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6-3


アルシオは左腕の傷跡を指でなぞった。


ティハ・ヂュエルとは家が近所で、幼少期からずっと兄妹のように過ごした。

ティハは、身体が弱かったアルシオをずっと側で支えていた。

アルシオは病弱なせいで身体を動かすことがあまり得意ではなかったが勉強は得意だったため、支えてくれるティハへ多くの知識を与えた。

いつしかお互いなくてはならない存在となり、どこへ行くにも2人は一緒だった。


アルシオたちの住む村の貧困問題は特に深刻で、優秀なアルシオは特待生として国内の大学に進学し、在学中から貧困問題解決のための策を考えていた。


ある日、近所の広大な空き地をティハと共に開拓し、そこにコーヒーとなる木の苗を植えた。

この一帯でのコーヒーの木の育成は向いていないという概念を覆す研究に没頭していたアルシオは、広大な空き地一面をコーヒー農園にする自信があった。


そして数年後ついに、カフェインをほとんど含まないにも関わらず通常のカフェインを感じられ、更に比較的簡単に育つコーヒーの木の開発に成功した。


アルシオは自国の貧困改善に繋げるため、コーヒー農園の特許・地元民の大量雇用・コーヒー豆のブランド化を図ることを目標に、大学院にて経営を学ぶ事にした。

コーヒー農園の噂は政府に伝わり、国はそのコーヒー農園の受け渡しを巨額の金でアルシオに迫った。


アルシオは決して首を縦には振らず、ティハと共にコーヒー農園を守り続けた。


そして2人でコーヒー農園を守り続けた約1年後、コーヒー農園の目の前で、数名のカスミバ人の遺体が発見されたことで内戦は勃発した――――



「そろそろ上がりましょう」

護衛の一人に声を掛けられアルシオは我に返った。

「この大浴場のメカニズム、コーヒー農園のアイディアに何か繋がりそうだ。そう思わないか?」

「あいにく、私にはコーヒー農園の事はさっぱり分かりません」

母国語で会話するアルシオたちは、周囲からすると観光客のように見えるだろう。

下半身をバスタオルで覆ったアルシオは、大浴場備え付けの冷凍庫からアイスキャンディを一つ取って食べ始めた。




――――――


関東方面に急カーブした台風の影響で、東京は早朝から雨に見舞われた。

明人は文房具購入のために百貨店内の雑貨店を訪れていた。


「あれ?明人くん?」

購入を決めたボールペンを手にしたところで声を掛けられた。

チューリップハットに色付き眼鏡をかけた姿に最初は戸惑いをみせたが、笑顔で手を振る仕草をみせたところで、やっと江原だと気づいた。


「こんにちは、江原さん」

「明人くん、この店よく来るの?僕ね、文房具の匂いを嗅ぎたくて、ここによく来るんだよねー」

散歩コースに店内巡回が含まれると楽しそうに話す江原に少し驚いたが、明人は自然と笑顔がこぼれた。

「明人くんこのあと暇?下のレストラン街で一緒に夕飯食べない?」


ボールペンを購入した後、2人でレストラン街まで下り、タイ料理の店に10分ほど並んで入店した。


「江原さんはいつまで日本に滞在するんですか?」

「アルシオの件が落ち着いて、2週間くらいは滞在するつもりだよ。その間に、皆にご馳走しないといけないね。演説後はアメリカに帰るまでマイロの家で滞在する予定でいるけど、そう言えばまだマイロに世話になること言ってなかったな。あ、明人くん、是非遊びに来てよ」

「・・今すぐ聖沢班長へ確認した方がいいんじゃないですか?」


社交辞令であって欲しいと願いつつ、念のため、明人は恐る恐るアドバイスをした。

「いや、前日でも当日でも大丈夫だよ。マイロの家さ、僕の家と似て殺風景なんだよ。良く言えばミニマリスト。落ち着くんだよねー。明人くんの敷布団は買っておくよ」


週刊誌を読まないので噂の詳細まで知らないが、テレビやネットニュースを通して、江原瑶介が変わり者であることは知っていた。

日本の資産家ランキングでは近年常に上位だが、世間体や物欲・ステイタスに全く興味がなく、お金の管理は全てマネージャーと税理士に任せている。


普段着は日本大手の某ファストファッション率が高く、某ファストファッションの好調な安定株に彼が貢献していることは間違いない。

実際に江原に会ってみてそれらが本当だと知り、彼に対する好感度が明人の中でますます上がったが、大富豪の変人であるせいか、得体の知れない人物であることに変わりはなかった。


「明人くんは、学生時代何してたの?趣味は?」

パッタイにライムを回しかけながら江原が尋ねた。

「大学の頃は、登山やオンラインゲームにはまっていました。旅行も好きです」

「ふーん。じゃあ高校の頃は?何か部活とかしていたの?」

ナイフとフォークで切り分けたカオマンガイの鶏肉を口に運ぼうとした明人の手が止まった。

「明人くん?」

「実は高校に入ってすぐの頃、事故に遭って数か月入院していたんです。だから部活には入らずに、大学に入るための勉強ばかりしていました」

「そうなんだ。事故って、交通事故?」

「登山中に転落してしまったんです」

「入院先の病院は?」

ピンポイントで質問する江原に思わず戸惑った。


「港区にある敬愛(けいあい)基督(キリスト)総合病院です」

「あぁ、理事長は僕の知り合いだよ。明人君が入院していた時代は、知り合いの父が理事長だったね」

「そうなんですね。さすが江原さん、顔が広いですね。江原さんについての話がもっと聞きたいです」


話題を変えるように明人が江原に質問し始めると、江原は笑顔で質問に答えた。


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