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ショートショート:とある場所のコンビニにて

掲載日:2026/10/22

「いらっしゃいませー」


 ここはとあるコンビニ。場所としては住宅地ではない、ある意味辺鄙な場所にある。主な客層は観光に訪れた訪問客なので、一般的なコンビニとは勝手が違う。


「やぁ、こんちは。ここが噂のコンビニだね?」


「こんにちは。ゆっくり見ていって下さい」


 入ってきた客はかなり風変わり。でも見た目で扱いも特に変わらないので普段通り接客。多少ぬめ付いていても、多少目の数が多くても、大事なお客様だ。


「何かお探しの物はありますか?」


 こういうのも普段のコンビニ勤務では聞かないことだけども、場所柄コンビニという業態が一般的ではなく物珍しいようだから、こちらとしてもそれに見合った接客になる。インバウンド客相手というのは接客の基本から変わるものだ。


「そうだね、こっちには何度か来てはいるんだけども、だいたい訪れるのは観光客向けの店になるから、たまには地元の人が来るような店に入ってみたくなってね」


 目をぎょろつかせながら客はそう答えた。……なるほど。じゃあお土産品を並べてる棚に案内はしない方がいいか。


「それでしたら中央のお菓子売り場はどうですか?小さなパッケージでお値段も手頃ですし、カラフルで見た目も楽しいですよ」


「なるほどねぇ、そいつは盲点だった。見てみるよ」


 気に入ってもらえるといいけど。


 そこに次の客がやって来たが……騒々しい。


 入店するやいなや、あちこちに得体の知れない液体をまき散らし、ガチャガチャと金属音を鳴らしながら歩いてる。床を見れば何か尖ったもので傷が付いてる。あーあ……


「お客様-、すいませーん」


 挨拶より先にたまらずこちらから声を掛けた。


「やぁやぁ、どうかしましたか?」


 体もあちこちが金属質で、下半身がずんぐり体型だ。というか、バランスは戦車みたい。


「申し訳ないのですが、お客様の履き物に問題があるようでして……」


 その客は自分の体をめくりあげて足元を確認した。なんかキャタピラみたいになってる。床にはスパイクっぽいのが刺さった跡もある。こりゃあ後始末が大変そうだ。


「あやや、ここは地面が弱かったんだねぇ。こいつは失礼」


 お客はそう言うと、メカニカルな音を立ててキャタピラを引っ込め、ゴムっぽい節足を出してきた。


「こいつでどうだい?これなら大丈夫だろう。この足はすり減りやすいからあまり使いたくはないんだけど」


 その場でステップするように歩き出した。今度はポコポコと音がするようになったが、傷が付く様子はない。


「それなら大丈夫です、ご協力ありがとうございます」


「ややや、すまなかったね」


 こちらの常識が通用しない客は結構いる。二足歩行の客もいるにはいるが、たいていはユニークなフォルムの人ばかりだ。見た目だけでなく中には地球の倫理観が全く理解できない方もいらっしゃる。今回は話が分かる方で助かった。床は傷だらけでひどい有様だけども、この店には専門のメンテナンス業者が呼べるのでその点は心配ない。


「それにしてもこの星の物はどれも興味深いね。デザインもしゃれているし、バラエティーも豊か。しかも値段が安い。言うことなしだよ」


「ありがとうございます。この店は可能な限り地球上で販売している商品を取りそろえています。地表に降りなくても行った気になれる場所だと皆さんに好評を頂いております」


 そう。ここは宇宙ステーションにあるコンビニ。僕はあちこちのコンビニチェーンを渡り歩き、世界中の店舗を巡ってきた。その経験を買われて宇宙人相手のコンビニ店員として働いているのだ。地球の文化を知らない客にはカゴを持って買い物棚を回ることすらアクティビティーになる。ステーションの内部までは入星審査も必要ないし検疫もやらなくていい。だから外宇宙から地球に立ち寄っただけの旅行客も気軽に立ち寄れる店舗として人気だった。


 さっきお菓子売り場を案内した客がカゴを満載にしてレジにやって来た。……いや、カゴ三つを満載してやって来た。売り場の商品のかなりの数を入れてきてしまったので、後ろでは商品出しのロボットが寄ってたかって補充に追われている。


「ついつい買い過ぎちゃったよ。どれも美味しそうに見えたもんでね」


 レジの画面に表示が出た。どうやらカゴの中に特定の宇宙人に売ってはいけない成分の物が含まれているようだ。ここの商品は地球標準の品物だから、時々そういうことがある。レジはとても賢くて、客の風貌や特徴、そしてカゴに商品を入れる瞬間にも監視カメラでチェックを入れてレジの画面で教えてくれる。


「申し訳ありませんが、こちらの物はお客様には有害な物質が入っているようです。除外しましょうか?」


「ああ、いいんだ。私が食べるんではなく飼育しているペットに与えるつもりだから」


「そうなんですか?その飼育されている動物に害を与える可能性はありませんか?」


「その点も調べてあるから大丈夫。何か起きても君には責任がないから安心してくれ」


 そこまでいうならこちらに責はない。


「では画面タッチをお願いします」


 画面に購入確認の表示。客はそこにぬめぬめした触手を伸ばす。レジの警告が消えたので僕はバーコードをスキャンして商品を登録。


「お支払い方法をお選び下さい」


 客は端末を操作して決済機器に近づける。軽やかな金属音が流れて支払いが確認できた。手早く僕はレジ袋を広げ商品を収めていく。ここは地球上ではないのでレジ袋は無料だ。ステーションは地球の領域から外れているので消費税とかもかからず免税だ。


 レジ袋四つに全てを入れて、客に手渡した。


「お買い上げありがとうございました」


「ありがとう。とても楽しかったよ」


 表情は分かりにくいけども、多分笑って客は店を出て行った。深々と頭を下げて挨拶する……その動きのまま僕はレジ下のボタンを押した。


 相手は地球で人間を拉致して連れ帰る常習犯らしい。レジの画面には客の素性と詳細が表示されていた。見かけ次第通報とあったので、僕は通報ボタンを操作したのだ。これからどうなるかは分からないけど、恐らくステーションを出る前に拘束されるんだろう。こっちは商品が売れたのでそれでおしまい。あとは警察が何とかするだろう。


 ここはあらゆる宇宙人が訪れるコンビニ。色んな人がやってくる。

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