遙夏生は君に出会う
保健室を抜けると、そこは玄関ホールだった。吹き抜けになっており、見上げれば四階まで覗ける。
「荷物、教室にあるからね」
保健室の小悪魔からラブコール。
教室ってどこだよ。
宛もなく一年生のクラスがある場所へ向かう。
この死後の世界にある高校は、僕が生前通っていたところにそっくりだ。校舎で長方形に囲まれた中庭。倉科さんに振られた思い出が真っ先に思い出す。
あー、振られるってわかってたのに、なんで告白なんかしたんだろ。生前の僕は馬鹿なのか。でも、今は違う。ここは違うんだ。
生前の世界と似て非なる世界。僕は倉科さんとして、生まれついた。僕はもう僕じゃない。第二の人生が始まったんだ。
倉科さんは僕と同じクラスだった。
思い出すなあ。入学式のあと、教室で初めて会ったのが出会いだった。話すことなんて出来なかったけれど、目があったときに僕は恋に落ちた。彼女はまさに天使だった。アニメなんかで見たことないほど、可愛かった。
教室の引き戸を開ける。なめらかで一つの音もない。静寂に包まれた教室。壁際の席に生徒が1人。机に向かって本を読んでいる。後ろからでは顔が見えないが、やけに見覚えがあった。猫背で根暗な雰囲気を醸し出している。入学初日からこんな絶望的な姿を晒しているのは、世界がいくら広いと言っても僕しかいないだろ。
ん? 僕? ……僕!? なんで僕がそこにいるんだ。いったいどういうことだ!
アニメでよくある話だと、入れ替わっているってのが通例だ。死後の世界、すごいな! なんでもありじゃんか!
「あ、あの、帰らないんですか?」
仮にも倉科さんだからか、敬語になってしまった。自分自身に敬語使うってなんか変だな。
振り返ると、やはりそこには、僕の顔があった。情けない顔してるな。
「あ、え、え」
盛大にキョドっている。目の前に自分が現れたんだ。動揺するのも無理ないよな。
「一緒に帰りませんか?」
何にしても倉科さんから話を聞く必要がある。