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第3話:夜の帳と、熱い手のひら

図書室の閉館を知らせるチャイムが遠くで鳴り、私たちは荷物をまとめました。

校門を出ると、街灯がぽつりぽつりと灯り始める時間。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った帰り道、春くんはまだ眼鏡を外したままでした。


「……おい。そんなに離れて歩くなよ。危ねぇだろ」

少し前を歩いていた春くんが立ち止まり、ぶっきらぼうに振り返りました。

眼鏡のない彼の瞳は、夜の闇の中でより一層、鋭く、そして艶っぽく見えます。

「だって……。眼鏡してない春くん、なんだか別人みたいで緊張しちゃって」

私が俯きながら答えると、彼は「ちっ」と小さく舌打ちをして、ガシガシと自分の髪を掻き上げました。

「ったくよぉ……。別人も何も、俺は俺だろ。……ほら、こっち来い」

彼が差し出してきたのは、教科書をめくる時の冷たい指先……ではなく、驚くほど大きな、熱を帯びた手でした。

「……手」

「……見りゃわかんだろ。暗くて足元見えねーんだよ。……繋いでてやるから、離すなよ」

おずおずとその手を握ると、彼は私の指を絡めるように、強く、ギュッと握り締めました。

「あ……」

「……。……柔らかいな、お前の手」

独り言のように呟いた彼の横顔は、街灯の光に照らされて、隠しきれないほど赤くなっていました。

学校での「鉄仮面な櫻葉くん」はもうどこにもいません。

「……春くん、本当は優しいんだね」

「……は? 勘違いすんな。……お前がどっかで転んで怪我でもしたら、明日からの補習の効率が悪くなるだろ」

相変わらずの「効率」という言葉。でも、繋いだ手にはちぎれそうなほどの力がこもっていて。

「……嘘。本当は、こうして歩きたかっただけでしょ?」

少しだけ勇気を出して覗き込むと、彼はパッと顔を背け、歩く速度を少し早めました。

「っ……。……うるせぇバカ! ……ったく、お前は……。……そうだよ。悪いかよ」

繋いだ手から、彼の心臓の鼓動が伝わってくるみたいにドクドクと響いています。

誰もいない夜道。

眼鏡を外した彼と私だけの、甘くて苦しい秘密の時間。

「……明日も、眼鏡外した春くんに会いたいな」

「……調子乗んな。……。……放課後、また図書室来たら……考えてやるよ」

春くんの繋ぐ手が、もっと強く、熱くなった気がしました。

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