74.「光溢れるステージへ」
何はともあれ、舞台は整った。
リナに始まりレイラちゃん、イオリ、黒沼さん、メンバーみんなが「這い寄る☆ナイトメア」の活動に前向きになり、アルバートの執着、エドマンドの怨念、ゴードンの後悔も少しづつ薄れている。
まあ、イオリはアイドル活動に前向きっていうか私の気を引きたいように感じるし、アルバートも距離は遠くなったとはいえ後方腕組み勢になっちゃった感じはするけど……それはそれ。
前よりはずっと、良い関係に近付けている……はず!
作曲、衣装作り、歌やダンスなど、やるべきことはたくさんあるけれど、むしろ、みんなでやれることは多ければ多いほどいい。
……とにかく。この館はもう、「呪いの館」じゃない。
「這い寄る☆ナイトメア」の本拠地だ!
「チェルチェルー! とーぜんダンスにブリッジは組み込むよね! アドリブでッ!!!」
「うん、ソロパートならいいよ」
本当にリナは変わらない。
……まあ、そのおかげで助かったところもたくさんあるんだけどね。
「こ、ここは悪夢のはざま~♪ 這いずり回りゃ地獄も天国~♪」
「レイラちゃん、歌うまくなってる! よく頑張ったね……!」
「……に、兄さんと、一緒に練習したから……」
レイラちゃんは前よりもずっとはっきり喋るようになり、エドマンドお兄ちゃんはその横で涙を堪えている。
「わが雪辱の果て、復讐の路は僥倖へと結実した(辛いこともたくさんあったが、この日を迎えられて良かった)……!」
こっちは相変わらず変な話し方だけど……そこそこ意味は伝わるようになったし、まあいいか。
「ふふん、完璧に全年齢の歌詞やで。あたしの才能が怖……チェルシー……いお、歌もダンスも頑張る。センターで見てて……えっと、見てろし?」
胸を張っていた黒沼さんが、突然イオリに乗っ取られて湿度の高いギャルになる。……ギャルかなこれ……?
「お嬢! 舞台は仕上げたッス!」
バタバタと走ってくるゴードン。……ゴードンも、前よりもずっと、明るい顔になったね。
「頑張ってください! 俺、ちゃんと用意したッスよ! えーと……なんか光る棒!」
ピンク色のペンライトを両手に持ち、ゴードンは屈託なく笑う。
……ねえ、ゴードン。わたし……ずっと、そうやって笑いかけて欲しかったんだよ。
画面越しに見ていた時も、
窓越しに見ていた時も、
あなたの首に口付けた時だって、ずっと。
「あ、あと、アルバートのやつには黒色の棒渡しておいたッス」
あ、それ黒沼さんカラーだ。
アルバートとは関わりたくないだろうに、黒沼さんのために気を遣ってあげたんだね。成長したね、ゴードン……
「……これで、クロヌマにお嬢専用ソングを……」
ちょちょ、ゴードン! 小声のつもりだろうけど、ばっちり聞こえてるから!
……ほんとに、そういうとこは変わらないよね。
直接言ってくれれば、いつだって応えるのにさ。
……さぁ。いよいよ待ちに待った初公演の時。
ニコラスの姿は見えないけれど、音響として裏方に徹しているはずだ。
ステージの幕が上がる。
観客席はガラガラだけど、ピンクのペンライトを振りかざすゴードンと、紫のペンライトを握りしめて天を仰ぎ、透明な涙を流すエドマンドがはっきりと見える。
後ろの方では、黒いペンライトを抱えて腕を組むアルバートの姿もある。
「……それでは、聞いてくださいな!」
マイクを握りしめ、曲の始まりを待つ。
「這い寄る☆ナイトメアで、ヘブンズ☆ナイトメア!」
ゴードン一人の歓声でも、充分だった。
光り輝く照明が、奏でられるメロディが、心を弾ませる。
わたしのイメージカラーはピンク、リナのイメージカラーは緑、レイラのイメージカラーは紫、イオリのイメージカラーは赤で、黒沼さんのイメージカラーはその名の通り黒。
カラフルな衣装が、ステージの上で舞う。
リナの振り付けは自由すぎるし、レイラちゃんはところどころ遅れているし、イオリの動きもぎこちないし、黒沼さんは気絶してるのか全然出てこないけれど、それでも構わない。
悪夢の物語を終わらせるフィナーレが、ここにある!
曲の終わりとともに、みんなで決めたポーズをビシッと……リナがちょっと早くてレイラちゃんが出遅れてたけど、最終的にはビシッと決める。
割れるような拍手の中、ニコラスの声が聞こえた。
「ヒヒッ、紛うことなきハッピーエンドだ。……礼を言うよ。キミのおかげで、新たな可能性が開拓できた」
その声はわたしにしか聞こえていないのか、周りの誰も反応しない。
……そうか。これで良かったんだ。
ようやく、ハッピーエンドを迎えられ……
「ヒヒヒッ! さて……次のステージに行こうか」
え?
ニコラス、今、なんて──?




