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11-3


戸出大臣らとともに会場内に入ると客席はすでに多くが埋まっており、多くの若者から生み出される熱気によって会場内の雰囲気が作り上げられていた。


若者で賑わう会場を、アウェイ感満載な戸出大臣たちは招待客用の席を目指し奥へ、奥へと足を進めた。


「いやぁ、すごい盛り上がりようだなぁ。もしこの場所にスーツで来ていたら、僕たちもっと浮いていただろうねぇ。ははは」

服部氏と戸出大臣が談笑を交えて会場の奥へと進むその前後に、明人と灯凜、ケイ、そして聖沢班長が同行という形でそばを歩く。

服部氏と戸出大臣のすぐ横には紀桝亨、そしてその隣に上原陽臣が付き添う形だ。


「上原君、今日はいきなりの同行業務に巻き込んじゃってすまないね。そのお礼に、今度食事でもどうかな?最近家族で良く行く美味しい店があってね。そこに私の家族も一緒に、どうかな?」

亨はさっそく上原を口説きにかかっている。


「僕たち事務局の職員が、家族水入らずの食事会に招待いただくなんて、大変恐縮です」

「え、いやその・・・とりあえず、上原君だけでも、どうかな」

「そんな、とんでもありません。これは業務ですし、僕たちが官房長からお礼をされる筋合いなんてありません」


笑顔で遠慮する陽臣のせいで話が思うように進展せず、亨は焦りを示す。

その様子を、ケイと灯凜は”何かあるな”と背後から聞き耳を立ててピタッと寄り添う。


一方、明人はというと、渋谷や原宿を彷彿とさせる会場内の雰囲気に圧倒され、キョロキョロしていた。


そんな明人へ向けて、少し前を歩く漆黒の髪の主より「あまり挙動不審な行動をするな」と一言矢が飛んできた。

その様子を見ていた灯凜は、仏頂面で声の主を一瞥した。

(あの偏屈上司め・・今日の同行業務に必須要員でない私たちを、わざわざ呼び出して・・・)



遡ること数時間前、灯凜は明人からランウェイの同行業務に至った経緯を聞き出した。

「昨日、紀桝官房長が後藤局長へ直々に依頼に来たんだけど・・・どうやら、戸出大臣と服部先生への同行は、後付けみたいなんだよね・・」

灯凜のカッと見開いた目を直視できない明人は、困り顔で頬をかく。


「・・と、おっしゃいますと・・?」

まるで井戸から這い上がって来た女から凝視されている気がして、明人は泳いだ目の先を歩く陽臣に顔を向けた。


「この前の取材のネットニュースを、紀桝官房長の娘さんが見たらしいんだ。そしてこの会場の舞台で娘さんが歩く・・」

「要するに、自慢の娘を()()()ために、私たちが巻き込まれたってこと?」

「お見込みの通りです・・」


数メートル先を歩く大臣や官房長の姿を見ながら、灯凜が大きくため息をつき、歩きながら腕を組んだ。

「陽臣くんは今日の同行に必須かもしれないけど、私や明人、ケイは正直いらなくない?」

「うーん、まぁ、戸出大臣と服部先生のお二方が参加とな・・」

「じゃあなんで、猪山副班長と野希羽はいないのよぉ。いっそのこと、みんなで公平に業務にあたればいいと思わない?」

「それは・・聖沢班長の命令で・・」

「はぁ・・明人、なんかごめんね。明人は何も悪くないのについ・・」

勢い余って優しさの塊である明人に八つ当たりしたことで、灯凜は自己嫌悪に陥り声を落とす。


「あ、灯凜は悪くないし、これも俺たちが成長するチャンスかもしれないし、ほら、こんなチャンスを与えてくれた班長に寧ろ感謝だよ!・・ね?」

いきなりシュンとした灯凜の様子に、明人はたじろぎつつも必死に励ます。


灯凜が視線を前に戻すと、コントの様に騒がしい2人の様子に気付いたのか、灯凜にとっての元凶が、こちらに冷たい視線を送って来た。


「あんにゃろう・・・」

入庁以降、だんだん言葉遣いが荒くなってきた灯凜に向けて、恒例化しつつある明人の「静かに」のジェスチャーが飛んできた。




偏屈上司と距離を置きたい気持ちでいっぱいの絶賛ナイーブ中の灯凜は、戸出大臣たちの席から少し離れた位置にて待機をとる形をとった。

灯凜が現在待機している場所はギリギリVIP席(招待客席)の圏内であり、一歩引いた目線で大臣たちを擁護するという建前で、一応待機範囲の場所となる。


少し離れて待機する灯凜の場所からでも、紀桝官房長が陽臣へ必死に取り繕う様子が覗えた。

一体どれほどの美人だから押し売りするのか気になるとこではあるが、後付けの同行とはいえ大臣と先生、そして同行すべき対象ではないが、財閥家の婿である紀桝亨に接触を試みる不届き者が現れないか、気を張る時間であることに変わりはない。


最近はほとんど同行業務に違和感は感じなくなり、自分が置かれた立場を受け入れ”臨機応変”な対応をこなせるようになった自負が芽生え始めた。

それでも判断に迷う時、聖沢班長を見れば的確な指示をすぐさま示してくれる。


ただ、最近の灯凜は、班長に目で指示を仰ぐ回数もぐんと減った。

減った分だけ、それなりに咄嗟の対応が出来るようになった証と言えるため、それが灯凜の自信にも繋がっていた。

まるで雛が巣から旅立とうとしている感覚と似ているな、と思い一人クスっと笑うと、灯凜はふと親鳥の方を向いた。

すると、その親鳥・・鷹の目がこちらを直視しているのに気が付き、思わず目を逸らす。


(えっ?・・何?今はただ待機するだけの時間であってるよね?)

灯凜はなぜだか少し火照った顔を斜め上に向け、それをごまかすように体をひねって後ずさりした。

「きゃっ」

「あっすいません!」

後ずさりのタイミングで、灯凜の後方にいた通行人にぶつかった。

通行人の鞄の中のものが地面に散らばると、2人は慌てて拾い始めた。


「あ」

灯凜は、無造作に拾い上げた関係者入場許可証に記載のある名前を見るなり、思わず声が漏れた。

「こちらこそすいません。お怪我はないですか?」

関係者入場許可証の持ち主である「紀桝美紀」は、気品ある淡い桃色のワンピースにシースルーのボレロを羽織っていた。

「すいません・・許可証の名前の部分、勝手に拝見してしまいました・・」

「ふふ、大丈夫ですよ。それよりお怪我がなさそうで安心しました」

灯凜から勢い良くぶつかったのに、紀桝美紀は注意するどころか優しく微笑んだ。


「紀桝官房長の奥様ですね。官房長のところまで、ご案内します」

「お気遣いありがとうございます。でも主人は大臣たちと共に出席していますから、その邪魔をしたくないんです。私はこの辺りで娘の姿を見ることができれば、それで十分です」


美紀の上品に整った顔から溢れる優しい笑みを見るや否や、さすが財閥家の娘だなと感心し、灯凜は周囲に悟られない程度に小さく頷いた。





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