新しい家族2
咲かせ屋な花屋と書かれた看板がぶら下がる、木材で出来た家へと入っていく養父である男性。マークは知らない環境なため、ただただ男性の後をついて行き、やはり魔法のある世界だったかと対して驚きもせず、むしろ自分が何故養子に出されたのかがわかったような気がした。
身体はこの世界に適応しているとは言え、元は魔法なんてない科学で成り立っていた世界にいたのだから、魔力はあったとしても魔法自体が使えない、発現出来ないと言われても驚きではなかった。
だが、魔法が使えないと言うことは相当な武術な手練れではないとこの世界を一人で歩くことなんて、命すらも奪われる危険なことだった。……この世界には魔物がいる、人類を滅ぼすことしか考えていない生命体がいるのだ。
だからマークは、
「君は魔力があっても使えない」
と、そう言われても前世の記憶が邪魔をして魔力の発現を邪魔をしているんだと納得が出来た。そしてマークは生きるため、強くなることを誰よりも願い、それに向かって努力し続けなければならないということを、養父の表情を見て自覚した。
「俺はずっとは君とは側にいることは出来ない。生きているうちは守ってあげられる、だけど……僕が死んだら君は一人で生きていかないといけない。君は誰よりも生きていくことを強かに望まないといけないんだ。そのことだけは必ず忘れないでね……」
切なそうな表情を浮かべながら養子は静かな声でそう言って、マークの頭を撫でた。
その瞬間、マークは“マーク ユーズリ”となり、養子であるユア ユーズリの息子となった。
それから一年後。
養父であるユアの祖父、ノアに槍術と棒術で戦うことを教わりながらマークはユアの店、咲かせ屋な花屋の看板息子として依頼者に知られるようになった。町離れに住んでいるため、咲かせ屋な花屋だけの運営では養父の貯金があるとは言え、月額の依頼料ではそれに頼りきって生活していくしかない。だからか、ユアの妻であるアールが飲食店を切り盛りをして生活をしていた。
飲食店ではプルプルと震えながら、無料の水を運ぶ手伝いをしているマークの姿をヒヤヒヤしながらも、その頑張る姿のあまりの微笑ましい光景を見たいばかりに、癒しを求めて冒険者達は依頼で疲れた身体を鞭をうって常連になってくれているため、飲食店の収入はそこそこと言ったところである。
「今日も頑張ってますね」
時折、出張帰りにこの店に寄ってくれるユリアの姿を見つけ、マークは背伸びをしてお客さんに水を渡し、埃を立てないように入口へと駆け寄って、にっこりと愛らしく微笑みを浮かべて出迎えた。
「いらっしゃいませー、ユリアさん!」
「ええ。料理と棒術、槍術は上手になりましたか? 相変わらず頑張ってはいるようですけど」
相変わらず家族を見るような優しくて、穏やかな愛しさが滲み出ている視線で見つめながら、マークの心配をするユリア。その視線にこそばゆく感じながらも、包丁を握らせてもらったんだー! と嬉しそうに今の現状を話し出す。
そんな二人の様子を、癒しを求めてやって来た冒険者達はまるで自分の息子のように見守るかのように、優しく穏やかな視線を向けていた。