表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

酔っている間に付き合っていた顔がタイプの後輩で伯爵家次男に絆されています

作者: 石竹つつじ



「「あ」」


休憩終わりに乗っていた魔法籠が開いて恋人のアトラスとパチリ目が合った。


そのまま目を逸らして、彼の奥の同僚たちに声をかける。


「お疲れ様です」


にっこり微笑む。


三つ下のアトラスは彼が三年目で同じ課になった。

話しかけてもなぜか冷たくされて、セクハラだと思われてるのか?と思っていたが、


夏の灯火送りの打ち上げで隣になったタイミングで、何故か告白されて付き合うことになった。


アトラスが操作レバーと私の間にするりと入った。


手を後ろで組んで指をゆらゆらしている。


ーー触れたいなあ


「秘密の恋人」ってやつなら課内恋愛の醍醐味でこっそり手を繋ぐくらいありそうなものだけど。


告白してきたのが嘘みたいに、いつも淡々としている。


ーーバレたいわけじゃないけどさあ


何を考えているかわからない。


ーー最近の子は恋愛に興味ないって言うしなあ


ーーつむじ二つあるんだ、やっぱり背高いなぁ、


異動してきたばかり頃は、馴染めるようにしたくてたくさん話しかけたけど、


あまりにもつれないから、すっかり話しかけなくなってしまった。


付き合ってからもそれは変わらない。


ーー別にいじけてるわけじゃないけど、なんだかな、目が合って微笑みかけるとかそういうの位はさあ


ぼんやりと考えていると自分たちのフロアに着いた。

女の子たちがきゃっきゃと話しながらおりていく。


私も続けておりようとすると


急に振り向いて


「…なんか怒ってる?」


「……別に」


と言ってる間にレバーを操作され柵が閉まる。


「あっ」


そのまま下がる操作をしてしまった。

魔法籠が下がり出す。


恨めしげに見つめるとふっと笑って


「じゃあ後ろ向いてるから話してよ」


先程と同じ位置に収まった。


また後ろで手を組んでいる。


さっき触れたなかった手を指先でつつきながら呟く。


「…いつも目は合わないし」


「うん」


「いつも女の子といるし…」


「そうかな?」


「なんか…」


「ん?」


「…さみしいなって」


急に恥ずかしくなって


「やっぱり気のせいかも!」


と口にすると同時に手遊びしてた指が捕まった。


「今日一緒に帰ろ」


とびきり楽しそうな顔と目が合った。






「恋人なので」


そう言ってアトラスは繋いだままの私の手の甲にキスをした。


-----------------------------------------------


酔っ払っていた間に付き合っていたアトラスとはまだ上手く距離感が掴めずにいる。


灯火送りの翌日、アトラスからのメモを見つけて前日のことを思い出した。どうやら酔っ払って付き合うことになってしまったらしい。


それこそセクハラなんじゃないかと、そのまた翌日踊り場に呼び出して確認しようとしたが


手を取られ指を絡められ


「恋人なので」


と言われてしまった。


恋人なのでと言われて仕舞えば確かにそうか、と妙に納得してしまって「どこが好きだ」とかそういう話を全くしないまま今に至ってしまっている。


過去の婚約者は「僕のことが好きかわからない」と言って私に別れを告げた。


ちゃんと好きなのに!

と思ったけれど、縋ることもできずに結婚しない方が良い人間なのだと自分を納得させた。


自分で思っているよりあまり「好き」が表に出ないらしい。殊更好きな人の前では。



「恋はしない」つもりだったのに、恋人ができてしまった。


しかもデートに適度に誘ってくれる今の感じが心地良い。


手を繋ぐのも抱き締められるのも「恋人なので」といわれて仕舞えば納得してしまっている。


肝心なアトラスのことは付き合っていても、あまり知らない。


聴き上手で、気づいたら私ばかり話している。

あまり自分のことを話してくれない。


ーーもっと何が好きだとか、何が嬉しいとか知りたいのに


繁忙期を抜け久しぶりのデートで小道を歩いていると


犬とすれ違った。


アトラスは、はた、と足を止めてチラチラと後ろを振り返っている。


「犬、好きなの?」


「ええ、まあ実家にいて」

照れくさそうな顔で俯く。


「…今度デートする?」


ビクリと肩を揺らした彼にそのまま抱きしめられた。


慣れはじめてしまったアトラスの腕の中で続ける。

「叔母さんの家にたくさん犬がいてね」


「…いいの?」

アトラスが小さな声で呟く。


「恋人なので」

と少し得意げに口にしてみる。


ギュッと抱きしめる力が強くなった。


こんなに喜んでくれるならもっと口にするようにしようと思った。






先輩のイリスは働き始めて三年目に異動してきた。


慣れない仕事をそつなくこなす、ではなくいっぱいいっぱいになってるのが可愛かったなんて言ったら怒られそうだけど、とにかく一目惚れだった。


話しかけられると気恥ずかしくて、自分のことを話すのも苦手だし上手く答えられなかった。しばらくすると懐かれててたって言ったら変だけど、親しみを持って話しかけてくれていた彼女は急にそっけなくなった。


周りの人には変わらないし、他の男性局員には普通なので、男嫌いとかでもないらしい。


となると原因は


「…俺か」


確かに愛想はなかった。返事もそっけなかったし嫌われてると思われても仕方ないかもしれない。


かといって仕事の接点はほとんどないし、今更近づく術はない。


転機が訪れたのは灯火送りの打ち上げだった。


二次会参加者の中に彼女を見つけ、カウンターで一人になったところで横の席に滑り込む。


「ディオダートくん」


少し緊張した面持ちで名前を呼ばれる。


「お隣、いいですか」


いつも話しかけてくれていたことを、今度はこちらから聞いてみる。


最初は警戒していたようだったが、元々話好きは酒が進むと饒舌になった。


「…かお」


酔っ払いがふわふわと喋る。


「なんですか」


頬に触れられた手を上から掴む。


お、振り払われない、嫌じゃないのか


ニコニコと撫でている。


「なんすか」


「…かっこいいなあって」


キャーッと言って顔を隠している。


俺は俳優かなんかか。避けられていた理由は不明だが顔は好きらしい。


「じゃあ付き合いますか」


「え〜いいの〜?」


酔っ払いがヘラヘラ笑う。ダメ押しで頬杖をついている手を握ってみる。


「うん、付き合お」


彼女は頭に?を浮かべながら、コクリと頷いた。


顔と押しにも弱いらしい。あと酒も。


「チョロいなこの人」と心配になったが


「あとどいつの顔が好きなんすか」


と続ける。挙げられた名前は全員顔の系統が似ていてヒヤッとする。


そのままぶつぶつ言いながらカウンターに突っ伏して眠ってしまった。


「珍しい組み合わせだね」


声をかけられて振り向くと他機関のルーカスがいた。


さっきのリストに上がらなかったがきっとドストライクで好きで、恐らくイリスの好きだった男。学院の先輩で最年少で局長になりそうな。できる男。


「何してんの」

ルーカスが続ける。


「さっき付き合いました」


「え〜酔っ払った子たぶらかしちゃだめだよ〜」


「いいんです、俺の顔が好きらしいんで」


「そう」


「ちゃんと送りなよ」


そういって先輩の頭を撫でようとして、少し迷って俺の頭を撫でた。


別に魔力で浮かせることもできたけど、なんとなくおぶって寮まで帰った。


まだ寝ぼけているイリスの手にメモを握らせる。ちゃんと忘れないように、酔っ払っていたからと誤魔化されないように。


-------------------

おつかれさまです。

付き合ってくれてうれしいです。

今日から恋人として

よろしくお願いします。


アトラス


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ