60回目 物語の窓辺に君がいて
その街の高校に通う男子高校生月門有希には陽之芽咲楽という幼なじみがいる。
「よう、おはよう」
「おはようロック、今日もいい天気だね」
咲楽は有希の事をロックと呼ぶ、彼女はある事故で記憶喪失になり、
そこからある事がきっかけで自分はあるアニメの主人公のルシアで、
有希はその主人公の幼なじみだと思い込むようになっていた。
咲楽の見舞いをしていた有希は彼女がいつも何かに怯えている様子に気づき、
もしかすると彼女は自分が誰なのかわからない状態なのが不安なのかもと思い、
幼い頃彼女が好きだったアニメを彼女に見せる事にした。
彼女が幼いころに好きだった作品だと説明すると咲楽は興味をもってそれを見始めて、
有希に続きをせがむようになり、次第に笑顔もみせるようになった。
しかしある日、彼女が自分の事をルシアと言って有希の事をロックと呼び始め、
自分の記憶をアニメのルシアの体験で埋めている事に気づく。
それから有希は彼女にあわせてロックとしての自分を演じ始めた。
咲楽は有希以外にも一人だけ、二人の昔からの幼なじみの少女の事を
アニメのキャラクターとして扱っていた。
彼女の名は山岸加奈、咲楽は彼女の事をソエルと呼んでいた。
ソエルはアニメの中で容姿端麗の才女で、
加奈も役に違わない美人でモデルとしてのアルバイトも好調で、
成績も優秀ないわゆる高値の花といった女性だった。
ただ有希が知る加奈は昔は普通の女の子で、
咲楽にソエルとして扱われるようになってから変わり始めたようにも思えていた。
そして加奈は咲楽を見るといつも少し悲しそうな顔をするのだ。
ある日有希は咲楽の中でアニメと同じ物語が日々彼女の経験として進行していることに気づく。
はじめはその物語の進行具合に合わせてロックを演じていた有希だったが、
それが進むにつれて咲楽の記憶も少しずつ戻り始めている事を知る。
それを協力者である加奈に知らせると、彼女はそれに驚き動揺する。
いつか隠し切れなくなるからと彼女は重々しく口を開き、
咲楽が事故に巻き込まれた原因が加奈である事を打ち明ける。
咲楽の記憶が戻るごとに苦しむ加奈。
加奈は有希の事が好きで事故の前は咲楽に嫉妬していた。
事故の後は責任を感じて身を引こうと決めていたが、
それでもまだ有希が好きで離れたくないと思い、
咲楽が記憶を取り戻して自分の事を憎んだら三人の関係が壊れて有希に会えなくなるのが辛いと感じ、
こんな状況でそんなことを考えている自分を嫌悪する気持ちが強くなっていたのだ。
そんな加奈の様子をみて咲楽も悩み始め、彼女の中の物語も進行しなくなってしまう。
そして取り戻した記憶の中で事件の原因は加奈だけではない事が朧げにわかりはじめる。
記憶を取り戻して陽之芽咲楽として生きる事になれば全てを失い、
現実と向き合わなければならなくなる。
咲楽は有希に自分はこのままルシアのままでいたいと打ち明け、
有希はお前が望むならお前はそのままでいいと言って彼女を抱きしめた。
咲楽は苦しむ加奈のため、そして有希のため、そして自分のために現実と向き合う決意をする。
そして彼女の中の最後の物語が動き始めた。




