スペース・インヴェイダー
〈とんぼ釣りせずば淋しき蟲取り網 涙次〉
【ⅰ】
*「異星の客」石田玉道が生まれ故郷の星から、「第二の故郷」地球に帰つて來た。カンテラ「先生、お帰りなさい。卓馬くんは、どうしてゐますか?」-「私の星の言葉も覺え、達者に暮らしてゐますよ」-「もう覺えたんですか、早いもんですね」-「私の星は自轉速度が地球の7倍早いんです。それだけ日々が過ぎるのも早い」-「なる程」-カンテラ、枝垂哲平から預かつたPOMを石田に見せた。「枝垂の飼ふ鸚鵡が産んだ卵から、こんな雛が-」-「第三の眼、ですか。所謂『先祖帰り』ですね。爬虫類の或る種には、視覺、聴覺、嗅覺、味覺、触覺に次ぐ、第六の感覺を司つたと覺しき感覺器の痕跡を持つものがある。これはそのやうな物でせう」-カンテラ、夜の會食を約して、診療所を出た。
* 当該シリーズ第116話參照。
【ⅱ】
石田の診療所の次に、カンテラ、知り合ひの落語家・三笑亭夢太夫の許に、POMを連れて行つた。無駄な事を云ふ、ので夢太夫・笑。カンテラはPOMを、笑ひの修業させる為、彼に入門させやうと云ふ積もりであつた。初めは喫驚してゐた夢太夫だが、次第に見慣れたのか、謎掛けの試驗でPOMをテスト。POM(松尾芭蕉と掛けて、若かりし頃の高市自民党総裁と解く)-夢太夫「ほお。して、その心は」-(バイク -俳句- が宜しいやうで)。夢太夫、思はずぷつと吹き出した。稚拙であつたが、笑ひの才能を感じた。夢太夫「よござんす。うちで預かりませう、このコ」-夢太夫、假に三笑亭POMの助と名付け、住み込みで笑ひの基礎を叩き込む、と云ふ。
【ⅲ】
夜、懇意にしてゐる壽司屋に、カンテラは石田を招いた。じろさん同席である。カンテラは石田にビィルを勧めた(石田の星には、アルコール飲料と云ふものがなかつた。石田はビィルの爽快さに、一口飲んで惹かれた)。石田曰く、*「x星人の件は、連中がH₂Oを怖がる事が分かつたので、ほゞ解決したも同然でせう。テオさんが爆藥でふつ飛ばしてくれたし。それよりも、貴方がたが死闘した『ゲーマー』が氣になる」-じろさん「何せ**『本體』がスペースインベーダーゲームですからね。先生には氣に障るでせう」-「さうなんですよ。地球侵略は、例へゲームでも許せませんな。私が例のダイアモンドを差し上げますから、彼を斬つてはくれませんか」-カンテラ「いゝでせう。約束致します」
* 当該シリーズ第96話參照。
** 当該シリーズ第107話參照。
※※※※
〈垢じみたT着て去年思ひ出す11月までこれを着た事 平手みき〉
【ⅳ】
『ゲーマー』退治には、テオに秘策があると云ふ。それは兎も角、奴の魔界の執務室迄、カンテラ・じろさん・テオの三者でやつて來た。
テオの秘策、とは、冗談みたいなものであつた。50圓玉の穴に紐を通して結び、それで奴を誘き寄せ、本性を暴き、斃さう、と云ふ譯。因みに魔界の金庫には、扎束は入つてゐたが、小錢の類ひは全く入つてゐない。「本體」がインベーダーゲームである「ゲーマー」は、久方振りにコインを呑み込みたくつて、焦るだらう、との讀みである。
【ⅴ】
執務室から奴が出て來たところが狙ひ目である。じろさんが50圓玉の紐をゆつくりと引つ張る。それに「ゲーマー」が気付いた。邊りを憚りつゝ(何せこんな醜態は、部下には見られたくない)、奴は次第に逃げて行く50圓玉を追つた。すると、待ち受けてゐたのはカンテラ。「思はぬところで本性を現したな、『ゲーマー』よ」-「貴様、俺に恥を搔かせやうと-」-「恥だと思ふなら、インベーダーゲームと云ふ本性を棄てる事だ。ま、時既に遅し、だがね」-「しええええええいつ!!」カンテラ袈裟掛けに、斬つた。「ゲーマー」は次第に1台の古ぼけたインベーダーゲームと化しつゝ、息絶えた...
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〈やんま來て我が柔らかき箇處に触れ 涙次〉
【ⅵ】
これで散々カンテラ一味を悩ませた「ゲーマー」ともお別れだ。何やら呆氣ない氣もカンテラたちにはしたが- 石田は、彼の星では小錢ほどの価値もない、ダイアモンドを山ほどカンテラ一味に進呈した。魔界のスペース・インヴェイダー、死す。お仕舞ひ。




