表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/64

8-3

※一部暴力的なシーンがありますのでご了承ください※



だるそうにPCに向かうケイの目が、突如キラキラし始めた。


「おい野希羽!なんだその口の色は!」

クレーム案件になりかねないケイの朝の挨拶で、灯凜を始めチーム全員の注目を浴びることになった。


首藤(しゅとう)野希羽(のきは)が唇に色を付けた姿をこれまでチームの誰も見たことがなく、その姿に少し歓声が漏れるくらい、今日は朝から異様な光景だった。

遠くから後藤が一瞥するくらいだ。


「の、き、は♡どうしたどうしたー?」

一番のよしみでしょ、といわんばかりに灯凜が目に星を入れて急接近してきた。


「えヘヘ」と野希羽は笑みを見せるだけで何も言わなかった。要するに照れている。


「お昼、この前話した近くのパスタ屋行くー?もちろん2人でね」

灯凜は、ケイに手であっち行けの素振りをしてみせた。


業務中のためみんな自席で作業をしているが、耳だけは野希羽の方へ向いているようだ。

ただ、マイロは腕と足を組み、素直にこちらを見ている。

真っすぐな視線に耐えきれなくなった灯凜は「ゔへぇ・・」と心の声が漏れてしまい、マイロに背中を向けて小声で野希羽に話す羽目になった。


無駄に高性能な“マイロスコープ”は、灯凜の話し掛けに『うん』と笑顔で頷く野希羽の姿をとらえる事に成功した。




――――――


曾村は絵具筆をパレットに置いて、野希羽と過ごした日々を回想した。

まだ出会って日は浅いが、これほどまでに自分の心の拠り所となるような人に出会えたのは、生まれて2回目(・・・)である。



――曾村(そむら)蒼斗(あおと)の両親は教育熱心で、蒼斗は何不自由なく勉学に励むことができた。

しかし、内気で絵を描くことが好きな蒼斗は、昔から両親と馬が合わなかった。


蒼斗に相談できるような親友はおらず、自身の気持ちを表現することが苦手だったが唯一、母の弟である神園(かみぞの)智樹(ともき)は一人っ子の蒼斗に対し、まるで兄のように接してくれた。

忙しい人ではあったが、蒼斗が辛い時、自身の時間を割いて寄り添ってくれた。


家族よりも家族であった神園にべったりだった蒼斗は、多忙な叔父に頼ってばかりいるなと両親から叱責されて以来、叔父に連絡する機会はめっきり減った。

それでも孤独で苦しい時は、両親に内緒で神園に助けを求めた。

そして、もちろん神園はどんな時でも、蒼斗の心の声に寄り添って励ました。


高校生になった蒼斗は、いつか神園のような、立派な大人になりたいと自信を鼓舞するようになり、勉学へ必死に励み、叔父のような政治家を志した。


試験を控えた蒼斗は、孤独感と苦しさを吐露するメッセージを神園へ送った。

いつもなら仕事の合間に返信をしてくれる神園だが、数日待っても返事が来なかった。

不安から、両親ではなく行政機関へ直接連絡をした。


すると、公務のためエチオピアに1週間ほど滞在すること、安定した電波状況にないことを知らされ、思わず安堵した事を今でも鮮明に覚えている。


しかし、その後の記憶は、蒼斗にほとんど残っていなかった。


断片的だが、喪服の人々と畳、参列者の風景、連日報道される事件を語るコメンテーターの様子、それに耐えきれずトイレに籠り、嘔吐したことは記憶にある。


それ以外の出来事を、蒼斗は覚えていなかった。


事件の一か月後に、蒼斗宛てに匿名で郵便物が届いた。

届いたUSBのファイル名に、『総理に代わり大臣が下した判断』とあり、そのデータは会議する大臣らの映像と、その会議の音声だった。


蒼斗は題名から、“今回の事件を受けて、内閣支持率が更に落ち込み、10%を切ったため、総理は表面的な決裁権のみを持ち、実際には大臣らの意見を尊重したのだ”とファイル名から悟った。


「神園大臣ですが、まだ中堅ながら時期総理へと名が挙がっています。みなさん、これがどういうことかわかりますよね?」

当時の()奥田(おくだ)・文部科学大臣がイライラを募らせているのが声で分かる。


「次の総裁選について、池島派の戸篠大臣は、この前の不倫問題で候補から除外されたし、その2番手の神園を推してくるのはほぼ確実だろう」

当時の佐久(さく)(がわ)・財務大臣が後に続く。


「このままだと、遅かれ早かれ神園は総理になる。アイツは俺たちと考え方がまるで違う。俺たちの今後の立ち位置を考えると、アイツをどうすべきか、わかるよな?」

抑揚のない声で、当時国土交通大臣だった河越(かわごえ)が発言すると、周囲は沈黙した。


その後、当時の柿谷(かきたに)・厚生労働大臣と大松(おおまつ)・農林水産大臣は、河越の顔色を伺うかのように同調する意見を述べると、満場一致で『日本はテロに屈しない、テロリストの多額の要求をのまない』という判断に至った。


全てを聴き終えた蒼斗は涙が止まらず、再びトイレにて嘔吐をした。


こいつらの私利私欲のために、智樹叔父さんは命を奪われたのか?

政治家って、人を蹴落とすために、日々こんな策略のために頭を使っているのか?

これじゃあまるで・・・リンチじゃないか。

あいつらを絶対に許さない・・・。


叔父の(いた)ましい事件から1か月が経過し、未だに整理できない頭の中に、衝撃の事実が入り込んだ事で、蒼斗の心を整えるかのような目標が出来た――



せっかく野希羽との優しい日々を回想していたのに、こいつらの汚い思い出のせいで、2人の思い出に傷がつくところだった。

曾村は、冷たい目で目の前を見る。


そこには、大松(おおまつ)(こう)()衆議院議員と柿谷(かきたに)一郎(いちろう)衆議院議員の怯える姿があった。


「た、助けてくれ。俺は何もしていない。何かの勘違いだ」

大松は震えながら曾村に訴えた。

「おい立て」

大松を無視した曾村は、重りの付いた鎖に繋がれた2人を、キャンバスの前に座らせた。


「やれよ。好きだろ」

笑みを浮かべた曾村が、行為を急かした。

2人は泣きながら首を振る。


「無理です。そんなこと出来ませ」「出来る出来ないじゃない。やるんだよ」

キャンバスの横に備えた鞭を取ると、大松と柿谷をそれぞれ3回叩いた。

痛さで泣き叫ぶ2人の声が部屋に響く。


「これを飲め」

曾村に笑顔で差し出された瓶の液体を飲む以外に、2人に選択肢はなかった。


「さぁ、これで上手く出来るよ」

曾村はキャンバス用の椅子に腰を下ろした。


呼吸が粗くなり始めた2人を眺めながら、曾村はキャンバスに鉛筆を走らせる。

2人が嗚咽(おえつ)し、もがく度に、曾村の筆は軽快に動いた。


数日後、千代田区内の空き家にて火災が発生し、焼け焦げた跡から2人の遺体が発見された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ