2回目 かなしみの絆創膏
少年には不思議な力があった。
他人からは見えない絆創膏をポシェットから取り出して、
悲しい気持ちになっている誰かにそれを貼ると、
その人の悲しい気持ちを消してしまう事が出来るのだ。
親の仕事の都合で少年は頻繁に引っ越しをしなければならず、
そのたびに彼は友達や知人とお別れをしなければならなかった。
自分が悲しいのはもちろん自分の大切な人が悲しいのはつらいと感じた彼は、
友人や知人に絆創膏を貼るようになった。
彼との別れ、彼を原因にして誰かが悲しむ事はなくなった。
だけど彼の心には不思議とむなしさばかりが募るようになっていった。
引っ越すたびにアルバムの中の写真もみんな捨てるようになって、
彼は次第に無表情で過ごす事が多くなっていった。
新しい引っ越し先で出会った少女は彼にとって初めてのタイプの少女だった。
彼が他人と関わらないようにしていても、
彼女はどんどん彼の心に入り込もうとアプローチを仕掛けてくる。
そしてまた別れの時、
なんとなく彼は彼女に自分の秘密を打ち明けた。
絆創膏を貼れば悲しくなくなると。
なぜなら彼女は本当に酷い顔で泣きじゃくるのだ、
いつも明るく笑ってばかりの彼女がそんな顔をするのを見るのは、
彼にとって久しぶりに辛いと思う事だったから。
だが彼女は絆創膏を貼ろうとする彼を止めると言った。
「私はあなたの事好きだよ、だからこのままでいいの。
好きなんだからちゃんと悲しませて、あなたの事忘れちゃうまで悲しませてよ」
少年は理由もわからず泣いていた、
そして彼女に絆創膏を貼るのをやめたように、
その町では誰にも絆創膏を貼らない事にした。
お別れの時、
学校で出来た友人達が少年の見送りにやってきた。
それは少年にとって初めての経験だった。
悲しいからみんな見送りに来てくれた、再会を祈って。
少年の顔に色と笑顔が満ちていく。
大声で別れを叫びながら大きく手を振る少年の乗った電車は遠ざかっていく。
少年のアルバムには今は思い出の写真がたくさんつまっていた。