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13-4


2人は、”レイト”の指定する場所を目指して歩いた。


結局明人は、イズミとレイトが会えるまではイズミの側にいたいと懇願し、現在イズミの歩調に合わせて歩いている。

妙な緊張感が生まれたせいか、2人の弾むような会話は封印された。


レイトに言われるがまま会場いち賑やかなブース通りまで来ると、再びイズミのスマホが振動した。

イズミが明人の方へスマホを傾ける動作をしたため、躊躇なく覗き込む。


[ここは人が多すぎて、僕の業務に支障が出るかもしれない。会場から出て南の住宅街の中にある『鈴ノ鳥公園』まで来て欲しい]

2人はレイトが次に指定する、”鈴ノ鳥公園”を目指した。


住宅街に入り、鈴ノ鳥公園まで残り数100メートルの場所で、再びイズミのスマホが鳴った。


[僕の業務のターゲットに、僕が追跡していることを気付かれたかもしれない。このままでは君にも被害が及ぶ可能性がある。君の身の安全のために、会うのは明日以降にしよう。今日は、君からお金だけ頂こうと思う。鈴ノ鳥公園の水飲み場付近にある大木の下に、袋に入れたお金を置いて欲しい。本当なら、君に今すぐにでも会って抱きしめたいが、今回の業務が片付くまでは我慢することにしよう]


明人は呆れて言葉も出ない。その代わり、両腕に鳥肌全開だった。

イズミは黙ったまま[わかった]とメッセージを送信した。


明人とイズミは目的地の鈴ノ鳥公園に辿り着いた。

人気のない住宅街に囲まれた、存在の薄い公園のようだ。

鈴ノ鳥公園に遊具はなく、砂遊び場とベンチ、水飲み場くらいしか見当たらない。

かくれんぼすら成立しなさそうな、殺伐とした雰囲気を持つ公園だ。

辛うじて公園であることを象徴するかのような大木の前まで歩いて行くと、イズミは大木の根元と根元の間に紙袋を置いた。


明人はイズミに目を覚ますよう、説得を試みようと思った。

しかし、これまでのイズミのレイトについて語る様子から、レイトを否定する説得がイズミに侮辱を与え、同行を拒否されそうで恐かった。

何より、その”侮辱”のせいでイズミの心を傷付けるのが恐かったのだ。

明人は無力のまま、イズミが大木へお金を置く様子を遠くから見守ることしか出来なかった。

そして大木が死角となるこの位置へたどり着いたイズミに対し、穏やかな笑顔を繕って頷くことしか出来なかった。


大木付近を見るために何度か壁際から顔を覗かせていると、フードを被った男が公園へと近づいて来た。

フードを被っているせいで顔を窺うことができないが、体格と身長から、明らかに”レイト”ではない。

フードの男は大木まで歩き腰を屈めると、次の瞬間、紙袋を持って走り出した。

「待って!!!」

イズミは反射的に男を追い始め、明人もイズミの後を追った。


イズミの足が止まると、2人は人の気配を感じない無機質な住宅街を認識した。


イズミは無言で、消えた影を手探りで探すしかなかった。

イズミの頬に、涙がつたう。


「イズミさん・・・大丈夫だから」

後ろを振り返ると、まだ息が整わない明人が真剣な眼差しでこちらを見ている。

気休めにもならない言葉だが、イズミは今日これまで明人と過ごした瞬間を思い出すと涙が溢れた。

「なんか・・・本当にごめんね。駄目ね、私ったら」

イズミは虚しさを堪え、今度は今日1日の感謝を伝えるため、必死で笑顔を作った。


明人は自身のスマホに届いた[了解]のメッセージを一瞥すると、イズミに負けじと必死に笑顔を作ってみせた。




――――――





廃屋の簡易アジトに戻ったジュンペイはフードを取ると、ニカっと笑った。


「おいジュンペイ、相変わらずイカしたスキッパだな」

「はっ、もうオレのこと、スキッパって言わせませんよ先輩。オレ、今また手柄取ったんすよ。だから今回の報酬で、歯の矯正やるって決めたんすよ。あと肉体改造もやるっす。本物の”レイト君”みたいにムッキムキのイケメンになってやりますから、今に見ててください」

「ジュンペイさん、全身整形してもレイトにはなれないっすよ!」

「おいお前、言いたいことばっか言いやがって!」

お調子者のジュンペイが凱旋帰宅したことで、メンバーは笑いが止まらなかった。


「今回の女からは500万しか取れなかったけど、次は絶対1000万取るっす。レイト君の画像なら、今後1億円も余裕っす」

「またレイトの画像使うんすか。ジュンペイさん、全部レイト頼みじゃないっすか」

「お前らもオレに学べ。レイト君みたいなすっげーイケメンなら、ホイホイ女が釣れるぞ」

有頂天なジュンペイに、メンバーから総つっこみが入れられ、ますますアジトが浮かれてきたところで新人のリュウタロウが隣に座るリキに話し掛けた。


「リキさん、レイトって何者すか?」

「レイトは、ジュンペイさんが裏アカで拾ってきたイケメンの画像のあだ名だよ。この画像使い始めてからジュンペイさん稼げるようになったらしいぞ。そういや、そのレイトがどことなくお前に似てる気がするんだが・・・。リュウ、お前は自分自身の画像と動画をうまく使って稼げるんじゃないか?」

「いやいや、変な冗談はやめてください。さすがに組織の一員の顔バレはまずいっすよ。下手したらメンバー全員に迷惑かけることになるっす」

「おっと、そうだな」

リキが大声で笑った。


「おいリュウ、お前たしか、1か月前に俺らの組織に入ったばかりだよな?お前はこの1か月でどれだけ稼げた?明後日には本拠地に戻るが、帰ったらすぐに本拠地で報告式があるからそれに備えておけ。お前、本拠地について何も知らねえだろうから、俺が今から詳しく教えてやるよ。その前にこれ、ジュンペイさんに持って行け」

「っす」


リキから白い粉の袋を受け取ると、リュウタロウは通路奥の部屋をノックした。

中に入りジュンペイに袋を渡すと、リュウタロウは一礼して去ろうとした。

「おい待て、リュウ。その机にある袋、こっちに持って来い」

ベッドに腰を掛け、水たばこで完全リラックスモードのジュンペイが、机の上の今回の収穫物に指さした。


ジュンペイの手元に置くと、今度は紙袋を破り開け、中を確認するようリュウタロウに指示を出した。

「ジュンペイさん、これ・・・」


ジュンペイの目が血走る。札束を数枚めくり、さらに真ん中辺りをめくって見せると、その全てが紙切れだった。

「あのくそアマァっ!!」


居ても立っても居られなくなったジュンペイは、興奮状態で着の身着のままアジトを飛び出した。

すると、入口付近の茂みに隠れていた男女を発見した。

ここは人気のない雑木林を進んだ奥にある廃屋のため、人に出くわす予想をしていなかったジュンペイは一瞬怯んだ。


「何だぁ?お前ら。隠れてないで出て来いよ!!」

勝気な表情で、女が茂みから姿を現した。


「その恰好・・・あなたね、私を騙したのは。私の紙袋、返してよ!!」

予想外の展開で震えと緊張で興奮したままのイズミが、ジュンペイを睨む。もはや今のイズミは、窮鼠猫を嚙む姿勢だ。


「は?お前がやりとりしてた女か?何でこんな奥まったとこにある廃屋の存在に気付いたんだよ?まぁ、ちょうどいい、手間が省けた。おいお前、俺を騙しただろ?小細工しやがって。そこの、へなっちょろな男と一緒に死ねや」


ジュンペイが大きな声でリュウタロウを呼ぶと、腰に掛けていたナイフを取り出し、2人に向けるとニンマリ微笑んだ。

微笑みを浮かべて2人に余裕を見せるも、隣に現れたリュウタロウがなぜかサングラスとマスクを着用していたため、ジュンペイの微笑みが途端に引きつった表情へと変わった。

(え?顔バレ全力で避けるタイプ?自分にだけちゃっかり保険かけるタイプ?こいつ、信用ねぇな・・・)

仲間の装いに一瞬怯みをみせるも、なんとか自我を保ち、ジュンペイはじわりじわりと2人に近づいた。


ジュンペイとの距離が10メートルを切った所で、明人の鼓動は全身に響き渡り、目の前の現実とは異なる映像が視界に映った。

「・・・そうか」

明人がぽつりとつぶやく。


目の前にいる、か弱そうな男の目線がどこか違う世界を見ている気がして、その様子に違和感を覚えたジュンペイが首を少し傾けた。

「おいお前、どこ見てんだ?いっちゃってんのか?」


ジュンペイの問いかけで、明人は声の主を真っすぐに見た。

すると次の瞬間、ジュンペイの脇腹が鮮血に染まった。

それを認識した明人は、イズミの背中を覆うようにして地面に突っ伏した。


訳も分からぬまま地面へ抑え込まれたイズミの震えと恐怖心は極限に達した。


暫くして、頭が真っ白なまま明人に肩を掴まれ上体を起こすと、鷹の目を持つ黒髪の男がイズミの視界に入った。

男は無表情のまま、両手をあげて降参の意を示したサングラスマスク男に銃を向けている。

どちらも不気味さを兼ね備えた男だが、イズミはなぜか、この2人の間に強い絆のようなものを感じた。

そして不思議と、この場面に緊迫感を感じること無く、イズミの恐怖心は徐々に収まりを見せ始めた。



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