6回目 夜の王
その街には血の川と湖があり、
住民は全て自らの体で血を作り出す事の出来ない存在だった。
一般的には吸血鬼という存在になりかねない彼らが、
かりそめにも人間的な生活をおくる事ができるのはその街が国家によってしかれたシステムによって完全に管理されている恩恵であった。
一日に一度500mlの血を飲む、それだけでそれ以外は現代文明の普通の人間と同じ生活が出来る。
ただし一つだけ破ってはならない法律が彼らにもあった、
一日に500ml以上の血を飲まない事。
もちろん普通の住人達はそれを律儀に守る、
だが彼らは違った、深夜に徘徊し、テリトリーの確保に奔走し、
闘争を繰り返し闇夜の月に吠える若者達。ナイトライブス。
彼らは知っていた、500ml以上の血の接種により彼らの肉体に人外の力が宿る事を。
あるものは姿を狼に変貌させ、あるものは巨大なコウモリに、
そして魔法のような力を操る吸血鬼へと変わる。
人に戻れるギリギリの量の接種を行い自らの力を高めて戦いあう。
戻れなくなれば日が沈む前に人外処理の特殊部隊に殺され処分される。
街を出る事もできず、大人達の定めた規範から出て生きる事が出来ない彼らは
せめてそうして戦う事でしか本当の自分を、自分達を知る事が出来なかった。
彼らの目的はただ一つ、所属するチームの街での支配権の確保と、
絶対者としての夜の王になる事。
今夜も赤い月の下に狼の遠吠えが響き渡る。
夜景の中最も王に近いと賞される彼は手にした血の入ったペットボトルを放り投げ、吸血鬼の力を覚醒させ瞳を深紅に燃やした。
彼の目的はただ一つ、チームも後ろ盾もいらない、ただ必要なのは己の拳のみ。
そして彼は夜の街に身を投じた。