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9-2


「小橋さん、来月の地区大会についてなんですが」

地区大会当日の送迎と昼食の手配について、部活顧問の小松から何件か質問をされた。


「あぁ、先生いいわよ。その件に関しては、私と会長と他の保護者で調整するから。先生は当日、直接会場に来てくれるだけで大丈夫。学校の仕事もあって先生忙しいでしょうし」


菫は先生に遠慮する形で返事をした。

最後の一言は、少し突き放す気持ちで答えたのは事実だ。


菫は小松と目を合わさず、ニコッと微笑んでその場を離れた。



娘たちの車内での会話を聴いた翌日、菫は小松に電話をかけた。

娘はもちろん、女子部員の身を守りたい一心で電話をかけたが、小松から帰って来た返事は、「女子部員のいたずらの可能性もあるし、しばらく様子をみましょう」というものだった。


3年生の担任をしている30代前半の小松は、教員の中では比較的若い方に属するため、目上の教員を始め保護者やその他多くの地域住民から、力仕事やその他の業務を振られがちである。


教員の労働時間に対する問題もあり、現在は外部顧問に委託する部活動が増える中、バレーボール経験者である小松は、自身のプライベートの時間を犠牲にして、子供たちと熱心に向き合っていた。


多忙な顧問である事に違いはないが、今回の件に、小松先生なら真剣に向き合ってくれるだろうことを期待していただけに、菫の心のダメージは大きかった。


70過ぎの学校警備員に事情を説明し、巡回を強化するようお願いしたが、小松同様に、真剣に取り扱ってはくれなかった。


それならと、大事(おおごと)にしたくない気持ちから、身分を伏せ変装して警察に相談するも、下着の紛失の証明が出来ず、後日現場を確認するという口約束だけで話は終わった。



自身の懸念を払拭できないまま数日が過ぎたところで、菫に()()()な情報が舞い込んだ。


ある日、ボランティア活動を行う女性団体とのミーティングを終えて車に乗り込むと、すみれは息抜きがてら、秘書と車内で雑談を始めた。


公設秘書である深田が、河越議員のネットニュースを話題にすると「河越議員の背後に映る関係者が、超絶なイケメンなんです」と乙女心を満載にして意気揚々と語り、そのネットニュースの画像を、すみれに向って自慢げに見せた。


河越の背後に映る爽やかな青年と不愛想な雰囲気の男は、まるでSPかのように、要人らに同行する姿が度々目撃されていた。


「河越議員は、ここ最近ずいぶんと彼らのお世話になっているそうです。それに、河越議員は彼らに命を救われたって噂まであるんですよ」

「命?」

すみれが訝しむ。


「はい。ここ最近、議員が数名亡くなった話があるじゃないですか。あれ実は、殺害されたって噂ですよ。単独犯の男に。その男が、河越議員の命を狙っていたらしいのですが、彼らに取り押さえられたって話ですよ」


すみれは目を見開いた。瞳孔が輝き出す。


「ねぇ深田ちゃん。その話、もうちょっと詳しく教えて」――



――菫は、先日一週間の出来事を頭の中で振り返っていた。


菫は秘書の深田との雑談から、国家総合事務局に辿りつくことが出来た。

同行の依頼を”ノー”と言わせないため、事前に国家総合事務局について調べ上げたが、立ち上げ2年目の部署は、他のどの部署よりも圧倒的に情報が少なかった。


しかし菫は、国家総合事務局について、自分なりに調べ上げた結果、勝算はあるとみた。


菫は炎上目的で、これまでどうしても世間に向けて言いたかった言葉をこの際にと、自身のアカウントで呟いた。


目論みは成功し、市民が公の場で卵を投げつけてくれた。

火を焚いて煙が出た結果、なんとか職員2人の、同行の承諾を得られた。


今回の同行で、下着紛失の謎が解決されるわけではないだろう。菫もそこまでは期待していない。

ただ、河越議員だけでなく、上矢議員の同行でも怪しい人物を特定し、事件の解決に導いた彼らなら、今回の件で何かヒントを掴むかもしれない。


菫は“小橋すみれ”のやり方で、なんとか解決の糸口を掴もうと必死だった。



菫は食後に白ワインを飲みながら、夫である真一にこれまでの経緯を話し、翌週には内閣府職員の同行付きで学校を巡回する事を気持ち軽やかに話した。


「相変わらずやることが破天荒だな。はは」

そう言うと、真一は日本酒を口にした。


「何かあってからでは遅いの。花音のためなら、私なんだってやるもの。必要があれば、あなたの手も借りるんだから」


真一は苦笑いしながら柿の種をつまんだ。


「それにしても、総理大臣とか大臣の同行をする職員の手を、よく借りられたな。何か裏技でも使ったのか?」


まじまじとこちらを見る真一の目を直視せず、菫は白ワインのグラスを傾けて1口飲んだ。


「ふふっ。参議院議員“小橋すみれ”を甘く見ないでね」

そう言うと、菫は自身の肩を真一に寄せて、ソファにゆっくりともたれ掛かった。


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