マークと光の勇者
マークの養父、ユアは驚いた。原因もわからず、笑わなくなってしまったマークが役目が終わった途端消えてしまった元の同僚であり、上司のような存在である光の勇者をこちらへと連れてくる姿を植物を通して見つけてしまったからである。
……しかも、何よりも驚いたのは、どんなに笑わせようと試みたが、それでも笑うことはなかったまるで太陽を好み上を向く輝きの花のようなマークの笑顔を、容易く取り戻してしまったからだった。
理由もわからず笑わなくなったマークが笑っている、それだけでユアは充分であった。理由もわからなくていい、ただ自分の息子が幸せならそれで彼は良い。そして期待した、……確信もないこの胸に宿る勘に。
「君はもう一人にならなくてすむんだね、……良かった。どんなに努力しても俺は君と同じ時は生きられないから……、例え魂は繰り返し生きていようとも記憶がなければ、それに本人に言わないことを条件に手に入れた前世の記憶なんて、君を寂しく思わせないためには無意味なことだったと言うのに……、彼はそれを望んだんだよ、光の勇者」
切なそうに花を切りながら、聞こえないように蚊の鳴くような声でユアはそう呟き、
「でも、良かった。君が一人じゃない姿を見れて」
ユアは再びそう言って、幸せそうに向日葵の花を撫でた。……とても愛しそうに、何度も何度も。
「君達の幸せを祈るよ」
植物を見た二人の姿を目に焼き付けるように、ユアは静かに目を閉じて、何かを決意したかのようにゆとくりと目を開いたのだった。
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マークは悩んでいた。
あの男が光の勇者だと聞いた時、とても驚いたものの、マークはあの男について行くと言う決意を変わることはなかったが……。
光の勇者こと、ライ ノアールについて行くことを決意したのは良いものの、どうユア達に説明したら良いのかわからず困っていた。
光の勇者をユアの元へまで送り届けたまでは良い、しかしどのタイミングで光の勇者と一緒に旅に出たいと望みを言うのか、そのタイミングがわからないでいた。
そんな時、見計らったかのようにユリアが現れた。あれから数年も経ったと言うのに青年らしさは変わらない彼の姿を見つけ、マークはまんまるな目を余計に見開いた後、わざとらしくもありながらタイミング良くため息をついてしまった。
面倒見の良いユリアはもちろん放っておけるはずもなく、男性とは思えないくらい柔らかい色気のある艶やかな微笑みを浮かべながら音を立てずにマークの隣へと座る。
「どうしたのです、マーク」
「……僕、さっき光の勇者に会ったんです。それで何故か、あの人の側にいないと……って思ったんです。だから、あの人と一緒に旅に出たいと言いたいんですが……、どのタイミングで言っていいものやらわからなくてそれで……」
困ったように言うマークに、ユリアは苦笑いをした。……なんて不器用な子だとそう考えながら。
まるで我が子にいだく、愛しさを感じながらユリアは、
「君の人生です、僕は反対も賛成もしません。君が後悔しないよう、生きてくれればそれだけで良いのです。だから恐れず、君の望みをユアさんに伝えなさい。言葉にしなければ、その望みは伝わりませんよ」
諭すようにユリアはそう言い、それ以上は何も言わずに立ち去った。その姿をマークは無言で見つめながらも、服の袖を爪を立てるように指先で握り締めながら、何かを堪えるように唇を噛みしめたのだった。
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「……父さん!」
息を切らしながらマークは、そう叫ぶようにそう呼んだ。ライとの話し合いが終わったのか、久々に聞いた大きな声に驚いたかのように振り返ったユアだったが、数秒後には何ごともなかったように何だい? そう優しい声で問う。
「……僕、ライさんと一緒に旅に出たいんだ……」
その声に自然と、マークは自分の望みをはっきりと躊躇うことなく伝えることが出来ていたのだった。