72.「辿り着いた答え」
アルバート&黒沼さんの暴走が凄まじいけれど、ニコラスいわく……
「まあまあ、カオスになることをキミも求めていたはずだ。悲劇や絶望より、よっぽど……ねぇ? ヒヒヒッ」
……と、邪神なりのアドバイス(?)にも一理あったので、成り行きを見守ることにする。
「話は簡単や。要するに……全員アルバート様の豚さんになりゃええってこっちゃ」
うん。やっぱ止めよう。
黒沼さんを放置していてはいけない。
ハッピーエンド云々以前に、年齢制限が危ない。
「逆だろ。アルバートが豚になりてぇんだろ」
ゴードンのツッコミは至極真っ当……な、はずだけど、アルバートはやれやれと首を振った。
「分かっていないね君は。僕は美しい人に豚として『扱われたい』。しかし、ある意味では僕にとっての人間はすべて豚に等しく、その上で豚よりも上等な食材となれるのは限られた逸材……」
聞いていられなくなったので、思わず口を挟む。
「ニコラス、こいつのセリフ全部にピー音って入れられる?」
「ヒヒヒヒッ、対策が斜め上だね。ヒヒヒッ」
ニコラスは爆笑しながらも透明化を解いて姿を現し、青白い片手を開いてバイオリンを出現させる。
待って? バイオリンからピー音だすの? どうやって?
「僕は『ピー』を喰らいたいけれど、それ以前に『バキューン』されたいし『フワァーオ』されたいし、できれば『ドカーン』したい。わかるかい?」
「ヒヒッ、盛っておいたよ」
「なんで!? どっから出たのその音!?」
「アルバート様……さすがやで……!」
「黒沼さんには何が聞こえたの!?」
「咲良さんの気持ちはわかるで。咲良さんはゴードン単推し過激派夢女かつ同担拒否やろ? せやけどな……二人まとめて抱かれたら、何の問題もあらへん!」
「は? 問題しかないよね」
「大丈夫やて。喰わず嫌いせんと、新刊のアルエド前提アルゴド&アルチェル本をやな……」
ま、まずい。ツッコミも理解も追い付かなくなってきた。
完全に、場の制御権を奪われている……!
「やはり、面白いお嬢さんだ。君と廻り逢えて嬉しいよ」
「あっ、あかん。もう死んでもええわ。いや死んどるけど」
「復讐か……?(訳:そろそろ私が出向くべきだろうか)」
「……兄さん、やめよう。また裸に剥かれる未来が見えてる……」
「チェルチェル!!! ヤバイって!! ブリッジでお茶飲むやり方忘れた!!」
どうしよう。
このまま動揺し、翻弄されるだけじゃ、「怪異」としての格は下がっていく一方だ。
今のわたしは曲がりなりにも「館の支配者」だけど、その力は「レディ・ナイトメア」としての格があってのもの。……並の「怪異」に成り下がってしまったら、もう、私の手ではどうしようもなくなる。
この館は、本来「レディ・ナイトメア」の所有物だ。わたしが弱体化してしまったら、他に支配者たりえる「怪異」は誰になるんだろう?
……その人は、「怪異喰」に太刀打ちできるのかな?
彼女がすべてを平らげる結末を、変えられるのかな?
「ヒヒッ。じゃあ、どうするんだい?」
頭蓋の内側から響くような、ニコラスの嗤い声。
「以前のキミは、こんな時でも支配者然としていたよ」
愉しげな声が、「怪異」としての記憶を呼び醒ます。
それは……
かつてのチェルシーが、「恐怖」で館を制していたからだ。
気に入らなければ首を狩った。
むしゃくしゃしていたら耳をちぎった。
退屈すれば目を抉った。
それが、かつての「レディ・ナイトメア」。
恐怖と悪夢の世界に君臨した「怪異」。
救いのない、絶望の物語に囚われた悪役。
でも。考えてみれば当たり前のことなのだけど。
恐怖を持たないわたしは、ただの少女でしかない。
そうだよ。だから少女は壊れて嘆いて呪って歪んで縋りついた。
暴力を手にして、「怪異」になった。
それが、少女には必要だったから。
「お嬢!」
わたしを呼ぶ声が、意識を現実へと引っ張り上げる。
「次、どうします? 楽しくて前向きな館に、したいんスよね?」
……ああ、そうだね。
あなたはずっと、そうだったね。
傍にいてくれた。
手を差し伸べてくれた。
いつだって、救いを指し示してくれた。
「ありがとう、ゴードン」
「へっ?」
わたしの言葉に面食らったのか、ゴードンは片方しかない目をきょとんと丸くする。
思いっきり背伸びして、その耳元に囁いた。
「大好き」
「え、は……おう!? い、今なんて……」
裏返った声で目を白黒させている彼の脇をすり抜け、部屋の真ん中に立つ。
「みんな!! 聞いて!!」
大丈夫。今度こそ間違えない。
わたしは、独りじゃないんだから。




