の計画も水泡に帰し、その手の計画もつぶさに調べなおされる運びになった。


マミヤは新しい大統領が決まったその夜、彼に結婚しようって言ったんだけど

五才と結婚はやばいよ!ってことで数十年待つことになった。公式の結婚はね。

ヒースに幸せだよ。って耳打ちすると、初めての獣人大統領ヒースは誇らしげに宣誓した。

わぁっと湧き上がる歓声の中に見知った人々の姿が見える、

最愛の人の隣で彼女は普通の女の子の普通の笑顔で幸せそうに笑っていた。



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