57.「ハプニングは待ってくれない」
「お嬢! やっぱり俺じゃダメなんスか!?」
「え、ダメ」
「ぐぅ……っ」
ゴードンは、突然何を言い出してるんだろう。
なんだかめちゃめちゃ悔しそうだし。
「そもそもゴードンは普通に話せるんだから、会話の練習自体必要ないじゃん」
「いやいやいや! エスコートとか全然できないッスよ!」
「え……別に要らなくない?」
そもそもゴードン√にだけは絶対行かせる気ないからね。行きそうになっても本気で阻止するよわたし。
「嫉妬かな……?」
ボソッと呟くレイラちゃん。
……ほう?
「復讐なれど悔恨には値する……同胞よ、来るべき邂逅に備えるべし(訳:練習とはいえ失礼した。後ほど存分に二人の時間を作ってもらいたい)」
しっかりと頷くエドマンド。
……ほほう???
「……えーと……やっぱ何言ってんのかわかんねぇ……」
そして、未だにエドマンドの言葉が理解できないゴードン。
こ、これは……!! 流れが来てるんじゃないの!?
ここで可愛らしくデレて見せることで、ゴードンの好感度がうなぎ上りになって、なんだか良い感じの雰囲気になるんじゃないの!?
よし! やれ! やるんだチェルシー!
これは兄妹が作ってくれたチャンス……! ものにしてみせる!!
「ゴードン、あ、後で……」
その時。
わたしは気付いていなかった。
部屋にいたのは、何も兄妹とゴードンだけじゃない。
背後から忍び寄る「奴」の手が、しゅるりとわたしの腕を搦めとった。
「……!」
場に緊張が走る。
いつの間にやら起き上がっていた男は、焼け爛れた全身を「擬態」することもなく、ただただ無言で立ち尽くしていた。
虚無に満ちた碧眼が、わたしの瞳を捉える。
え、なにこいつ。
喋ってる時より、ずっとこわい。
エドマンドが剣を抜いた音がする。
ゴードンの殺気が伝わってくる。
不気味な笑い声が、廊下の方から聞こえ……あ、これはリナが走り始めただけか……
「あー、ちょっと良いかい?」
と、呑気な声が張り詰めた空気の中に割り込んでくる。
「お客様、そろそろ来そうだよ。ヒヒッ」
えっ。
「館の外の森に、気配があるからねぇ……」
えええっ。
「ヒヒヒッ。さてさて、今回はどうなるかな……」
待って!?
ねぇほんと待って!?
このド修羅場の最中に!?
ど、どうしよう……。
まだ何も準備できてないどころか、問題も山積みなんだけどーーーー!?




