68回目 正義の味方
少し先の未来、社会の在り方が今とは異なる時代。
正義と悪の対決の場が武力衝突ではなく政治により行われるようになっていた。
ジャスティス党、秘密結社大悪党。
正義の組織と悪の秘密結社の政治対決である。
悪の秘密結社による政党樹立の際の世論は彼らに対して嘲笑する者もいたが、
結果として経済効果があれば国民は悪でも躊躇せず政権を握らせる結果に至る。
人の選択の指向性は歴史が証明している、彼らは全て承知の上で堂々と悪を名乗ったのだった。
名目上の公平さを示すため国庫の使い道に正義予算と悪予算が追加され、
手段を選ばない事を宣言することで大胆で突破力のある政策を行い予算を増大させていく秘密結社に対し、
正義の味方であるための制約の多い正義の組織は発言権すら確保するのに苦心するような状況が続き、
苦肉の策として彼らは悪に対抗するために最悪の政治家を一人迎え入れる。
暴力には暴力による鎮圧しかないように、悪には悪で対抗するしかない。
音切 鋼矢は元悪の組織に所属していた政治家であった。
彼を招き入れたのは久芽 ゆう、鋼矢とは幼馴染の正義の組織の少女だった。
「君の僕に対する期待が煩わしい、君はいつも僕に君の思い出の中の僕を期待しているだろ」
「僕は善玉に雇われた悪玉のままでいい。
飾り立てた言葉も嘘くさい名目もいらない、契約上の関係だけでいいよ、その方がやりやすい」
鋼矢は彼に親し気に近づくゆうに対して突き放すような言葉を放ち、
あくまで仕事上の関係としての距離を保とうとする。
しかしゆうはそれでも彼に話しかける、
彼女は知っていた、彼が昔正義の味方に憧れていた事、
そして今こうして自分の頼みを聞いて助けてくれる彼の胸の奥にある優しい心を。
「僕の犯した罪には世界を救ったくらいで帳消しになるようなものは一つもない。
僕も彼らと同じ、とっくにボーダーは超えている。君と同じ世界ではもう生きられないんだ」
そういう鋼矢の言葉はまるで自分に言い聞かせるようだとゆうは感じた。
彼女はありのまま飾り立てない彼女の気持ちを口にする。
「あなたが立っている場所がどんな暗い場所でも、鋼矢君は今私達を、正義を守ってるんだよ。
だから立派な正義の味方だわ。少なくとも私にはあなたはヒーローに見えてる、それだけは信じて」
「私は貴方に正義を押し付けるつもりなんて一度もなかったんだよ。
小さな頃からいつだって貴方は他人の悲しそうな顔を見ると辛そうな顔をしてた。
貴方はきっと自分の中の正義から逃げられない。だから私は貴方の味方になろうって決めたの、貴方という正義の味方に」
政治闘争を行いながらも小規模の正義の組織と秘密結社の武力衝突は水面下で行われていた。
予算が得られない正義の組織の装備は補給すらままならない状況で戦況は日に日に悪化の一途をたどっていた。
鋼矢はねだるゆうに恥ずかしいと断っていたが、秘密結社に所属していた時のスーツを身に纏い、
正義の組織のピンチに正体不明のダークヒーローとして現れる。
「気をつけろよ、僕は弱いんだ」
そう宣言した鋼矢は雇っておいたプロの殺し屋数人の狙撃と、
仕掛けておいた対人地雷を駆使して秘密結社を駆逐する。
鋼矢の政治的な戦略と、ダークヒーローとしての活躍と作戦指揮によって
次第に勢力を盛り返す正義の組織だったが、
状況が拮抗する前に秘密結社は作戦を実行に移す。
日本から正義の味方を一掃し無駄な金をなくすと秘密結社が打ち出して自体が急転する。
秘密結社側に現れる新たな政治家 闇月 銀。
彼こそ今の秘密結社を操る影の首領であり、
彼を止めて秘密結社の本来の首領ドルグオーガを救うのが鋼矢の本来の目的だった。
「君の心を切り裂いたら、いったい君はどんな声で泣くんだろう」
そう言って銀は聖人のような笑顔を鋼矢に向ける。
彼の手によって鋼矢が苦しめば苦しむほどに銀は酔いしれ、
「君の苦悩は心地よい罪悪の味がする」
そう言いながらワイングラスを傾ける。
一方鋼矢は銀に翻弄されるふりをして水面下で秘密結社側に根回しを行い、逆転の一手を仕掛けていた。
そして最後に彼が向かった先には、秘密結社の首領、ドルクオーガの姿があった。
「首領、報いを受けてもらいます。貴方には組織の暴走を抑えるための人柱になってもらう」
そういう鋼矢にドルグオーガはふと笑う。
「君は厳しいな、私にまだ首領を続けろというのか。このまま闇月によって私が処刑されてしまったほうが犠牲は少ないというのに」
「あんたが始めた事だ義務がある、それにこのままじゃ心残りを抱えて死ぬだろ。
だから僕が絶対にあんたを逃がさない。死ぬより苦しい地獄で悶えて生き続けろ」
「お前は昔から私の事をよく知っているな」
「貴方は僕に似てるんです、それは僕を拾った貴方が一番ご存じのはずだ」
鋼矢の作戦にかかり追い詰められた銀との直接対決になる。
「全ては願いが産み出す過ちだ、祈りが正義なら欲望が悪を産み出す力になる。
だから俺は祈りも願いも捧げない、全てを白く染め上げてやる」
そう言ってパワースーツを身にまとい剣を抜く銀。
「今の僕には正義を犯す覚悟がある、罪も罰も全て総てを跪かせて信念を貫き通す。
愚直に僕を信じ続けた彼女の為に、僕はお前に正義を誣く!」
鋼矢の身をパワースーツが包み込み彼の抜刀と共に最後の戦いが始まった。
二人の戦いの後、実権を取り戻したドルクオーガと正義の組織の協定により、
二つの組織は政治を離れ、再び戦いの日々が始まる。
そして契約が終わった鋼矢が組織を離れる時がきた。
「それ、まだ持ってたんだ」
鋼矢はゆうのカバンについた不格好なヒーローの人形を見ていった。
ゆうは微笑みながら頷く。
「かっこ悪いだろ、処分してもいいんだぞ」
「ぶきっちょでも、ぶかっこうでもいいんだ。君が私のために作ってくれたんだから、大切な宝物だもん捨てられないよ」
鋼矢は照れくさそうに頬をかきながらそっぽを向く。
それは二人が幼い頃、ゆうの誕生日に鋼矢が彼女に贈ったものだった。
「ねぇ鋼矢君、世界中の誰もが間違ってるっていったとしても私だけにはわかってるから。
だから辛くなったらいつでも帰ってきて」
鋼矢は少し思案を巡らせ、彼女を横目に見つめて目を細めるとそのまま背を向け歩きだす。
「助けてくれてありがとう、鋼矢君!」
鋼矢は後ろ手に手を振ると歩き去っていった。
ゆうは夕日の向こうに消えていく彼の背中をただじっと見送っていた。




