おつかい
とある動物の町にお兄ちゃんキツネと弟キツネの兄弟がお父さんキツネとお母さんキツネと仲良く暮らしていました。
ある日、お母さんキツネが言いました。
「裏山のおじいさんの所におつかいに行ってちょうだい」
『裏山のおじいさん』は動物の町の住人に頼られているちょっと変わったおじいさんです。無口でちょっと偏屈なとこがありますが、キツネの兄弟は裏山のおじいさんが大好きです。
「わ~い! おじいさんと遊んでいい?」
弟キツネは裏山のおじいさんと会えるのを飛び跳ねて喜びました。
「おつかいって何かお薬が無くなったの?」
しっかり者のお兄ちゃんキツネはお母さんキツネにおつかいの内容を聞いていますが、お兄ちゃんキツネも裏山のおじいさんの家に行けるのが嬉しいのか尻尾をブンブンと振っています。
そして二匹にコートや毛糸の帽子やマフラーを身に着けました。モコモコのお洋服を身に纏った二匹はまるで雪だるまの様にまん丸です。
「お母さん動きにくいよー!」
「裏山は今は雪で真っ白になっているからこれ位が丁度良いのよ」
嫌がる弟キツネにお母さんキツネはそう宥めました。おつかいのメモ、おつかいの代金と裏山までの行き帰りのバスのお金が入った財布をお兄ちゃんキツネが背負っていたカバンに入れると二匹を送りました。
「おじいさんは最近までお仕事で忙しかったから迷惑をかけちゃダメよ。暗くなる前に帰ってきてね」
「「いってきまーす」」
手を振るお母さんキツネに兄弟キツネ達は手を振り返して裏山のおじいさんの元へ向かいました。
裏山まではミツバチ型のバスに乗って行きます。バスの運転手のクマの運転手さんが予定ピッタリにバス亭に停めていました。
「おやおや、裏山のおじいさんの元へ遊びに行くのかい?」
「お母さんからおつかいを頼まれたの」
「そうかい、そうかい。裏山の道は滑りやすいから気を付けて歩くんだよ。それから手かかんじかむからカイロをあげよう」
「運転手さんありがとうございます!」
バスに揺られながら裏山のバス亭で降り、裏山までの道を二匹手を繋いで歩きました。クマの運転手さんが言った通りに道は滑りやすく、手が凍りそうな位冷えていました。時々カイロで手を温めながら滑らない様に慎重に歩くと、裏山のおじいさんのお家が見えました。
そこは一面真っ白な銀世界が広がっていました。此処に来るまでも雪が積もっていましたが、此処までの道中も雪が積もっていましたが、此処まで真っ白ではありませんでした。
興奮のあまり弟キツネは雪に飛び込もうとしましたが、今日はお母さんキツネからおつかいを頼まれたのです。お兄ちゃんキツネが弟キツネのフードの部分を捕まえて止めました。そうじゃなければお兄ちゃんキツネだってこの冷たい絨毯に飛び込みたいのです。
「にぃちゃん止めないでよっ!」
「ダメダメ! 今日はお母さんのおつかいなんだから遊ばないんだからね!」
ちょっと二匹がケンカしそうになった時です。
赤い物体が兄弟キツネ達の目の前で飛び落ちて来たのです。
二匹がケンカを忘れてポカンとしました。よくよく見るとその赤い物体は赤色の帽子に赤色の毛糸の洋服を着ていました。
「「おひげのおじいちゃん!」」
おひげのおじいちゃんは裏山のおじいさんとお仕事仲間で、あわてんぼうで良く裏山のおじいさんに怒られています。
「フォッホッホッ。おやおやキツネの兄弟じゃないか」
雪の中から顔を上げたおひげのおじいちゃんは冷たい雪に顔を突っ込んだせいで何時もより顔を真っ赤になっていましたが相変わらずお顔の殆どを覆う真っ白なおひげとメガネの奥の優しい眼差しは何時もと変わりありません。
「おひげのおじいちゃんまだお仕事の日と間違えてあわてんぼうしちゃったの?」
「いやいや。こんな真っ白な雪に飛び込みたくなって飛び込んだだけなんだよ」
「大人なのに?」
「大人だからこそ童心に帰って子供の様に遊びたい時もあるもんだよ」
フォッホッホッと相変わらず独特な笑い方をするおひげのおじいちゃん。遠い国からやって来るおひげのおじいちゃんは動物の町では見た事のない姿をしていますが、ユーモアと遠い国のお話をしてくれるので二匹はおひげのおじいちゃんが大好きです。
「大人なら、毎年の様にクリスマス前にやって来ないし、煙突に落っこちて顔を煤だらけにしないし、忘れ物しない」
キツネの兄弟達の頭の上から声が聞こえました。
顔を上げるとそこには腕を組んだ裏山のおじいさんが立っていました。大きなツノと仏頂面は相変わらずですが、眉間の皺が何時もよりも多めです。
「どうせ少し高めの位置から降りようとして失敗しただけだろう。子供の前だからって変にカッコつけるな」
「フォッホッホッ相変わらずワシにだけ厳しいのぅ……」
腰が抜けたおひげのおじいちゃんをソリに乗せ、ついでにキツネの兄弟も乗せてあげて裏山のおじいさんは楽々と兄弟とおじいちゃんを乗せたソリを引いて自宅まで運びました。
「さぁ、お母さんからの頼まれものはこの紙袋に入れたから早く帰りなさい」
「ありがとう、トナカイのおじいさん!」
「おひげおじいちゃんはあわてんぼうを治してねー!」
「フォッホッホッ。頑張ってみるよ」
バス停までてくれた裏山のおじいさん達と別れてバスに乗ったキツネの兄弟。クマの運転手さんはちゃんと帰って来たキツネの兄弟達の顔を見てニッコリと笑いました。
「おかえり。ちゃんとおつかい出来たんだね」
「うんっ! だってもう直ぐ『妖精さんの贈り物の日』があるでしょ? だから良い子にしてプレゼントが貰える様にしているんだぁ」
「そうかいそうかい。所で二匹は何を頼んだのかい?」
「僕は欲しかったゲームのカセットと新しいサッカーボール!」
「僕は一杯あったけど、妖精さんが困らない様にカッコイイ運動靴に新しいオモチャを選んだの!」
「うんうん。ちゃんとプレゼント貰えたら良いね」
「「うん‼︎」」
元気良く返事をするキツネの兄弟にルームミラー越しに盗み見たクマの運転手さんはその姿に思わず微笑んでしまいました。
ーーー妖精さんの贈り物の日、当日。
「子供達はちゃんと眠った?」
「ええっ。興奮して眠れないんじゃないかと心配したけど、読み聞かせをしたら直ぐに眠ったわ」
「懐かしいなぁ。俺もあんな感じだったよ。それにしてもこの動物の町だけじゃなくて他の町も周るんだろ? 大変じゃないのか?」
「何でも送り届ける『妖精さん』はあのおじいちゃんだけじゃなくて沢山いるんだって。この町周辺を担当するのはあのおじいちゃんだってトナカイさんが言っていたわ」
「そうなんだ。……あのあわてんぼうをするおじいちゃんが沢山いたら運ぶトナカイさん達も大変だろうに」
「あのおじいちゃんが『特別あわてんぼう』なだけですって。呆れてはいるけど絶対にパートナーを辞めないのがトナカイさんの良い所よね」
「そうだね。俺もそう思うよ」
キツネのお父さんとお母さんが和やかに話していると、子供部屋から何やら物音がしました。
二匹がそぅと子供部屋の扉を開くと、ぐっすりと眠っている子供達の枕元にはプレゼントが。
夫婦は互いの顔を見合わせるとふふっと笑ってしまいました。
動物の町の星空に紛れてリンリンと鈴を鳴らしてソリを引く力持ちのトナカイと荷物を乗せて次にプレゼントを届け先を伝える赤い服を着た立派なおひげのした妖精さんが空を飛んでいたました。
そして翌朝。欲しかったプレゼントを貰えたキツネの兄弟と他の動物のお友達達は、裏山のおじいさんと遊びに来ていたおひげのおじいちゃんに報告しました。子供達の嬉しい気持ちが伝わったのか裏山のおじいさんは珍しく口元が緩み、おひげのおじいちゃんは何時もよりも満面の笑みで笑っていましたとさ。




