第7話:招かれざる「春」の訪問者
翌朝、春くんと一緒に登校……なんて勇気はなくて、少し時間をずらして学校に着いた私。
校門の前が、なんだか騒がしい。
「ねえ、櫻葉くん、これ! 読んでほしいんだけど!」
黄色い声を上げているのは、見慣れない制服を着た他校の女子生徒。
モデルみたいに綺麗な子で、手には可愛らしくデコられた封筒を握りしめています。
輪の中心にいる春くんは、いつもの銀縁眼鏡をクイと押し上げ、無表情で彼女を見下ろしていました。
「……僕に何か用ですか? 予鈴まであと5分。立ち話は非常に『非効率』なのですが」
(あ、いつもの鉄仮面モードだ……)
少し安心したのも束の間、その女の子はめげずに一歩踏み出しました。
「知ってるよ! 櫻葉くん、塾のテストの時、眼鏡外してたでしょ? 私、見ちゃったんだから。あの顔、私だけが知ってる特別なんだって思ってたのに……!」
「……っ!?」
春くんの肩がピクリと跳ねました。
私の心臓もドクンと嫌な音を立てます。
(塾でも眼鏡外してたの? 私だけじゃないの……?)
モヤモヤとした感情が胸に広がって、私は思わずその場から逃げ出そうと背を向けました。
――ガシッ。
「……どこ行くんだよ、舞」
不意に腕を掴まれました。
振り返ると、いつの間にか女の子を追い越して私に追いついた春くんが、苦虫を噛み潰したような顔で私を見つめています。
「……っ、離してよ。春くん、人気者なんだね。眼鏡外した顔、あの子にも見せたんでしょ?」
私が震える声で言うと、春くんは大きく溜め息をつきました。
そして、周囲の目も気にせず、ガシッと私の肩を抱き寄せ、耳元で低く呟いたのです。
「……ったくよぉ。お前、まーた勘違いしてんのかよ。……塾で外したのは、顔を洗う時に一瞬だけだ。見られたのは事故なんだよ」
「でも……」
「でもじゃねーよ。……あんな奴に教える名前はねぇ。……俺の『春』って名前を呼んでいいのも、俺がこうして触らせてやるのも、世界中で舞だけだって言ってんだろ、バカ」
春くんは女の子の方を一切見ず、抱き寄せた腕に力を込めました。
眼鏡の奥の瞳が、私だけに分かる合図で、スッと細められます。
「……おい、花咲さん。そんなに嫉妬されると、放課後の補習が激しくなりますよ。覚悟しておいてください」
最後だけ敬語に戻した彼の耳は、真っ赤に染まっていて。
ライバルの出現で気づかされたのは、彼が思う以上に、私はもう「春くん」に独占されていたということでした。




