〈 7 〉
瑠璃色のカーテンが音もなくゆっくりと開いた。
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「おーい、みんな集まって。」
森の中の小さな広場で、クマさんが大きな声をあげた。クマさんの声は太くてよく通る。
「ウッキ、ウッキ。」
踊るような足取りで、サルくんがやってくる。その後をリスちゃんも一生懸命走って来る。
頭の上で太陽がキラキラと輝いている。
「パンダちゃんも早く早く。」
そう言ってクマさんが呼んでいるのは、自分だと気付く。首を捻って自分の身体を見る。ふさふさした茶色の毛に覆われた身体。しましまの尻尾。お腹まわりは黒い毛だ。パンダはパンダでもレッサーパンダなのだ。
クマさんの声に応えて走り出す。4本の足を動かして早く走るのはなかなか難しい。
「ウッキー、ヒョウくんが見当たらないよ。どうしたんだろ。」
サルくんがまわりを見回して言う。リスちゃんが茂みの方を指指した。
「ヒョウくんたら、またあんなところに隠れてる。」
「見つかっちゃった。」
ガサガサと茂みをかき分けて、ヒョウくんがあらわれた。
「みんな集まったね。何して遊ぼう。」
クマさんがみんなの顔をぐるりと見回す。
「かくれんぼしよう。」
ヒョウくんが元気よく言う。リスちゃんは顔をしかめて、
「いやよ。ヒョウくんか勝つに決まってるもん。」
「ウッキー、じゃあシーソーやろう。」
サルくんが広場のすみっこを指さす。丸太を組み合わせたシーソーがあった。
「いいね、やろうやろう。」
みんながシーソーのまわりに集まった。
「じゃあぼくがこっちの端に乗るから、リスちゃんはあっちの端に乗って。」
クマさんとリスちゃんがそれぞれシーソーの端に腰を下ろす。
シーソーは動かない。
「全然動かないわ。」
「じゃあぼくも乗ってみるよ。」
ヒョウくんリスちゃんの側に乗った。それでもシーソーは動かない。リスちゃんが頬をふくらませた。
「だめよ。クマさんが重すぎるのよ。これじゃ、つまんない。」
「ウッキー、こうすればいいよ。」
サルくんがクマさんをシーソーの前の方に移動させた。シーソーがゆっくり動いて、左右でつりあうような形になった。
「すごい、サルくん頭いいね。」
ヒョウくんが感心して言う。
「あっ、何かやってくる。」
突然、リスちゃんが声を上げた。
森の中からすべるように近づいてくるものがある。草をかき分けるシャーッという音が大きくなる。
「ヘビだっ、こっちへ来るウッキー。」
サルくんも大声を上げた。
「大変だ。毒ヘビかもしれない。逃げろ!」
クマさんが言って、シーソーから降りて逃げだした。ヒョウくんとリスちゃんも飛び降りて走る。サルくんがその後を追う。
「パンダちゃんも早く。」
振り返ってリスちゃんが叫ぶ。
「待ってよ。」
草が足に絡まって上手く走れない。みんなが逃げるのについていけない。
シャーッという音に振り向くと、大きなヘビが頭をもたげて、すぐ後ろに迫っている。その口からチロチロと赤い舌が出入りしていた。
思わず悲鳴をあげて尻もちをつく。ヘビが顔を近づけてくる。
「あらっ。」
こちらに向けたヘビの目が、意外に優しいことに気がついた。その目に少し悲しそうな色が浮かんでいる。
「どうしたの。ヘビさん。」
おそるおそる声をかける。
「そうやって、いつもみんなはぼくを怖がるんだ。ぼくはみんなと遊びたいだけなのに。」
ヘビさんの目から涙が落ちる。
「そうだったの。ごめんなさい。」
身を起こして、ヘビさんに手をさしのべる。
「みんな戻って来て。ヘビさんはみんなと遊びに来たのよ。仲間に入れてあげようよ。」
「なあんだ、そうだったのか。」
クマさんが戻ってくる。サルくんとリスちゃんもスキップするように跳ねながらやってくる。茂みに隠れていたヒョウくんもしなやかな足取りで近づいてきた。
「逃げたりしてごめんね。ヘビさん。さあみんなで踊ろう、輪になって。」
クマさんがみんなに声をかける。ヘビさんはうれしそうに輪の中に入った。みんなは手を繋いで歌いだした。
太陽の光は柔らかくみんなを包みこんでいる。
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瑠璃色のカーテンが揺らめきながら静かに閉じた。