23回目 人形の村
雨の中を男はなにかから逃げながら必死に走っていた。
いつしか道路から外れ、獣道をくぐり、
靴の中が血まみれになって歩くのでやっとの状態になった頃。
男の前に一つの村が姿を現した。
その村は無人になったゴーストタウンだった、
しかしそこにはそこかしこに、まるでその村の住人かのように、
等身大の人間の姿をした人形が配置されていた。
男はその村に住む一人の芸術家と出会い、彼の家でしばらく厄介になる事になった。
男が異変に気づいたのは翌日の朝になってからだ、
人形のはずなのに毎日配置やポーズが変わっているのだ。
関節を動かそうにも継ぎ目がないため動かしようがないというのに。
芸術家が彼らを人間扱いして、挨拶や会話までしている。
その様子を奇妙に思い、恐怖心もあったが、
男には行く先もなくただ滞在するしかなかった。
無人の村ではあっても電気は芸術家の用意した発電機により賄われており、
水道やガスなども使用する事ができた。
男が訪れるとウェイトレスの姿の人形が自分用の食事を持っているモーテルで朝食をとっていると、
TVで指名手配犯逃走のニュースが流れ始めた。
そこにあるのは自分の顔、嫌な気分ではあるが人形の村では関係ない。
男がそう思っていると、視線に気づき顔を上げる。
モーテルの中の人形達がいつの間にか全員自分を見ていた。
男は驚き飲んでいたカップを落とし、その場から足早に立ち去る。
気味が悪い、それに芸術家が自分の事を知ったら通報するかも知れない。
男は芸術家の元へ向かった。
男は自分は無実の殺人罪で逃亡してきた事を説明する、
芸術家はそれならこの村でずっと暮らせばいいと提案してきた。
芸術家からの思わぬ好意、しかし男の表情は暗い。
人形は彼にとって恐ろしすぎた。
芸術家は言う、人形と思わなければいい、と。
それから男は人形の名前をそれぞれ覚え、
芸術家のように挨拶をし、会話を試み、人間として扱う訓練をし始めた。
次第に男は人形に対する一方的な語りかけにも返答があるような錯覚を抱き、
人形がまるで人間のような表情を浮かべているように見えはじめる。
男はある雨の日の夜、
一人の女の人形が傘も差さずに雨ざらしになっているのを見かけた。
彼女に男は自分の傘を与え、自分は濡れて家に帰った。
その翌日、女の人形が男が住処にしている家の前で貸した傘をもって立っていた。
男は驚いたが、はにかみながら礼を言うと、試しに食事の約束をしてみる。
すると彼女は男が約束した場所、約束した時間にいた。
男はばかばかしいとは思いながらも、彼女と迎え合わせに座ると、
彼女と食事をしながら会話をした。
話しかけていくうちに彼女にも表情が現れ、
自分に好意的な視線や仕草をしている事に気がつき、
男は少しだけ嬉しくなり、彼女とまた会う約束をする。
そうして男は彼女と逢瀬を重ね、
やがて彼女が人間にしか見えなくなり、
村の教会で結婚式をあげる。
教会の鐘の音がなる中男と彼女が教会の扉を開けて外にでると、
そこには人間として生き生きとした村の住民達が
万雷の歓声で二人の結婚を祝う光景があった。
男と彼女はみんなにせがまれキスをする。
その日から人間が一人消え、村には一体新しい人形が
妻と仲睦まじく暮らすようになった。




