3回目 幽霊日記
青年はとある大学の文学部に通う学生だ、
彼は金銭面の都合からこのアパートに引っ越してくる事になった。
なんにせよこのアパートの家賃は安い、安すぎる、正直なところ間違いなく事故物件である。
それでも背に腹はかえられなかった。怖いだけなら大丈夫だろ、と、若気の至りな楽観思考だった。
青年が荷物の整理をしていると見慣れない手帳を見つけた。
中を開くとどうも日記のようだった、どうやら前のこの部屋の住民の物らしい。
読み進めていくと彼女も青年の通う大学の文学部の学生だったらしい事、
彼女のお薦めのランチの店など、引っ越してきたばかりの彼にはありがたい情報につい読み進めてしまう。
ふと彼は違和感を覚える、カレンダーを見て視線を日記に戻すと
やはり日付が彼が引っ越してきた後の日付になっても続いているのだ。
少し背筋に寒気が走り彼は日記を閉じる。
日々の忙しさからすっかり日記の事を忘れた頃、
急な電話を受けてつい日記を手に取り白紙の部分にメモを走り書きしてしまう。
一仕事終わりメモを確認するため日記を開くと、
それがくだんの日記帳だった事を思い出す。
読み進めていくとやはり青年の引っ越してきた日以降も続いていて、
しかも以前読んだ時より書き進められているようにも思えた。
自分のメモの所にきてそれを確認していると青年は目を見開く、
そのメモの後はたしかに白紙だったはずなのに、
日記の主の筆跡が新しい日記を綴っていたからだ。
しかも自分の日記に誰かが乱雑にメモ書きをして不快だとまで書いてある。
青年はつい思わずほおりなげてしまうが、
女性との繋がりが生涯一度もなかった彼にほのかに悪魔が囁いた。
交換日記をしてみたらおもしろいのではないか、と。
それから紆余曲折筆談による説得もあいまって、
幽霊との奇妙な交換日記の生活がはじまったのだった。
彼女はどうやら雪山で遭難したらしく、それ以降記憶や自分がどこにいるかの認識があいまいなのだという。
ただその部屋に帰ってきて日記を前にすると頭がスッキリするので、
自分が誰で何をしているのかわかるように書き留めているのだと教えてくれた。
彼女とうち解け友達のような関係になった青年は
彼女の遺体を見つける約束をして、
ついにそれを見つけ出す。
雪山の洞窟の中で寒さのためか遺体の腐敗もなく、
まるでまだ生きていてただ眠っているだけのようにも見えた。
彼女に遺体を見つけたと日記で報告し、家族にも伝えた事や今の心境などを綴り、
翌日の彼女の返答を楽しみに眠りについた青年。
しかし翌日以降彼女からの日記の返答はなかった。
予想は出来ていた事だった、どこかで終わりが来る事なのだと以前から覚悟はしていたのだ。
月日は流れ心の中に寂しさを抱えたまま学校に通う彼に、
ある日一人の女生徒が声をかけた。
振り返ると青年は腰をぬかした。
その女生徒は青年が見つけた遺体の女性だったからだ。
実は彼が見つけた時彼女はまだ仮死状態で生きていたらしく、
ようやく意識を取り戻し最近また大学に復学したのだと彼女は言う。
彼女はずっと不思議な夢を見ていたという、
自分の部屋に突然やってきて好き勝手する男性の事、
でも彼の事が憎めなくて、どこか寂しそうなのが自分に似てると感じてつい仲良くなってしまった事。
そしてその彼と青年がとてもよく似ていて、つい声をかけてしまったのだと。
青年は笑いながら日記帳を取り出してそれを彼女に見せると、
彼らの過ごした日々の思い出を彼女に話し始めた。