73.「そんなよくある失恋ソングみたいに……」
「わたしは、みんなで楽しみたい」
伝えたい。
届いて欲しい。
そう心から願えば、わたしの館は応えてくれる。
「この館を、みんなが笑っていられる場所にしたいの」
気付けば、碧、赤、黒……さまざまな色の視線が、わたしの方へと一箇所に集まっていた。
「みんな、これまで辛い思いしてきたし、苦しんできたし、呪ったり嘆いたり、奪ったり怨んだり、そういうことばっかりだったじゃん」
なぜ呪うのか。なぜ奪うのか。
考えてみれば、とても簡単なこと。
……満たされないからだ。
「きっと思うところはあると思う。赦せないこと、悔やんでいること、足りないもの、いっぱいあると思う。……でも……そういう自分もひっくるめて、まずは、癒していこうよ」
レイラは、哀しみの水底に沈んだままだった。
エドマンドは、裏切られた傷口から血を流し続けたままだった。
アルバートは、空虚な渇望を抱き続けて飢餓に取り憑かれた。
ゴードンは、愛と正義を見失って、果てのない迷宮に囚われた。
……わたしは、恐怖と絶望をねじ伏せようとして、呑み込まれた。
イオリや黒沼さんも、今は分からないことの方が多いけれど、彼女たちだって彼女たちなりに思うところがあるはずだ。……リナだって、きっとそうだ。
「……ダメ、かな」
……少なくともアルバートや黒沼さんは、何を言われようが自分の欲望を優先するかもしれない。
それでも、やれることがないわけじゃない。
「黒沼さん。とりあえず、曲はアルバート向けじゃなくて全年齢にして」
「なんでや! この燃え盛る愛をどないしたらええねん!」
「そこは個人的にCDに焼くなりなんなりしてもらって……ほら、生前だってR18はR18として楽しんでたじゃん」
「せやけど……」
「色んな楽しみ方ができる方がお得だと思わない?」
「……そう言われたら、せやなぁ」
必死に説得すると、黒沼さんの態度がどんどん軟化していく。
なんやかんやでチョロ……ノリが良いんだよね。黒沼さん。
アルバートはわたしと黒沼さんのやり取りをじっと見つめていたけれど、やがて、静かに踵を返した。
「……どこに行くの?」
その背中に問いかける。
……今度ばかりは、無視してはいけないような気がした。
「僕は、僕の在り方を否定しようとは思わない」
その言葉から、ほのかに未練が伝わってくる。
「けれど……君の在り方も、否定すべきじゃない。そう思っただけさ」
表情はわからない。
けれど、その背中は、どこか寂しげに見えた。
「距離を置こう。僕たちは分かり合えないけれど、僕は、君を好きでいたいんだ」
あれ?
なんで私が振られた感じになっちゃってるんです?




