プロローグ
男は気がついたら赤ん坊だった。
ーーあんな中で生きられるはずもないか。
そう考えながら、寒い外の空気を感じながら再び死を覚悟した。
ーー前世でもあんな死に方をしたと言うのに、僕はまた……。
そう考えた瞬間だった、
「おやおや、こんか寒い中捨てることは無かろうに」
優しく、柔らかな掠れた低音で、たまたま通りがかったお年寄りが赤ん坊である男を腕に包み込むように抱えて、何処かに連れ出すためだろうか、歩き出したのだった。
「神父、また赤子を拾ってきたのですか!」
神父服を着た眼鏡をかける青年神父が、呆れたような声を出しながらそう言えば、
「わしはもう、神父ではない。元神父じゃよ」
お説教の雰囲気を跳ね除けて、面白おかしげにそう答える元神父のお年寄りに青年はため息をついた。
ーー随分と苦労してるんだな、この老人に振り回されて。
初めて会った男でさえもわかってしまうくらいの悲痛な顔をしており、何となく今の状況がどういう感じなのか、想像が出来てしまった。
申し訳ない気持ちを抱きながら、このお年寄りの腕から抜け出してこの教会に出る手段すら今はない男は、青年のその悲痛そうな顔を見て見ぬ振りしか出来ず、ほんの少しだけ胸が痛んだような気がした。
が、それと同時にその悲痛そうな表情は緩み、苦笑ながらも穏やかな表情で青年は、
「……貴方のその優しさで、僕も彼と同様に今を生きていられています。だから、貴方が彼を育てるなら僕は反対はしません。ですが、僕がこう言わないと見境なく人を助けようとするでしょう?」
とても優しい声で言うものだから、男は呆然とした。
青年の抗議は建前上のもので、赤ん坊である男を追い出すつもりだなんて最初からなかったのだ。
「……今日からここが貴方の家です。貴方の名前は、マーク。もう君は僕達の家族です」
男ことマークは、その瞬間から何処か彼らとは違う違和感を抱くようになったのだった。