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7-4


住宅街を通り抜けると、唐突にその建物は現れた。

大きく構える荘厳な屋敷のすぐ隣にあるアンティーク調の店は、周辺の建物とは異なる雰囲気を持っていた。

外から中の様子を窺うことは出来ない。

隣の屋敷から伸びる(つる)に外観を囲われたその店は、晴れの日でも曇りのような雰囲気を持つ。


10分足らずでここへたどり着けたのは、マイロの友人であるホワイトハッカー・山本のおかげである。

山本に灯凜の追跡を依頼すると、1分待たず情報が返ってきた。

持つべきものは友、いや山本である。


マイロが躊躇なく店に入る。

薄暗い店内には、こってりとした雑貨が並ぶ。

おそらくケイには長居することが出来ないであろう独特な雰囲気を持つその店内には、熱烈な支持者がいそうだ。


レジ奥に足を踏み入れると、屋敷に繋がる渡り廊下が現れた。

明人はマイロへ必死について行く。

扉を開けると、屋敷の奥から音がした。

嫌な音だ。

マイロは一瞬でその音のする扉へと近づき、ためらいなく扉を開けた。



するとそこには、ゴムエプロンを身に着けた細見の男が(なた)を持って立っていた。


異臭が漂うその部屋は、薄暗く、刻まれたせいで何か良く分からないものが、等間隔に並べられている。


男は興奮しているのか、粗い息を吐きながらこちらを見る。


男の側には、灯凜らしき女性が横たわり、血を流しているのが見て取れた。


その瞬間、マイロの目つきが変わる。



マイロは鉈を振りかざした男の腕を避けると、男の顔面に拳で一撃を加えた。

男が勢いよく地面へ倒れ込むと、マイロは落とした鉈を手に取り、それを男の右腕に振り下ろした。

鉈が男の肌を(えぐ)り、鮮血がエプロンを染め上げると男は悶絶した。

男の悶絶と同時に、マイロは再び躊躇なく鉈を左足に振り下ろした。

男は転倒し、更にもがいた。


「待って!待って!」

身体全体を血で染めた男の顔面に鉈を向けたところで、明人の声がマイロに届いた。


マイロは明人の言葉でようやく、力なく赤い地面に横たわる佐藤の姿を認識する事が出来た。


「班長・・・。この人、灯凜じゃないよ。それに・・息がある」

腕から血を流す女性を介抱し止血を試みる明人は、命に関わる危険性がないと判断すると、とめどなく安堵の涙が流れた。


極度の緊張から解かれたマイロは壁にもたれ掛かかった。

119番へ連絡し、警察へかけようとしたところで蘇野原ら公安が現場に駆け付けた。




――――――


「江原さーん!」

灯凜が大きく手を振ってみせると、江原は帽子を気持ち深く被り、小さく手を振ってみせた。


「え?なに?宮本くんはどうしたの?」

ニヤニヤしながら灯凜を見る。

「え?さぁ?帰ったんじゃないですかね?」

まるで他人事のように話してみせると、レジで注文した生絞りモンブランにフォークを入れた。

江原はケラケラと笑った。



――確かに髪ブローチは綺麗だった。

でも自分好みじゃないし、そもそも、このお店のスタイルが自分に合っていない。

宮本が電話対応で店を退店した隙に、灯凜は宮本から解放されるべく店を後にした。

店を出る直前に、店主が自身へ近づいてきた事に気付いた。

接客のため私の元へやって来たのに、逃げるように店を飛び出した事を申し訳なく思った。


しかし、それよりも早く仲間の元へ向かいたい気持ちの方が強かった。

そして、入れ替わりで女性が店に入って行くのが見えると、お客さんとしての機能をバトンタッチした気分になった。


和らいだ暑さとセミの声を背景に、新宿御苑の方向へ向かう灯凜の足取りは軽やかだった。――




――――――


明人は、まだ少し殺気立つ上司を連れてカフェへ向かった。

手当てした女性と佐藤の命に別状はなく、蘇野原とカップルを演じていた公安1課の磯崎(いそざき)と他の職員数名が、佐藤側の救急車に同乗した。



蘇野原ら公安1課の任務のターゲットは、佐藤清彦だった。

数年前に起きた佐藤一族失踪事件に、佐藤清彦が関与している事実にたどり着いたのは約1年前だ。

しかし佐藤を殺人犯として逮捕する決定的な証拠がなく、佐藤の近辺から様子を探っていたところだ。


怪訝な様子で佐藤の店へ入店したマイロたちの報告を部下から受けると、蘇野原は、何がきっかけなのかは分からないが、マイロと明人が何か掴んだと踏み、そして明人たちの命に危険を及ぼす可能性がある事を理由に、急遽突入を決断した。


マイロと明人は正当防衛で片付けられたが、事情聴取のために来署するよう蘇野原に伝えられた。

明人は少し落ち着きたい一心で、蘇野原に後から向かう旨伝えると、返り血を浴びた上司のため、ファストファッションの店へ立ち寄り、その後再び江原の待つカフェへ戻ったのだった。


ガラス越しに江原と女性の姿が見える。

堂々とした様子の女性は、江原と共に口を大きく開けて笑っていた。

明人が隣を一瞥すると、いつの間にか、優しい雰囲気を漂わせた上司が店内を覗いていた。



「灯凜ちゃんのそういうところ、すっごい好きだな。でも多分、僕以上に君の上司が、ね」

「はっ?」

江原のせいで喉に詰まらせそうになったモンブランを、アイスコーヒーで胃に落とし込んだ。

「灯凜・・・また食ってるのか」

背後から嫌な声がして、思わず悲鳴を上げた。


人の食事事情に茶々を入れることはセクハラ、背後にいきなり立つことはパワハラだ、というかなぜ服がさっきと違うんだ、と騒ぐ灯凜に対し、上司は遂に、逆パワハラだと反撃する術を習得した。

事態に収拾がつかなくなると、明人は本日何度目かの仲介に入る。


その様子を傍観して楽しんでいる江原は、高校生に写真と握手を求められ、快諾をした。

灯凜はすかさず、悪意を持ってSNSへむやみやたらにアップするのは控えるよう高校生に注意した。

そして、宮本のせいで鳴りやまないスマホをマナーモードに切り替えると、マイロハラスメントに引き続き応戦した。


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第7話 終了

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