16 差し入れ
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
コツン。
アリアドネが敷物の上で丸まって眠っていると上から何か落ちて来た。
辺りはまだ暗闇で、夜明けもまだ遠そうだ。
彼女が身を起こそうとすると・・・。
コツン、コツン。
また同じような音がした。
(硬いものが落ちて来た?)
アリアドネは床の上を手で探る。
「わっ!」
紙の塊のようなものに指先が触れて、思わず声を出してしまった。
得体の知れない塊を摘まんで、僅かな月明りを求め、鉄格子の窓へかざす。
「これは・・・、キャンディ?」
彼女が拾ったものは、蝋引きの紙で包まれたキャンディだった。
(どうしてこんな物が?)
アリアドネは首を傾げる。
この牢と外を繋いでいるのは廊下側の入口と鉄格子しかない。
彼女は少し考えてから、椅子を壁際に寄せて、その上に立った。
背伸びをすれば、鉄格子の外を覗くことが出来ると気づいたのである。
(多分、ここから落としたのだと思うのだけど・・・)
アリアドネは両手で鉄格子をつかみ、椅子の上でつま先立ちをして、外を覗き込む。
鉄格子の外は地面で雑草が生えていた。
(あ、そういえばこの牢は地下あるのだったわ)
「誰かいますか?」
小さな声で囁く。
「・・・・・」
風の音もなく、辺りはシーンとしてしている。
(もう、逃げちゃったのかも・・・)
―――アリアドネが諦めかけたその時、微かにザッと草を踏むような音がした。
(あ、やっぱり誰かいるわ!)
「どなたかいらっしゃるのなら、お返事をして下さいませんか?」
今度は少し大きめの声で聞いてみる。
「ダメだ! そんなに大きな声を出しては・・・」
聞こえて来た囁き声は、聞き覚えのある声だった。
「ラ、ライナス殿下?」
「―――いや、違う。私は皇子の使いだ」
(え、でも、声が・・・)
アリアドネは違和感を持ちながらも相手の話に耳を傾ける。
「皇子は君が突然部屋から居なくなって混乱している。何があったんだ?」
(もしかして、ライナス殿下は皇宮捜査官が私を連行したという報告を受けていないのかしら)
「あのう、使いの方、実は・・・」
アリアドネは夕食後に捜査官が自分をここへ入れたという話をした。
そして、その引き金がアリアドネの書いた手紙だったということも・・・。
「―――そうだったのか。皇宮捜査官主任、ジャスパー・カナディが君をここへ入れたのだな」
「はい、そうです」
「分かった。今聞いた話は皇子へ伝えておく。それから、皇子は必ず君を助けに来る。辛いだろうが、しばらく耐えてくれ」
「大丈夫です。実家と変わりない環境なので、ご心配には・・・」
何気なく口にした言葉だったが、貴族令嬢としてあるまじき発言だったと途中で気付いてしまう。
「あっ、おかしなことを言ってごめんなさい。ライナス殿下にくれぐれもご無理はなさらないで下さいとお伝え下さい」
「---承知した。先程、落とした飴は皇子のお気に入りの店のものだ。甘くておいしいから食べて元気を出して欲しい」
「はい、ありがとうございます」
(使いの方も、ライナス殿下のようにお優しい方なのね)
アリアドネは声の主を見たくなってしまう。
鉄格子をしっかりと手で掴んで、椅子の上で飛び跳ねてみた。
「!?」
一瞬だけ見えたシルエットは明らかに人ではなく・・・。
(狼! 狼だわ!!)
「もしかして、あなたは一昨日の銀狼さんですか?」
「――――」
ライナスはアリアドネに姿を確認されてしまい、何と答えたら良いのか戸惑う。
「一昨日は驚いてすみませんでした。あなたはライナス殿下のお仲間なのでしょう? 大丈夫です。もう怖くありません!」
アリアドネは椅子の上でピョン、ピョンと跳ねながら外へ話し掛ける。
ライナスは何と答えるべきか考えながら、恐る恐る鉄格子へ近づく。
トン、トン、トンと何度も聞こえてくる音の正体も気になっていたからだ。
「なっ、アリア!? 落ちてしまったら大変だ!! 止めなさい!」
ライナスはつい叫んでしまった。
アリアドネが鉄格子を両手で掴んで椅子の上で跳ねているのを見てしまったからである。
「あ、はい」
アリアドネは素直に注意を受け入れて、椅子の上で飛ぶのを止めた。
「私のことがもう怖くないというのか?」
「はい、もう大丈夫です!」
ライナスは鉄格子へ顔を近づける。アリアドネは手を伸ばして、彼の顎を指先で撫でた。
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