第6話:夜明けの素顔と、真っ赤な秀才
雨音に包まれた昨夜の熱が嘘のように、窓からは眩しいくらいの朝日が差し込んでいました。
ゆっくりと意識が浮上する中、頬に伝わるのはシーツの感触……ではなく、規則正しい「トクン、トクン」という鼓動の音。
「……んっ」
目を覚ました私の視界に飛び込んできたのは、真っ白なシャツの胸元。
そして、私を折れそうなほど強く抱きしめている、逞しい腕でした。
(えっ……えええ!?)
パニックになりながら視線を上げると、そこには眼鏡を外したまま、無防備に眠る春くんの寝顔がありました。
整った睫毛が影を落とし、少し開いた唇が色っぽい。
昨夜、「帰さない」と言った彼は、本当に一晩中私を離してくれなかったみたいです。
「……ふわぁ。……あ、起きたのか、舞」
春くんがゆっくりと目を開けました。
寝起きの掠れた声が、至近距離で耳を震わせます。
「おはよ……春くん。あの、私……」
「……おはよ。……ったく、お前寝相悪すぎ。俺の腕、痺れてんだけど」
そう言いながらも、彼は腕を解こうとしません。
むしろ、私の首筋に顔を埋めて、深く息を吸い込みました。
「…………っ。……あ」
数秒後。
完全に目が覚めたらしい春くんの動きが、ピタッと止まりました。
「…………待て。俺、何してんだ……?」
彼は弾かれたように起き上がり、ベッドの脇に落ちていた眼鏡を慌てて掴み取りました。
ガシッと眼鏡を装着し、いつもの「櫻葉くん」に戻ったはず……なのに。
「……っ! ……おい、花咲! 何、俺のベッドで寝てんだよ! 効率が悪すぎるだろ、朝から心臓に!」
「春くん、顔、真っ赤だよ?」
眼鏡の奥の瞳は泳ぎまくり、耳どころか首筋まで真っ赤に染まっています。
昨夜のあの余裕たっぷりの態度はどこへやら、今の彼はただの「初々しい男子高校生」でした。
「うるせぇ! ……ったくよぉ……。昨日の俺、何考えてたんだよ……。……記憶、消せ! 今すぐ消せ!」
「無理だよ、あんなにカッコよかったのに」
私がクスッと笑うと、彼は眼鏡のブリッジを何度も押し上げながら、そっぽを向いてボソリと呟きました。
「…………。……カッコよかった、とか言うな。……また、眼鏡外したくなんだろ」
レンズ越しにチラリと私を見た彼の瞳は、やっぱり、あの夜の熱を少しだけ帯びていて。
真面目なガリ勉くんと、素直になれないツンデレ王子。
私の毎日は、これからも彼に振り回されっぱなしになりそうです。




