お礼がしたいの
演奏を体験した僕らは、ファーストフード店へ入り、まだどこか興奮しながらもそっとお互いの言葉を交換し合った。
「本当に君、何者なの? ギターだけをやらせておくにはもったいないよ、ホントに」
音葉さんは何故か責めているような口調でそう言う。
「僕はどっちかっていうと演奏者でいたいから」
「それ、音楽やってる人への冒涜だよ」
彼女は、馬鹿じゃないの、と不機嫌そうにつぶやき、ポテトを口に詰め込んでいく。僕の分まで食べてしまうのはやめて欲しい。
僕は話題をなんとか変え、彼女から色々と話を引き出すことに成功した。なんと彼女は幼い頃に、専門家から歌のレッスンを受けていたらしい。通りで歌が巧い訳だ。
「だけど、本当に心から歌えたのは今日が初めてなの。これもすべて、君のおかげだから」
そう言って彼女は僕をじっと見つめた。僕は視線を外さず、次の言葉を待つ。
「お礼がしたいの。今日、これから一緒に来て」
僕は「え」と間抜けな声を出してしまう。お礼、一緒に来て――この二つの言葉から想像されるものは一つしかなく、僕は赤面してしまう。すると、彼女は眉をひそめて、「変な意味じゃないからね」と釘を刺すように言った。わかってますよ。
「じゃ、行こうか」
そう言って席から立ち上がる彼女に、僕は「もう行くの?」と上擦った声を上げる。
「オープンまでに行かないと駄目じゃない。そうじゃないと、会えなくなるよ。チケットはもう予約してあるから」
え……チケット?




