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最終話:レンズ越しには言えない「愛してる」

図書室の窓を叩く夜の静寂。

補習という名のお仕置きを終え、火照った頬を夜風にさらしながら、私たちはいつもの帰り道を歩いていました。


街灯の下、春くんは再び眼鏡をかけて「優等生の櫻葉くん」に戻っています。

でも、繋がれた手はさっきまでの熱を覚えたままで、指先が絡まるたびに心臓が跳ねました。

「……春くん、怒ってる?」

歩幅を合わせてくれる彼に尋ねると、彼は眼鏡を指で押し上げ、ふいっと顔を背けました。

「……別に。効率の悪い嫉妬に付き合わされて、疲れただけです」

口調は冷たいのに、握りしめる力は強くなる。

私はわざと立ち止まって、彼の前に回り込みました。

「嘘。本当は、私に嫉妬されて嬉しかったでしょ?」

「……っ、調子乗んな。バカ」

彼は観念したようにため息をつくと、自分から眼鏡を外し、私の首筋に顔を埋めるように抱き寄せました。

レンズのない、剥き出しの「春」が、夜の闇に溶け出します。

「……ったくよぉ。お前、分かってんのか。……俺がこんなに必死になんの、お前だけなんだよ。……勉強より、将来より、お前を誰にも取られないようにすることの方が、今の俺には重要なんだよ」

「春くん……」

「舞。……約束しろ。……俺が眼鏡してても、してなくても、お前の隣は俺専用だ。……浮気したら、マジで一生帰さねーからな」

ぶっきらぼうで、不器用で、でも溢れんばかりの独占欲。

私は彼の背中に手を回し、幸せを噛みしめるように頷きました。

「うん。約束するよ。……私も、春くん以外の隣なんて、もう考えられないから」

「……。……そうかよ。なら、いい」

彼は満足げに口角を上げると、私の額にそっと、誓いの印のような熱いキスを落としました。

「……帰るぞ。明日も、朝から俺のことだけ見てろよ。……いいな?」

眼鏡をかけ直し、またいつもの冷徹な秀才に戻った彼。

けれど、その繋がれた手のひらから伝わる熱は、紛れもない、私の大好きな「春くん」の体温でした。

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