遙夏生は告白をする
昼下がりの中庭。
ベンチに座り、お昼ご飯食べる女子。
風が木々を揺らす。
雲の隙間から太陽が顔を出す。
中庭ってこんな風になってたんだ。
二年も通っているというのに、中庭に訪れたのは初めてだった。日陰組の僕が中庭に来ることなんてまずない。だってこういう所ってリア充が来るところだろ! 僕なんかいつも便所飯だよ。日の光が眩しいな。溶けそう。
そんなことを思ってもこの気まずい空気は変わらない。
僕はあろうことか女子と中庭にいる。こんな晴れやかなこと現実にあるのかよ! リア充の仲間入りしたみたいだ。してないんだけどね……。なんかもう人生っていいな。
「それで、用事って何?」
彼女は、俯いた僕の顔を覗いてくる。視界の端に揺れる茶髪が見えた。やめてくれ! きっと僕は、今世紀最大に顔を赤くなってるに違いないんだ。こんな顔見られたくない。
「……ぼ、僕と付き合ってください」
勇気を振り絞って、彼女に告白をする。
彼女の顔を見るのが怖くて、下を向いたまま。引いてたら、どうしよう。ああ、きっと迷惑してるだろうな。告白なんてするんじゃなかった。そうだ、もう帰ってしまおう。
「ごめん。無理」
え……今……なんて。いや、二度も言わなくてもいい。
「そりゃ、そうですよね。僕みたいな冴えない奴、タイプじゃないですよね」
帰ろう。すぐに立ち去ってしまおう。告白しようなんて考えるんじゃなかった。僕みたいな彼女いない歴=年齢で、アニメオタクで、ぼっちが告白なんておこがましいんだ。
いつものトイレを目指す。中庭なんてもうたくさんだ。10メートル走ったところで、息が切れる。
「痛っ! てめえ、どこ見てんだ!」
よりによって柄の悪い奴にぶつかってしまった。
「はあ……はあ……すびばせん……おえ」
いつのまにか涙や鼻水が出ている。吐き気もする。
「んだよ、こいつ気持ち悪い」
男は去っていった。
そうだよな。僕って気持ち悪いんだよな。浮かれて告白だなんて、また黒歴史作っちゃったよ。
「もう、死のうかな」
屋上に足が向かっていた。扉を開けると、フェンスで囲まれた屋上が目に入る。ついでにベンチでいちゃつくカップルも。
カップルが僕を見て、怯えた。くっそ、憎たらしい。もうおまえ等なんてどうでもいい。
僕は死ぬんだ。
フェンスに向けてプルプル震える足を運ぶ。
無言でよじ登った。後ろで慌て出すカップルの声が聞こえる。止めようと男の方が歩み寄る。
何か言っているが聞こえないことにしよう。どうせ早まるなだの、何してんだよみたいなことだろ。そんな世間体を気にした言葉なんてどうでもいい。いっそのこと罵倒してくれ。死んでしまえ、と言われた方が心が晴れる。どうせ心で思ってても言わないんだろ。僕の自殺なんか彼らのちょっとしたエピソードにしかならない。騒がれるのは一時のことで、時が経てば忘れられて、なかったことになる。僕はそんなちっぽけな存在なんだ。僕が死んだところで、世界は1ミリたりとも変わらない。なら、死んでも何の問題もないだろ。
もう考えるのも面倒くさいな。
フェンスに跨がったまま、空中に身を投げ出した。
腐った果実が地上を汚した。